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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第二章 商業国家ミンバ/吼えよタービュレンス
34/95

2-15


 気付くと俺は白一色の世界に立っていた。

 何処かの浜辺だろうか?白い空、白い砂浜、白い波…何処までも続いているようなその光景は、美しく感じる反面、寂しさも感じさせた。

 見ると俺もドラグーンではなく、ただの人間の姿に戻っている。


「ここは……?」


「ほう、こんな場所に来訪者か……」


 辺りを見回していると、突然誰も居なかった背後から声がする。

 慌てて振り返ると、そこには黒い毛並みを持つ虎頭の男が一人、こちらを見つめ立っていた。その顔には、見覚えがある気がした。


「そうか、君は……あの黒い魔装甲冑の操手か」


「な! あんた知っているのか!?」


「ん? ああ、もちろん。俺はブライド……さっきまで君と戦っていた、虎楼閣を兄より奪った者だ」


「じゃあ、あんたが王様の弟の……」


 そういえば、確かにあの時、虎楼閣を奪ったのは、黒い虎頭の男だった。


「そうだ……ふふ、王弟……か。そう呼ばれる事に何度憤った事だろうか。王である兄に、常に俺の先を行く兄に、俺は憧れ妬み嫉み……いつしか憎んでいた」


 淡々と語るブライドの顔には、しかしそんな強い感情があるようには見えない。


「それであんな反乱を起こしたのか」


「それが……兄への感情が俺の全てだったからな。しかし、今はそれも嘘だったかのように、俺の心には何も無い」


 屈んだブライドは、足下の砂をすくい上げる。細かな砂の粒はサラサラと流れ落ちた。


「このように、な。全て零れ落ちてしまったよ。もっとも、巻き込んでしまったブエラリカの民には、すまなかったと思わないでもない」


「ブライド……お前は……」


「ここは……この浜辺は幼い頃に兄と来た場所に似ている気がする……俺はどこで間違えてしまったんだろうな」


 そう言うとブライドは立ち上がる。その瞳には相変わらず感情の色は見えない。しかし、止めどない涙が溢れていた。


「おそらく、俺はもうじき消えてなくなるのだろう。それが何故だかわかる。もし、君が元の世界に帰れるならば、一つ頼みがある」


「なんだ?」


「兄に……ブライアン陛下に、そしてブエラリカの皆に、不出来な弟がすまないと謝っていたと伝えて欲しい。頼む」


 ブライドが頭を下げる。少なくとも、以前のブライドなら絶対にしなかった事だろう。俺は頷き、短く「わかった」と伝えた。

 俺の答えを聞き、ブライドが満足そうに微笑む。次の瞬間、ブライドを含む景色が崩れだし虚空へと消えていった。

 後にはただただ白い空間が無限に広がっている。その只中に、俺は一人ぽつんと浮かんでいた。


「…………」


「……ん? 誰かの……声?」


 どこからか微かに誰かの声のような音が聞こえた気がする。そちらに行こうと一歩踏み出すと、空間に上下が生まれ、俺の足は白い床を踏みしめた。

 そのまま声の聞こえた方向へと進む。すると段々と白い空間に浮かび上がってくる人影があった。

 巨大な……おそらく魔装甲冑程の大きさがある全裸の少女が、膝を抱えて座り泣いていた。

 少女は髪も肌も、全てがこの空間と同じ真っ白で、顔には目も口も無い。しかし、目の位置からつたう涙の筋と、小さな嗚咽の声が、少女が泣いていると伝えていた。


「ど、どうしたんだい? 何故泣いているの?」


 少女の巨大さに驚いたものの、不思議と恐怖は感じない。むしろ、泣いている事が気になり、俺はそう声をかけた。


「………?」


 初めて俺を認識したらしい少女が、俺に顔を向けて小首を傾げる。そうして、少しの間を開け、「ここ、一人、寂しい、哀しい」という悲しげな声が音ではなく脳内に響いた。


「今のは君の声? 寂しいのかい?」


 コクリと少女が頷く。俺は頭をかいた。


「それじゃあ、俺と来るかいって言いたいけれど……そんなに大きいとそれも難しいかなぁ……ごめんな」


 そう謝ると、また俺の脳内に少女の声が響く。


「大丈夫、待ってて」


 すると少女の体が蜃気楼のようにスーッと薄れ消える。

 少女が居た場所には、俺とそう変わらないサイズ、おそらくリミルくらいの身長になった少女が居て、俺の所に駆け寄ってくる。


「同じ、なった、一緒、行く」


 俺は一先ず泣き止んだ少女に、自分の上着を着せると、その手をとり微笑む。


「わかった、お兄ちゃんと一緒に行こうな」


 少女が頷き俺に抱きついた瞬間、空間が眩しく光り、イオスの声が響いた。


『マスター、終わったぞ! 我等の勝利だ!!』


 ハッと気付くと、俺はドラグーンで虎楼閣の体に腕を突き刺していた。

 その腕から虎楼閣に、滲むように広がっていた黒が、一気に全体へと広がっていき、虎楼閣の白を染めて行く。腕を形成していた白い触手も黒い腕となり、元の虎楼閣と同じ形状に修復される。

 そうして全身を黒く染め上げた時、虎楼閣との戦いは終わりを迎えたのだった。


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