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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第五章 ブエラリカを覆う影/終焉の龍神機現る
69/95

5-2


 特に何事も無く、俺達のヤグ車はブエラリカへと辿り着く。

 こちらにも当然、先に帰還したミンバ軍によって、自国の大勝利は伝わっている。そのせいか、なんだか以前より人も活気も増え、大通りはまるで祭りのような賑わいを見せていた。

 その中をヤグ車で行くのも難しそうなので、俺達はヤグ車を降り、徒歩でリズさんの家へと向かう。


「本当に凄い人の数だな……ん? あれは……」


 海に面した交易都市ブエラリカだからだろうか?

 外国から来たと思われる、今まで見た事も無い、雑多な種族がひしめいている。

 そんな中で、一際目を惹く四〜五人の集団が居た。

 そういう部族なのか、宗教上の理由か何かは不明だが、皆一様に、頭を幅が広い包帯のような布でグルグルと覆い、どういう種族かはわからない。

 何やらヒョコヒョコと左右に揺れながら、まるで飛び跳ねるように歩いていた。


「ぼーっとして、どうしたんですか? お兄ちゃん!」


「おっと……いや、今そこに……あれ?」


 マシロが背後からトンと抱きついてくる。一瞬そちらに注意が向き、改めて見ると不思議な一団は、人混みに紛れたのか、既に視界のどこにも居なかった。


「いや、大した事じゃないよ。皆、人が多いから、はぐれないよう気をつけてな」


 しばらく人を掻き分けるように進んだが、本通りから外れたリズさんの家に着く頃には、それもだいぶまばらになっている。

 家に着き、例のラッパ呼び鈴を押すと、すぐにリズさんが顔を出した。


「おや、おかえり。噂でざっと話は聞いているよ、ずいぶん大活躍だったそうじゃないか」


 すると、ちょうど俺の体で死角になっていたヤルバ爺が前に出てくる。


「久しぶりじゃな、リズ。すまんが、またしばらく厄介になるぞ」


「おや、ヤルバまで来たのかい? ふふ、あんたこの間の術式じゃあ、よくわからなかったけれど、改めて見るとまた老けたようだねえ。これはお迎えも近いんじゃないかい?」


「ふん、いつまでも老けん化け狐の婆さんには言われとうないわい」


 そう言い合うと、顔を見合わせ二人で笑う。以前、ヤルバ爺が言っていた悪友という意味がわかったような気がする。


「さあ、タツヤ達もお入り。離れももちろん掃除してあるから、ゆっくり休むといい」



 離れの自室に戻り、仰向けでベッドに倒れこむ。


「ふう……食べ過ぎたかな」


 俺達が帰ってきたからか、今夜の食事はやたらと豪勢だった。

 そんなリズさんの歓待に残すのも悪いかと、少し無理をし過ぎたようだ。


「ふふん、だいぶ苦しそうだな、マスター」


 俺の胸に座り、俺の顔を見下ろしながらイオスが笑う。


「まあ、ね…………なぁ、イオス」


「ん? なんだ、マスター」


「あいつの言っていた破滅……ってなんの事だろうな」


「ふふ、時折悩んだ顔を見せているから、何かと思えばそれか」


「笑うなよ、これでも結構悩んでるんだ」


「ふむ、アレが奴の妄言虚言の類なのか、本当に何かを企んでいるかは我にもわからん。ただ言える事は一つだけだ」


「……全てを想定し、それら全てに対策を用意し、なお想定外にすら柔軟に対応出来る……心の余裕、か」


 いつだったか、イオスが教えてくれた言葉を思い出す。


「ふふん、よく覚えているじゃないか」


「ああ、いくら考えてもわからない事に、いつまでも囚われていちゃ駄目だな。……うん、ちょっとスッキリしたよ。ありがとう、イオス」


「う、うむ……マスターを助ける事も我の役目だからな」


 照れ臭そうに笑うイオス。

 俺はそんなイオスに笑い返し、人差し指で優しく頭を撫でる。


「ん……マスター……」


 気持ち良さそうに目を細め、黙って撫でられていたイオスが、その小さな両腕で俺の指を抱きしめた。


「案ずるな、マスター。これから何が起ころうとも、我は常にマスターと共に在る。マスターは一人では無いのだ」


「ああ、頼りにしてるよ、相棒」


「ふふふん、任せておくといい。なにせ我は世界最強のドラグーン、だからな」


 笑うイオスと目が合い、二人の間に沈黙が訪れる。しかし、それは決して不快ではない、むしろ心地良い沈黙だった。


ーーバタン!ーー


「あっ!! お兄ちゃん! やっぱり部屋に居ましたよ、リミル姉さん!」


 突然、勢い良くドアが開くとマシロとリミルが入って来た。慌てたように俺の指から離れて、胸から落ちかけたイオスを手のひらに乗せ、上体を起こす。


「二人揃ってどうしたんだ?」


「あの……晩御飯が多かったので、イオス様とタツヤさんが良ければ、皆で夜のお散歩にでも行きませんか?」


「ね、行きましょう、お兄ちゃん」


 マシロに腕を引かれ、立ち上がる。確かに少し腹ごなしに動きたい気分だ。


「わかったよ。遅くならないうちに行こうか」


 立ち上がり、簡単に身支度を整える。すると、肩に乗ったイオスがコソッと話す。


「マスターには、我以外にもこうしてマスターを慕う仲間が居る。だから、何かあればこの二人も頼ればいい」


「そうだな」


「まあ……本音を言えば、マスターには我だけを頼って欲しいのだがな……」


 うつむきゴニョゴニョとしたイオスのその呟きは、しかし俺には届かなかった。

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