5-2
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特に何事も無く、俺達のヤグ車はブエラリカへと辿り着く。
こちらにも当然、先に帰還したミンバ軍によって、自国の大勝利は伝わっている。そのせいか、なんだか以前より人も活気も増え、大通りはまるで祭りのような賑わいを見せていた。
その中をヤグ車で行くのも難しそうなので、俺達はヤグ車を降り、徒歩でリズさんの家へと向かう。
「本当に凄い人の数だな……ん? あれは……」
海に面した交易都市ブエラリカだからだろうか?
外国から来たと思われる、今まで見た事も無い、雑多な種族がひしめいている。
そんな中で、一際目を惹く四〜五人の集団が居た。
そういう部族なのか、宗教上の理由か何かは不明だが、皆一様に、頭を幅が広い包帯のような布でグルグルと覆い、どういう種族かはわからない。
何やらヒョコヒョコと左右に揺れながら、まるで飛び跳ねるように歩いていた。
「ぼーっとして、どうしたんですか? お兄ちゃん!」
「おっと……いや、今そこに……あれ?」
マシロが背後からトンと抱きついてくる。一瞬そちらに注意が向き、改めて見ると不思議な一団は、人混みに紛れたのか、既に視界のどこにも居なかった。
「いや、大した事じゃないよ。皆、人が多いから、はぐれないよう気をつけてな」
しばらく人を掻き分けるように進んだが、本通りから外れたリズさんの家に着く頃には、それもだいぶまばらになっている。
家に着き、例のラッパ呼び鈴を押すと、すぐにリズさんが顔を出した。
「おや、おかえり。噂でざっと話は聞いているよ、ずいぶん大活躍だったそうじゃないか」
すると、ちょうど俺の体で死角になっていたヤルバ爺が前に出てくる。
「久しぶりじゃな、リズ。すまんが、またしばらく厄介になるぞ」
「おや、ヤルバまで来たのかい? ふふ、あんたこの間の術式じゃあ、よくわからなかったけれど、改めて見るとまた老けたようだねえ。これはお迎えも近いんじゃないかい?」
「ふん、いつまでも老けん化け狐の婆さんには言われとうないわい」
そう言い合うと、顔を見合わせ二人で笑う。以前、ヤルバ爺が言っていた悪友という意味がわかったような気がする。
「さあ、タツヤ達もお入り。離れももちろん掃除してあるから、ゆっくり休むといい」
◆
離れの自室に戻り、仰向けでベッドに倒れこむ。
「ふう……食べ過ぎたかな」
俺達が帰ってきたからか、今夜の食事はやたらと豪勢だった。
そんなリズさんの歓待に残すのも悪いかと、少し無理をし過ぎたようだ。
「ふふん、だいぶ苦しそうだな、マスター」
俺の胸に座り、俺の顔を見下ろしながらイオスが笑う。
「まあ、ね…………なぁ、イオス」
「ん? なんだ、マスター」
「あいつの言っていた破滅……ってなんの事だろうな」
「ふふ、時折悩んだ顔を見せているから、何かと思えばそれか」
「笑うなよ、これでも結構悩んでるんだ」
「ふむ、アレが奴の妄言虚言の類なのか、本当に何かを企んでいるかは我にもわからん。ただ言える事は一つだけだ」
「……全てを想定し、それら全てに対策を用意し、なお想定外にすら柔軟に対応出来る……心の余裕、か」
いつだったか、イオスが教えてくれた言葉を思い出す。
「ふふん、よく覚えているじゃないか」
「ああ、いくら考えてもわからない事に、いつまでも囚われていちゃ駄目だな。……うん、ちょっとスッキリしたよ。ありがとう、イオス」
「う、うむ……マスターを助ける事も我の役目だからな」
照れ臭そうに笑うイオス。
俺はそんなイオスに笑い返し、人差し指で優しく頭を撫でる。
「ん……マスター……」
気持ち良さそうに目を細め、黙って撫でられていたイオスが、その小さな両腕で俺の指を抱きしめた。
「案ずるな、マスター。これから何が起ころうとも、我は常にマスターと共に在る。マスターは一人では無いのだ」
「ああ、頼りにしてるよ、相棒」
「ふふふん、任せておくといい。なにせ我は世界最強のドラグーン、だからな」
笑うイオスと目が合い、二人の間に沈黙が訪れる。しかし、それは決して不快ではない、むしろ心地良い沈黙だった。
ーーバタン!ーー
「あっ!! お兄ちゃん! やっぱり部屋に居ましたよ、リミル姉さん!」
突然、勢い良くドアが開くとマシロとリミルが入って来た。慌てたように俺の指から離れて、胸から落ちかけたイオスを手のひらに乗せ、上体を起こす。
「二人揃ってどうしたんだ?」
「あの……晩御飯が多かったので、イオス様とタツヤさんが良ければ、皆で夜のお散歩にでも行きませんか?」
「ね、行きましょう、お兄ちゃん」
マシロに腕を引かれ、立ち上がる。確かに少し腹ごなしに動きたい気分だ。
「わかったよ。遅くならないうちに行こうか」
立ち上がり、簡単に身支度を整える。すると、肩に乗ったイオスがコソッと話す。
「マスターには、我以外にもこうしてマスターを慕う仲間が居る。だから、何かあればこの二人も頼ればいい」
「そうだな」
「まあ……本音を言えば、マスターには我だけを頼って欲しいのだがな……」
俯きゴニョゴニョとしたイオスのその呟きは、しかし俺には届かなかった。




