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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第二章 商業国家ミンバ/吼えよタービュレンス
37/95

2-18


 王への謁見日は意外に早く、四日後に決まった。おそらく、リズさんが急いでくれたのだろう……まだ落ち着かないブエラリカの街を見て、俺はそう思う。

 謁見までの間、俺とリミルは、コルト達自警団と一緒に街の復興を手伝っていた。

 少なくとも謁見までは目立たないように、黒龍を出して……という訳にもいかず、俺はスーツの力で瓦礫の除去のような力仕事を、リミルは主に炊き出しとして協力した。そうしておとずれた三日目の朝……。


「起きる、にーちゃ、起きる」


 何か小さいものが頬をペチペチ叩き、俺の眠りを妨げた。


「ん…んん? イオスか? もう朝か……」


 寝ぼけ眼の目を擦り開ける。目の前にはいつもよりいくぶん小さくなった全身黒では無く真っ白なイオスが、俺の胸の上に立ち、こちらを見ていた。


「いお、す?」


「ん、どうしたんだ、イオス?」


 白いイオスがキョトンとした顔で小首を傾げる。白い姿もそうだが、普段とはかけ離れたその仕草に、俺は強烈な違和感を覚える。


「タツヤさ〜ん、まだ寝てますか? 朝御飯ですよ〜」


 その時、リミルが部屋に入ってくる。その肩には当然のように黒いイオスが座っていて……。


「あ、あれ? タツヤさん、イオス様が……二人?」


「マスター! そいつを逃がすなっ!」


 俺の上に居る白イオスに気付くと、黒イオスがそう叫び、俺が反応するより早く胸の上に飛び乗る。逃がすなと言われたが、白イオスは相変わらずキョトンとした顔で俺や黒イオスを見ているだけで、逃げる素振りは無い。


「む? ……妙だな……」


 その様子に黒イオスも怪訝そうな表情を見せ、白イオスに近づくとオデコにぴたりと触る。


「何かわかったか、黒イオス」


「何だ、その黒イオスとは。イオスは我だけだぞ、マスター……こいつは、白龍だ」


「え? 白龍!?」


「うむ、ただしこの体のみ、な。どういう訳か中身は空っぽのようだ……おい、お前は何をしにここに来た?」


 イオスが白龍に問いかける。白龍は少し考えた後、俺を指差した。


「にーちゃ、一緒、おいで、言った」


「あ! お前は虎楼閣の中に居た子か!」


 気づかないわけだ。あの時の姿は、目や口の無いツルリとした顔の白い少女だった。しかし、今は白く一回り小さい以外はイオス……つまりリミルと同じ顔立ちをしているのだから。

 と、同時に嫌な予感がする。虎楼閣戦後のイオスは白龍の匂いであれほど騒いでたんだ。本体がいるとなると……。

 しかし、恐る恐る見てみると、イオスは特に怒る様子もなく、白龍の体をペタペタ触り続けている。


「ふむ……今こいつを色々と調べてみたが、どうやら我が虎楼閣を乗っ取る過程で、白龍との繋がりそのものは切れているようだ。マスターが連れて来たこいつだけが、我に喰われずマスターの中に残り……ほら、逆にそれを喰らって体を構成したらしい」


 イオスが俺を、正確には俺のスーツを指差す。もともと着ている事を忘れるような着心地で、気づかなかったが、何箇所か大きな穴が空いていた。


「我と姿が同じなのは、我が体でもあるそれから読み取ったのだろう。何にせよ、白龍との繋がりもない今のこいつは、只の無害な小動物に過ぎんな」


「そうか……で、どうしたらいいんだ?」


「さてね。煮るなり焼くなりマスターの好きにするといい。もし連れ歩くつもりなら、食事を与える事だ。白龍との繋がりも無く、核も持たないこいつは、食物摂取でしか生きられんだろう」


「殺すというのは可哀想だし、一緒に連れて行こうと思うけれど、イオスはそれでいいのか?」


 やはり、この間の事が気にかかる。が、イオスはこちらをチラリと見ると、気まずそうに頭を掻いた。


「あ〜、その……なんだ。マスターの契約した相手は白龍では無く我なんだと、その事をマスターが忘れずにいるなら、我の寛大な心で多少の事には目を瞑ろう」


「なるほど、わかったよイオス、ありがとうな。それで……えっと……白龍の名前ってなんて言うんだ?」


 イオスの頭を人差し指で撫でながら尋ねる。さすがに人前で白龍呼びはマズイだろう。黒龍の魂にイオスという名前があるのなら、白龍にだってあるはずだ。


「白龍の名前ならコスモ・ドラグーンだ。しかし、いいのかマスター? そいつは既に白龍では無いぞ?」


 白龍で無いなら白龍の名で呼ぶのはおかしい、イオスが言いたいのはそういう事か。


「それもそうか……う〜ん、じゃあお兄ちゃんが君の名前付けてもいいかい?」


 白龍にそう尋ねると、白龍は大きく頷き笑う。


「にーちゃ、名前、つける」


「そうだなぁ…………マシロ、白いからマシロってのはどうかな?」


 そう言うと、白龍……マシロは笑顔で頷き、マシロマシロと何度も歌うように口ずさんだ。


「気に入ったみたいですね! 可愛いお名前貰って良かったね、マシロちゃん」


 リミルが手を差し出すと、マシロは一瞬こちらを見た後、ポンッとそこに飛び乗る。


「さあ、皆で朝御飯にしましょうね。マシロちゃんにも私が御飯あげますからね」


 こうして、俺達に新しくマシロという仲間が加わったのだった。

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