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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第二章 商業国家ミンバ/吼えよタービュレンス
24/95

2-5


「〜〜〜♪」


 今日のリミルはすこぶる上機嫌だ。尻尾は高く揺れ、鼻歌まで歌いながら俺の横を歩く。

 朝、イオスとの日課であるトレーニングを終え、王との謁見日時が決まるまでする事も無く、良い機会だと、昨日話していたお店巡りにリミルを誘ったのだ。

 もちろん、リミルは飛び上がって喜んだ。


「あっ、タツヤさん! タツヤさん! あれ美味しそうですよ!」


 リミルが俺の袖を引っ張り屋台を指差す。

 屋台には真っ赤なピンポン球くらいの果実が積まれている。確かトリボンの実とかいう果実だ。店主は手早く実を剥くと数個を串に刺し、氷の術式で凍らせているようだ。

 トリボンシャーベットといった感じか。

 俺はリズさんから渡されていたこの世界の硬貨で、トリボンシャーベットを二本買うと一本をリミルに手渡す。


「わぁ、ありがとうございます! いただきます……はっむ」


「いただきます」


 こぼれるような笑顔で受け取り食べだすリミルに倣って俺も食べてみる。

 シャリシャリとした果実を嚙りとると、甘酸っぱいトリボンの果汁が口の中で溶け出した。元の世界の桃に近い味わいだ。


「うん、美味しいな、これ」


「はい! とっても甘いですね!」


「やっぱり、こういう場所は食べ歩きが楽しいな。あっ、あれなんかも美味しそうじゃないか?」


 何かの肉をジュージューと串焼きにしている屋台を指差す。


「確かに美味しそうです! ……あっ!けどあんまり食べちゃダメですよ、タツヤさん! この後、あそこに行くんでしょう?」


「そうだった。踊る羊亭で御飯食べるんだったね」


 何故屋台という物はこれほど人を惹きつけるのか。

 お店巡りをしながら、ジルバに誘われた踊る羊亭に向かうという当初の計画を思い出し、串焼きの誘惑を断ち切る。


「お、お兄ちゃん!!」


 その時、突然後ろから大きな声で呼び止められる。

 振り返ると、ジルバと一緒に居た姉妹の姉、ルカがはぁはぁと息を切らしながら立っていた。


「おお、ルカじゃないか。今日はタニアと一緒じゃ無いのか? ……わっ!」


 近づき以前と同じように目線を合わせて話しかけると、突然ルカが抱きついてくる。

 見るとその目には涙が溢れていった。


「えっ、ど、どうしたんだ、ルカ?」


「うっ……ううっ……」


 俺に抱きつき涙を流すルカを落ち着かせるため、抱きしめた背中をポンポン叩く。

 リミルも心配気にルカの脇に立ち、優しく頭を撫でた。

 そうして、ようやく落ち着きを取り戻したルカは、俺の服を掴んだまま、必死に伝えてくる。


「お兄ちゃん、タニアが……タニアがゴッチェ商会の人達に連れていかれたの!! 返して欲しかったら、お兄ちゃんを一人で来るように呼んでこいって!」


「ゴッチェ商会……それって昨日のあいつらか! それで、ルカは俺を探してたのかい?」


「うん、でもジルバちゃんが……僕が助けるって一人で……だから、先に踊る羊亭に居るジルバちゃんのお兄ちゃんに言わなきゃって、私……」


「わかった。もう大丈夫だ。二人は俺が必ず助ける! 奴らがここに来いって呼んでいた場所はわかるかい? ………よし、リミル。俺は今からそこに行って二人を助ける。リミルはルカを連れて踊る羊亭に行ってくれ」


「わかりました……でも、タツヤさん一人で大丈夫なんですか?」


「ああ、任せろ。だから、そっちは任せたぞ」


 イオススーツの力を目一杯使って通りを疾走する。

 幸い、奴らが指定したのはそう遠く無い場所にある、町外れの遺跡採掘場跡だ。

 特に入り組んだ道ではなく、そこには通りを真っ直ぐ抜ければすぐ辿り着く。


「苛立っているな、マスターよ」


「っ! 当然だろ! あいつらあんだけ脅したってのにっ!!」


 頭の上から聞こえるイオスの呑気な声に、怒声で答える。


「ジルバもジルバだっ! 無理するなって、言ったじゃないか!!」


「やれやれ……何もかも己の描いた絵の通りに進むとは考えるな、マスターよ。大切なのは、全てを想定し、それら全てに対策を用意し、なお想定外にすら柔軟に対応出来る心の余裕だ。心揺れ動く時こそ冷静になれ」


「そんなことっ、こんな時に!」


「……でないと、簡単に大切な何かを取りこぼすぞ」


 イオスの言葉に、矢を撃たれどんどん息が細くなっていったリミルの姿が脳裏に浮かぶ。俺は、ギリリと歯を嚙み鳴らした。


「くっ! わかったよ!」


 走りながらも、大きく呼吸を繰り返す。

 そうすることで、心の中で煮えたぎった気持ちを、無理矢理力づくで抑えるのではなく、体全体に広げ馴染ませる。

 ……そうイメージし心を落ち着かせた。


「そうだ、それでいい。その感覚を忘れんことだな」


「ああ、悪かったな……おかげで少しは冷静になれた。ありがとうな、イオス!」


「むぅ……そう素直に感謝されると、我も少々むず痒いな」


「そうか? だけど、頼りにしてるぜ、イオス」


「ああ、しかし忘れるなよ、マスター。今マスターの着ている我が体は……」


「俺の身体能力を高めるだけで万能じゃない。軽減はすれど、怪我もすれば死ぬこともある……だろ?わかってるさ、無理はしない」


「うむ、ならば我は何も言うまい。マスターの引き起こした事だ、見事解決してみせよ!」


「了解だ!」


 さらに走ること数分、俺はついに奴らが指定した遺跡発掘跡に到着した。


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