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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第二章 商業国家ミンバ/吼えよタービュレンス
36/95

2-17

「なるほど……な。ブライドは死んだかい。馬鹿な子だね……」


 食事を済ませ食卓に座ったまま、今朝からの一部始終をリズさんに話す。

 白騎士達の街への襲撃、虎楼閣が白龍の力で奪われた事、王様が無事な事、そして虎楼閣の中でのブライドとの会話と死、虎楼閣奪還を話すと、リズさんが哀しげに目を伏せた。


「リズさんはブライドの事、知ってるんですか?」


「ああ、王とその周辺は一通り知っているよ。もちろん、ブライドの事も小さな頃からね。……しかし、あの子の中に、そんな想いがあったとはついぞ知らなかった。気付いてやれなかった事を悔やむよ」


「リズさん……」


「……が、それはそれとして、だ」


 伏せていた顔を上げ、リズさんが俺達を見回す。ブライドへの気持ちも切り替えたようだ。この切り替えの早さは、研究者であり技術者でもあるリズさんらしい。


「皆、良く王とブエラリカを守ってくれたね。王の知人として、何より一人のミンバの民として礼を言うよ、ありがとう」


「いえ。あの白騎士……おそらくブライドとゴッチェ商会の裏には帝国が絡んでいると見て、まず間違いないと思っています。既にお話したように、帝国は俺達が戦わなければならない相手ですから」


「それも含めて、君達を王に早く引き合わせないといけないね。とは言え、今日の事で明日すぐにとはいかないだろうが……帝国の動きが読めない今、なるべく急ごう」


「よろしくお願いします」


「ああ……ところで、話は変わるんだが……」


 リズさんは少し言いにくそうに、俺とイオスを交互に見る。


「何だ、リズ? 我の顔に何か付いているのか?」


「これは失礼。タツヤ、一つ聞きたいのだけれど……君とイオスちゃんは、普段からあんな痴話喧嘩をしてるのかい?」


「なっ!!」


 思わず大きな声が出てしまった。さっきのやり取りを見られていたと思うと、どうしても顔が熱くなる。

 見るとイオスは平然とし、何故かリミルが顔を赤らめていた。


「さっきのは別に……ち、痴話喧嘩ってわけじゃあ……」


 ゴニョゴニョと言う俺の言葉を遮るように、リズさんが手を挙げ俺を制する。


「あ〜、男女の心の機微とか、そういう意味での質問では無いんだ。つまり、ここに居るイオスちゃんが本当にあの、伝説に謳われた破壊と死を司る黒龍ならば、これはまた随分と印象が違うと思ってね」


「ふふん、そんな事か」


 イオスが卓上に座りなおし笑う。


「そもそも、伝説などと言う物は、我と白龍の力を理解出来ぬ者が、己の想像で補完し描いた只の物語。確かにそのに中にも真実が含まれるだろうが、全てがそうとは思わぬ事だ」


「そのようだね。では、イオスちゃんは昔……神話の頃からそういう性格なのかな?」


 学者特有の知的好奇心に光る目で、イオスをリズさんが見る。

 そういえば、この人の研究対象は魔装甲冑だった。

 超級の魔装甲冑とも言えるイオスとドラグーンの事なら、そりゃあ興味も湧くだろう。

 そんなリズさんの質問に、意外にもイオスが考え込む。


「う〜む……正直な所、眠りにつく前の記憶は、我が片割れである白龍の事や、基本的な事柄を除いて、大分朧げでな。ただ、我は戦う為に生まれ……本来はこうではなかった……そう感じる」


 そう言うとイオスはリミルとその胸元にあるであろう結晶の場所を見る。そして、俺に視線を移すと愉快そうに目を細めた。


「おそらくは……リミルと交わった事でリミルの影響を受けたのかもしれん。もしくは、マスターのお人好しがうつったか……何れにしても、我は今の状況も、今の我自身も、そして何より今のマスターも気に入っているよ」


 イオスの言葉に俺は再度赤面し……誤魔化すように頬を掻いた。



「ブライド様が戦死!? 間違いないんですかい?」


「うむ、虎楼閣を手に入れる事は出来たが、邪龍にの」


 ゴッチェ商会奥の間に、ルーベの悲痛な声とダイトルの呑気な声、対照的な二つの声が交差する。


「何と! 何と! 全てはこれから……そう、これからだったってのに……ダイトル殿っ! 帝国はこの件について何か無いんですかい?」


「別に、何も無いわな」


 あっけらかんとしたダイトルの返答に、ルーベは一瞬呆然とするが、すぐに気をとりなおしダイトルにすがる。


「わ、わ、私の身は? ブライド様の後見無くして、もはやミンバでやっては……」


「くくく……のう、ルーベ・ゴッチェ殿。御主は己の全てをブライドという男に賭け、それが失敗したんじゃ。ここは潔う負けを認めるのが、商売人じゃないかの?」


「ダイトル殿? な、何を言ってるんですかい?」


 不吉な笑みをこぼすダイトルに、ルーベの体は引きつり数歩後ずさる。ダイトルはそんなルーベを見もせずに、左手をルーベに向けた。


「術式発動、絞石呪」


 ルーベの周囲に三本の石柱が現れる。硬質なはずのそれは、ひとりでに粘土のように捻れながら絡み合い、だんだんとルーベを圧迫していく。


「実際、御主達は良くやったよ。儂に邪龍の能力を見せてくれ、光輝甲冑の実戦試験と改良点の洗い出し、光龍様の組織を使用した魔装甲冑の洗脳実験……いやはや、なかなか有意義だったわい」


 圧迫されつつあるルーベを見ながら、ダイトルは嬉しそうに語る。


「どうせならついでに、虎楼閣か邪龍、それかミンバの王辺りが消えてくれると、もっと良かったんじゃが……まあ、御主達のような凡夫にはこの程度で御の字じゃな」


「実験? 実験だとっ!? てめえ最初から俺達を!!」


「ああ、騙しとったよ。悔しいなら、騙され利用された己の不出来を恨むんじゃな……おや? もう聞こえんか? ふっはっはっは」


 ゆっくりじっくり、術者の底意地の悪さが滲み出たかのように、石柱はルーベの体を出来るだけ長く生かしながら締め上げ変形させていく。

 ルーベは、既に血の塊となって音にならないダイトルへの呪詛を、ゴボゴボと喉より溢れさせ、自らの体が砕け潰れる音を聞く。

 そうして命の火が完全に消える瞬間、ルーベの心に浮かんだのは、不思議にも己が不要と切り捨て、ダイトルに売り払ったグスズ達だ。


「…………!!」


 ルーベは声にならない声で何かを言おうとした。が、それが何だったかを彼自身が知るよりも早く、石柱がその脳と心臓を押し潰した。

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