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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第二章 商業国家ミンバ/吼えよタービュレンス
20/95

2-1


 ブエラリカに着くと、イオスがヤグ車を結晶体を通して異界にしまう。

 そのまま、街の大通りを歩いてみると、ブエラリカはまるで都市一つが丸々市場のような場所だとわかる。


「おーい、そこの兄ちゃん! 隣の可愛い彼女に、南国産宝玉貝の髪飾りはどーよ!! 今朝の船で届いたばかりだぞ!」


「トリボンの実〜、甘〜い甘〜いトリボンの実だよ〜!」


 大通りの左右には所狭しと露天が立ち並び、様々な呼び声が飛び交っている。

 あくまで俺達の目的はリズという人物を探す事なんだが、前を行くリミルの尻尾はいつになく上機嫌に揺れていた。


「商業大国ミンバってヤルバ爺は言っていたけど、想像以上だな」


「そうですね! 他のミンバの都市も凄いですけれど、ここブエラリカには大陸中……いえ世界中の品が集まるとも言われるくらいです!」


 辺りの店をキョロキョロと見ながら楽しそうに笑うリミルは、縁日に来た子供のようで微笑ましい。


「なあ、リミル。しばらくここに滞在すると思うし、落ち着いたら後でゆっくり見て回ろうか?」


「えぇぇ! いいんですか!!」


 上機嫌に揺れていたリミルの尻尾がピンッと立つ。なるほど、嬉しすぎるとこうなるのか。


「ははは、観光旅行ってわけじゃないけれど、それくらい出来るだろう」


 俺達は今リズの家を探している。

 ヤルバ爺によると、リズという人物は魔装甲冑に関する仕事をしているらしい。

 その事を街の人達に尋ねてわかったのだが、どうやらリズは魔装甲冑の研究者であり、かつ魔装甲冑を扱う技師、魔装技師としても有名なようで、だいたいの人が大まかな住所を知っていた。

 案内に従い大通りを抜け、何度か路地を曲がった辺りで、俺の襟元に居たイオスが囁く。


「おい、マスター。ちょっといいか?」


「ん? どうした、イオス?」


「忠告なんだが、この先の路地には進むな。どうやら揉め事のようだ。巻き込まれないよう道を変えよう」


「そうか。ちなみに揉め事ってどんなだ?」


「ふむ……どうやら子供をガラの悪い男達が取り囲んで言い合いを……って、こら、マスター!」


「馬鹿っ、そういうのは先に言え、どう考えてもヤバイ状況だろ!!」


 曲がり角でリミルを待機させ、イオスの声を無視して路地に駆け込む。

 どうやら、リミルより小さい三人の子供を、五人のいかにも荒くれ者といった男達が路地の壁に追い詰めている。

 幸いにも、まだ暴力沙汰には発展していないようだった。

 怯えきった様子の猫顔な女の子二人を守るように、同じく猫耳と尻尾が生えた赤髪の少年が精一杯腕を広げ、睨みをきかせる大人達の前に立っていた。


「やあやあ、どうもどうも、皆さんどうされましたか?」


 あえて空気を読まずに笑顔でその間に割って入る。

 途端に全員の目が俺に集中する。どうやらリーダー格らしい、直立したワニ男が俺の胸ぐらを掴んだ。


「なんだぁ、てめえは! 関係ねえ奴ぁ、すっこんでろ!!」


「ま、まあまあ、まあまあ、子供達も怯えてるじゃないですか。一体どうしたんです?」


 ワニ特有のゴツゴツした腕をポンポン叩き、あくまで笑顔で答える。ワニ男はギョロギョロと目玉を動かし、俺を解放した。


「ふんっ、こいつらが、俺達に断りなく勝手に商売していたからよ、払うべき物を払って貰おうとしただけだ。なぁ、ぼく?」


「ふざけんなっ! このブエラリカは違法な物品以外、誰でも何でも売れる自由市場だ! そんな金誰が払うもんか!!」


 赤髪の少年が力強く叫ぶ。成る程、ヤクザのショバ代要求ってところか。


「ははは、払わねえってんなら、払いたくなるようにしてやるだけだ。おい、兄ちゃん。これでわかったろう、関係無いお前はとっととどっかに失せな」


 しっしと犬でも追い払うように手を振るワニ男。その仕草に、取り巻き達がぐへへと下品に笑う。


「どうしてもこの子達から手を引いちゃくれないんですか?」


「あぁ〜! ガタガタガタガタうるせぇ奴だなっ! あんま舐めた口きくとお前からぶち殺すぞっ!」


 なお引き下がらない俺に、業をにやしたワニ男が殴りかかってきた。

 こいつは……毎日見ているボガードの拳に比べ、なんて遅く鈍く読みやすいんだろう。

 イオススーツがワニ男の攻撃で高速化した俺の思考をトレースし、常人離れしたスピードで拳をいなすと、その長く突き出た口を思いっきり掴む。


「ふぐぃっ!? ふぁふぃふぅりゃ!」


 スーツの力で暴れるワニ男を、口を掴んだ腕一本で地面に押さえ込みギリギリと締め付けながら、満面の笑みで同じ台詞を繰り返す。


「どうしても、この子達から手を引いちゃくれないんですか?」


 辺りが静まりかえる。

 おそらく、体格から見てこの中では一番の実力者だったろうワニ男が、こんな細い男に簡単にやられる姿を見て、取り巻き達の思考がストップしてしまったんだろう。

 誰一人、ワニ男を助けるために攻撃するとか、一人だけ逃げるなんて行動を起こさず、呆然と立ちすくんでいるだけだった。

 俺は笑顔をやめ、出来る限り無表情を装う。


「いいか、俺は別にこの子達と何か関係があるわけじゃない、ただの通りすがりだ。だけど、あんたらからこの子達を守ると自分で決めてしまってね。どうする?俺と戦ってでも、この子達の金が欲しいか?」


 ゆっくり、諭すようにワニ男に伝える。口を塞がれたまま、ワニ男が必死に頭を横に振った。


「もちろん、俺が居なくなった後、あんたらはこの子たちの金や命をまた狙う事も出来るだろう。好きにすればいい。だが、忘れるなよ。俺がもしその事を知れば……いや、犯人がわからなくても、この子達に何かあれば、おまえ達一人一人を探して探して探し出して必ず償わせる」


 そうしてワニ男を見ながら、イヤラしく笑う。ニタァーという効果音が付きそうな不気味な笑いだ。


「そうだ、むしろ是非そうしてくれ! その方が俺は子供達への罪悪感を味わいながら、あんたらの体で色々楽しめそうだ! そこまでの覚悟が出来たのなら、好きなだけ襲えばいい。わかったな?」


 ニヤついた顔のまま、一度浮かせたワニ男の頭を再度地面に叩きつけ、至近距離でその目を見つめる。ワニ男は地面に頭を擦り付けながら、何度も頷いた。

 さすがにこれだけやれば、子供相手の端金では割に合わないと理解しただろう。まったくイオスのスーツ様様だな。俺はワニ男を解放し、慌てて逃げるゴロツキ達を見送った。

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