2→3 ②
食事を終え、皆揃って家に帰る。
そうして離れの家には入らず、そのままリズさんの工房を訪ねた。
「来たのかい。さあ、お入り」
既に何度か訪れた工房の中は相変わらず雑然としていて、あちらこちらに魔装甲冑のパーツと思われる物が散乱していた。
「三人に見せたい物はこの奥さ」
リズさんに連れられ着いたのは工房の奥、かなりの大きさの倉庫のような場所にそれはあった。
「これは……日本刀?」
確かに抜き身で吊されたそれは、俺が元居た世界の日本刀に形状が酷似していた。やや幅広い片刃の刀身は反り、その表面には刃紋まで出ている。
鍔に玉のような形状をした物が五つグルリと付いている以外は、間違いなく日本刀そのものと言っていい。
もっとも、その巨大さは規格外といっても良く、おそらく全長は魔装甲冑の背丈より少し短い程度じゃないかと思われる。
もし、これを武器として扱うならば、間違いなく魔装甲冑……それもかなりの膂力を持った機体に限られるだろう。
「ふむ、ニホントウという物がどういう物かは知らないが、これは遺跡から発掘された物で、古代の魔装甲冑用刀剣である事は間違いないだろうね……さて」
巨大日本刀を見上げていたリズさんが、突然向き直ると手を後ろで組み、まるで講義をするかのように話し出した。
「君達も知っているように、通常の魔装甲冑は皆、大気中の魔素を核と呼ばれる場所で吸収蓄積し稼働するのだが……ん? なんだい、タツヤ」
教師口調で説明を始めたリズさんに、俺も思わず挙手をしてしまう。
「すみません、リズさん……俺、魔装甲冑の動力とか知らなかったもので……」
「構わないさ。タツヤにもわかるように説明するが、もしそれでもわからない場合は、その都度質問を受けよう。それでいいかい?」
俺が頷くとリズさんも頷き、更に話を続ける。
「内部に魔素を吸引蓄積する核を有し、その力で稼働する……これはほぼ全ての魔装甲冑が当てはまる。ほぼ全てというのは、勿論例外が存在するからだね。君達の身近ならイオスちゃんやシルフィのタービュレンスがそれだ」
「あれ、イオスは違うのか?」
「当然だぞ、マスター。我の体は結晶を通じて異界より汲み上げた力を、タービュレンスの場合は元々は他と変わらなかっただろうが、今は霊王結晶自体から力を得ている。いちいち周囲から掻き集めて……なんて面倒な事はしていないな」
「説明ありがとう、イオスちゃん。さて、この武器……タツヤの言葉を借りるならニホントウだ。元々は魔装甲冑から供給される魔素で、強度と斬れ味を高めるように造られた物のようだが、そこに……鍔の部分に球状の物体があるだろう? あれを私が取り付けたのさ」
「リズさん、あの球って一体?」
「あれこそがさっき話した魔装甲冑の核だよ、タツヤ。吸収能力と蓄積量に特化するよう調整し、周囲を覆った物だ。これで何が出来るかというと……リミル、何でもいいからニホントウに強力な攻撃術式を撃ってくれないかね?」
「えっ!? だ、大丈夫なんですか?」
突然の指示にリミルが驚く。だが、リズさんは余裕の表情で頷くだけだ。
「うぅ……知りませんよ? それじゃあ、いきますっ! 術式発動! 水撃槍!!」
既に見慣れたリミルお得意の水槍が、真っ直ぐ巨大日本刀に向かって飛ぶ。そのまま激突するかと思った瞬間……
ーーシュウゥゥゥーー
「えっ!?」
水槍が、まるで幻だったかのように跡形も無く日本刀の手前で霧散する。驚く俺達を満足気に眺めながら、リズさんが解説を始めた。
「と、この様に周辺の魔素を急速に吸収するので、撃たれた術式もその構成を阻害され無効化される……簡単に言うと相手の術式を吸収出来るのさ。今は核一個のみの使用だったが、おそらく三個程度の並列解放で魔装甲冑クラスの術式無効、全て解放すれば周囲に一時的な魔素の空白空間を作れるだろうね」
「ほう、そして吸収すればする程、このニホントウとやらは強度と斬れ味を増す……そういう事だな、リズ」
俺の肩の上でイオスが興味深そうに唸る。
「その通り。理論上、本来ニホントウに魔装甲冑一体から供給される魔素が、完全解放ならば単純計算で五倍超集まる計算になる。その威力は凄まじい物だが、同時に問題も生まれてね」
「問題って?」
「ああ、並みの……つまり大気から魔素を吸収する魔装甲冑の場合、ニホントウの完全解放に伴う周辺魔素の枯渇で、魔素切れ又は稼働時間の大幅な低下が予想される。だから、折角所持していても完全に使いこなせなくなるのさ」
「なるほど、自分が使いたい分も吸われてしまうのか……」
「そう、そこでだ。並みの魔装甲冑では無いタツヤとイオスちゃんにこのニホントウを託したい。君達ならば、この武器を最大限活かせるだろう。もっとも、友軍の近くでは解放も程々にして欲しいがね」
「ああ、良くわかった。マスター、こいつは中々面白い。有り難くいただこうじゃないか!」
「……そうだな。リズさん、この刀有り難く使わせて貰います!」
「気に入って貰えたなら良かったよ。そうだ……折角伝説の黒龍であるイオスちゃんが扱うなら、このニホントウにも良い名を付けてやるとするかね」
リズさんはそう言うと、少しだけ考えポンと手を打つ。
「魔素を喰らう龍の剣……うむ、このニホントウを餓龍剣と名付けよう」
「餓龍剣……うむ、なかなか良い名だ。それでいいな、マスター!」
リズさんの提案にイオスが目を輝かせ飛びつく。餓龍剣とは、少々気恥ずかしい名前な気もするが……まあ、イオスが気に入っているなら、それでいいか。
「ああ、俺は構わないぞ、イオス」
「ふふふん、決まりだな。よしっ、それでは我も一肌脱ぐとするか」
そう言うと、イオスはリミルの体に戻り、胸の結晶に手をかざす。
途端に餓龍剣へ虚空から現れた黒い触手が伸び、そのまま刀身と鍔の核へ、まるで染み込むように浸透していく。触手が全て入り込むと、餓龍剣は漆黒の日本刀へ変化していた。
「我の力を餓龍剣に加えておいた。これでこいつの能力は更に数段高まったはずだぞ」
「ありがとう、イオスちゃん。おそらく帝国との開戦も近いだろう……皆、ミンバを頼んだよ」
リズさんの言葉に俺達は大きく頷いた。




