2-終
「さて、話を戻してもいいだろうか? ……こうして私は、君達がしてくれた事のほとんどを知っている。その上で、ミンバの王として言おう。私は君達を信頼する」
真っ直ぐに俺を見つめたまま、ブライアン王は断言する。その力強い瞳に俺は頷いた。
「信頼……確か、商人にとって金や商品より大切な……」
あの日の遺跡跡でゴルディが言った言葉を思い出す。俺の返答を聞きブライアン王も満足気に頷いた。
「そう、私達はそれを何よりも重視する。そして、君達がこの街で行い積み上げた物は、十分それに値する行為だ。故に、私は君達を信頼する。その事を君達に知ってもらった上で、これからの事を話したい」
俺とリミルが頷くと王が続ける。
「まず、最初に確認したいのだが……タツヤ、君達はミンバと共に帝国と戦ってくれるとリズより聞いたが……それは真実かな?」
「ええ、ただしミンバ軍の指揮下に入る訳では無く、あくまで共闘である……そう認識してください」
「うむ、その事については徹底させよう。帝国との戦争が避け得ぬ状況となってきた今、君達の助力はとても助かる。次に、君が連れているイオスという存在についてだ」
「ふむ、当然我の事も知っているか」
イオスが俺の羽織の中から卓に上がる。事前に報告を受けていたであろうブライアン王は、特に驚く様子も無いようだ。
「単刀直入に尋ねよう。貴女はかつて伝説となった黒龍様の復活した姿では?」
俺とリズさんの視線が一瞬交差する。イオスはそんな俺に構わず胸を張って答えた。
「そうだ。我こそ伝説の黒龍、イオス・ドラグーンだ」
そうだ、それでいい。確かに当初は余計な混乱を避けるため、イオスとドラグーンを黒龍そのものではなく、それに似た強力な魔装甲冑という事にしようと話していた。
しかし、先日の白龍復活を確信させる白騎士達の襲撃を受け、そう悠長に構えている暇は無くなったと思った方がいいだろう。あの日の夜、俺達とリズさんは国王にイオスの事を話す、そう決めたのだった。
「やはり、そうか。まあ、そうでもなければ、白龍様に飲まれた虎楼閣を取り戻す事も不可能だったろう」
「ああ、その事についてだが、王に我から一つ提案がある」
「提案?」
「今後、帝国と事を構える時に、またああいった手段を取られるのも煩わしい。そこで、この国の魔装甲冑全てへ、予め我が体の一部を注入しておくのはどうだ? それならば、次に同じ事があっても防げるぞ」
「ほう……それは、逆に黒龍様がミンバの魔装甲冑全てを取り込む事も可能なのではないかな?」
笑顔は絶やさず、鋭い眼光でイオスを見るブライアン王。しかし、イオスはそんな視線を全く気にしないで言い放つ。
「うむ、可能だ。だからこその提案、だな。我は我が体であるドラグーンとリミル、そしてマスターがいればいいから、元より他の魔装甲冑なぞに興味はない。後は、それを信じ採用するもしないも、そちらの好きにすればいいさ」
「よし、ならばその提案受けよう」
「い、いいんですか?」
即決しイオスの提案を了承したブライアン王に、思わず声をあげてしまう。王は、そんな俺を見てニヤリと笑った。
「いいのさ、タツヤ。私は私自身の目利きと、己の不都合な情報をあれだけ堂々と語れる黒龍様を信じる……これもまた、信頼だな。まあ、もっとも提案を蹴った所で、他に何か有効な選択肢があるとも思えんが」
「ふん、決まりだな。なに、マスターの味方であるお前達を悪いようにはしないさ。安心するんだな」
「では、その件は至急手配しよう。最後に帝国の白龍様復活と、そこより生まれる白い魔装甲冑、通称白騎士についてだが……」
「それについて、私……いや、彼から話がある」
リズさんはそう言うと、一つの瓶を取り出す。瓶には透明な液体が満たされ、リズさんがその蓋を開けると、中の液体が自動で外に飛び出し、形を成した。
「これはブライアン王陛下、お久しぶりですな」
「ああ、ヤルバも変わらぬようで何よりだな」
「ヤルバ爺!?」
「お爺ちゃん!」
小さなヤルバ爺の形になった水は、ゆらゆらと揺れながら話しだした。その姿に俺とリミルが驚くと、液体のヤルバ爺がこちらを向き微笑む。
「リミル、タツヤ殿、元気そうで何よりじゃな。驚く事は無い、帝国の地より意識をここに飛ばしておるだけじゃよ」
「なるほど、今の我と同じような状態になる術式か」
「ご明察通りですな、黒龍様。……さて、儂が帝国王城内に潜り、わかった事じゃが……」
そうしてヤルバ爺は帝国内部、それも白龍に関する事を話す。肝心の白龍は発見できなかったが、王城地下にて生み出される白騎士の素体、その生産工場の様子と生み出される数が日に日に増えつつあるという報告は、皆の表情を強張らせた。
「ヤルバの報告を聞いた通り、最早ミンバに猶予は少ない。帝国が十分な力を揃え次第、こちらを侵略するのは明らかだ」
ブライアン王は、立ち上がり皆を見回す。
「よって、黒龍様による組織注入が済み次第、ミンバは帝国へと進軍する!」




