2-14
「これならいけるっ!」
「阿保! 油断するなっ、マスター!!」
瞬間、腕を切り離した肩の切断面の白い肉が盛り上がり、俺目掛けて急激に伸びる。イオスの声で咄嗟に上半身を屈め避けると、虎楼閣の体を蹴り後方へ飛んだ。
『ぬぐぅぅ……腕……腕……俺の腕……』
ボンヤリとした仕草で虎楼閣が己の左肩と、そこから生えた白い触手を眺める。どうやら現在、王弟本人の意識は夢見るようにおぼろげらしい。
触手が伸び、切り飛ばされた腕から槍と剣を拾うと、歪ながら腕の形に変形し再度武器を構えた。
「流石にそう簡単にはいかないか……だけど、流石にこっちは復活しないな」
チラリと切り飛ばし転がっている腕を見る。そちらは一向に動く気配は無い。
「おそらく、白龍の組織片は虎楼閣の核に根付いて、操手ごと動かしているのだろう。先のマスターがやったように、一旦切り離されてしまえば、もう動かせないな」
「で、でも、何回斬ってもああして復活しちゃうんじゃ無いですか?」
リミルの言う通り、多少斬った所で新しく生えてくるだけだろう。動きだした虎楼閣の、新旧四本の腕から繰り出される攻撃を回避しながら考える。
「そうだな。なら、あのハイパーノヴァで全部まとめて吹き飛ばす……ってのはどうだ?」
狼牙を丸ごと吹き飛ばしたあの攻撃なら、間違いなく虎楼閣の巨大な全身すら一度に消し去れるだろう。
「ふむ、確かに奴は狼牙程の速さでは無いし有効だろうな。ハイパーノヴァストリーム以外にも、幾つか有効な兵装もある。だが、あれだけの巨体を打倒するんだ。どれも街中で撃つような物では無いが、マスターはそれでいいのか?」
「あっ……」
周囲の建物を見る。この中に今、避難出来ず震えているブエラリカの人々が居ないと言い切れない以上、あんな力を解き放つべきじゃ無い。
「……我の体、ドラグーンの行動を決定するのは、操手であるマスターの意思が全てだ。我が言えるのはそれだけだな」
「ああ、わかったよ! とりあえず、それ以外の方法でどうにかしてみるさ!」
段々と速度を増す虎楼閣の攻撃だが、まだまだ俺の思考速度とドラグーンの動きの方が速い。既に雨のように降り注ぐ剣撃の中で、俺は勝機を探る。
『術式発動! 縛華岩!』
『術式発動! 空縮陣!』
同時に発動された術式が虎楼閣を襲う。上半身を超高圧に圧縮された大気に、下半身の獣を大地から生じた岩石の華と蔓に、それぞれミシミシと装甲をきしませながら力強く拘束される。
『へへ、お待たせっ!』
『なかなか苦労してるじゃないか。まあ、ミンバ最強の魔装甲冑が相手じゃ無理も無いか』
俺の隣に、タービュレンスに騎乗した虎鉄丸が降り立ち並ぶ。
『コルト! ジルバ! ……王様は無事なのか?』
『うんっ、王宮の守備兵達にお願いしてきたよ!』
『白騎士達も片付けた。この辺りじゃあ、後はこいつだけだ……なっと!』
その時、自由を取り戻した虎楼閣が、二人に向かって槍を突き刺した。
だが、タービュレンスの素早い動きで、虎楼閣へ飛びかかるように跳躍し、槍を装甲スレスレで回避すると、そのまま虎鉄丸の剣ですれ違いざまに虎楼閣の右腕を斬り落とす。
ボトリと落ちた腕に代わって、今度は右腕から白い触手が伸び、再び武器を拾った。
一連の攻防の中でも、虎楼閣内の王弟は何も言葉を発しない。いや、既に言葉を発せないのかもしれない。
虎楼閣はもはや、目の前の相手と戦うという本能のような思考ただ一つに囚われた一匹の獣だった。
『なるほど、これは少々厄介だな。どうする?』
『ふむ、それについてなんだが……我に一つ考えがある』
コルトの問いかけにイオスが応える。
『何か打開策が浮かんだのか、イオス』
『ああ。もっとも……我も実際にやったことはないので、勝算はそれ程でもないがな』
『イオスちゃん、一体何をするつもりなの?』
『簡単な話だ、ジルバ。白龍と同じ事をする。つまり、我が体の一部を虎楼閣内に入れ、奴の支配から虎楼閣を奪い返すのさ』
突撃してきた虎楼閣を飛び退いて躱す。こいつを奪い返す?
『出来るのか? そんな事が……』
『原理的に出来る出来ないで言えば出来るだろうな。ただ……奴の支配に打ち勝てると断言は出来ないぞ。もっとも、我はここに居て奴は居ない……それだけで十分有利だがな』
なるほど……イオスがこういった言い方をするならば、そう悪い賭けじゃなさそうだ。
『それともう一つ。奴との奪還戦の最中、我と奴の意識が繋がる事になる。そして、我と繋がったマスター、リミル双方にも同じことが言えるが……何が見えても実害は無い。心静かに我の勝利を待つといい……いいか?』
『わかりました! イオス様!』
『ああ、こっちは構わない! イオス、やってくれ!』
『よしっ! ではマスター、虎楼閣に接近し腕を突き刺してくれ!』
イオスの指示通り、虎楼閣へ向かって走り出す。
『どうやら話は決まったようだな! よし、俺達はタツヤを援護するぞっ!』
『任せといてっ!』
俺達へ向かった攻撃を弾き落としながら、タービュレンスに騎乗した虎鉄丸が駆け寄り前方に躍り出る。
俺は、二人が弾いた攻撃の合間を縫って虎楼閣に取り付くと、その胸目掛けて腕を突き刺した。




