2-11
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「タ、タツヤさん! 大変! 大変です!!」
踊る羊亭での楽しい一時の後、初めて飲んだ酒の酔いも手伝い、自室でグッスリ眠っていた俺を起こしたのは、リミルの俺を揺り動かす手と慌てた声だった。
「ど、どうした?」
「ふむ、あれは直接見た方が早いな。外に出てみるがいい」
リミルの肩の上に乗ったイオスに促され、慌てて外に出る。すると、街の方が何やら騒がしく煙が何箇所も登っているのが見える。
「な、なんだ!?」
「あそこに登れ、マスター」
イオスがリズさんの家の屋上を指差す。
「わかった。リミル行くぞっ!」
「えっ、わっ、わわっ! タツヤさんっ!」
「暴れたら危ないぞ、リミル」
「うぅ……で、でも……」
ごにょごにょ呟くリミルを抱き上げ、スーツの力で飛び上がる。
もちろん一度では届かないので壁の出っ張り部分を見つけ、そこを蹴って更に上昇する。
巨大な工場に似た大きな家だけあって、屋上に降り立つと街がある程度見渡せた。
「……おいおい、マジかよ……」
火の手が上がり、人々が逃げ惑っている。
その中を進む巨大な影は……昨日打ち倒したグスズの魔装甲冑同様、白騎士型魔装甲冑の集団だった。
その白騎士達に対峙するように駐屯軍の物だろう魔装甲冑も多数現れ、既にあちらこちらで戦闘が始まっているようだ。
「なるほどな。さて、どうするマスター?」
「決まってるだろ、イオス! もちろんブエラリカ軍に加勢する! 黒龍を呼ぶんだ!」
「承知した、マスター。いくぞっ、リミル!」
「はい!」
リミルの体に戻り入れ替わったイオスが胸元の結晶に手を当てる。黒い閃光が辺りを包み空間が歪む。
「人龍合神!!」
現れた黒龍の体内で叫ぶ。
ゴキゴキと全身の骨格が変化するのを感じながら、背面の翼で飛び上がり、一番近くに居た白騎士達の前に降り立った。
『術式発動! 水撃槍!!』
着地と同時にリミルの放った水の槍が、白騎士の一体を貫き胴体に風穴を開ける。
いくら並みの魔装甲冑より強固な白騎士と言えど、ドラグーンで拡大強化された、元より強力なリミルの水術式の前では敵ではなく、ガクリと倒れた。
一方、俺は左右の腕を甲殻ごと巨大な刃に変形させると、そのまま路地を抜ける形で前方の白騎士達とすれ違う。
一見ただすれ違っていただけに見えるが、高速思考化で加速した俺は、左右の刃ですれ違いざまに白騎士達の装甲の隙間を狙い斬り裂いていた。
背後で白騎士達の倒れる地響きが聞こえる。
俺は、そちらを振り向き確認する事もなく、路地を走り次の標的へと向かう。
『あ、タツヤ兄ちゃん!』
『よう、タツヤ。お前達も来たのか』
路地を抜けると白騎士達と戦っている、虎鉄丸とタービュレンスが居た。
白騎士の術式による攻撃を、タービュレンスが強力な風の術式で払い、巻き上げ、撃ち落とし、吹き返し、その隙を突く形で虎鉄丸が長剣で斬り捨てる。
流石兄弟だけあって見事なコンビネーションだ。
俺も一体の白騎士に向かい、その脚を足払いの要領で蹴り払い、倒れた白騎士の腹を手刀で貫く。
『コルト、ジルバ、一体何がどうなっているんだ?』
戦いながらコルトとジルバへ尋ねる。しかし、タービュレンスが敵から目を離さずに首を振る。
『僕達もわからないんだよ。気付いたら昨日の白い魔装甲冑がたくさん攻め込んで来て……駐屯軍だけじゃ手が足りないから僕達も協力して戦ってるんだけどね』
『その様子じゃあタツヤもわからないようだな。しかし、この数……ゴッチェの仕業と考えるには多過ぎる。おそらくはその裏にいる奴が本格的に動き出したんだろう』
白騎士達を斬りながらコルトが話す。俺も更に攻撃を加えながらその声に応えた。
『帝国……か?』
『まだ確実ではないが、それが一番可能性高いだろうな……しかし、狙いが不明だ。戦力を広く分散させて、貴重な魔装甲冑を各個撃破されるのも覚悟の上で、街中で騒ぎを起こしているだけにしか見えない』
『ふむ……狙いがわからない広範囲の戦闘か。ならば、これらそのものが何かの罠、陽動かもしれんな』
『まさか! これだけの魔装甲冑で陽動? ありえないだろ!』
イオスの言葉をコルトが即座に否定する。
しかし、淡々とイオスは言葉を続けた。
『コルト、お前達の中では、魔装甲冑という物は発掘でしか手に入らない有限かつ貴重な兵器なのだろう。しかし、もしこの白い魔装甲冑が、かの白龍によって産み出されし物ならば、その数は実質無尽蔵。即座に大量に産み出すのは無理でも、多少陽動に使ったところで痛くも痒くもないだろうな』
『な、何だって? 魔装甲冑を産み出す?』
『そうだ。あの白き姿が何よりの証左よ』
『くっっ! ……ジルバ! タツヤ! 嫌な予感がする。ここを片付けて王宮の方へ向かうぞっ!』
『わ、わかったよ、コルト兄っ!』
『了解だっ!』
より攻撃の手を強め白騎士達を倒していく。
俺達の連携で周辺の白騎士達は瞬く間に少なくなっていった。




