1-12
◇
『ちっ、今更そんな苦し紛れの術式で何が出来る!』
邪龍を模した魔装甲冑……邪龍機から撃たれた水槍を持ち前の速度で簡単に回避すると、狼牙の中でボガードはギリリと牙を噛み鳴らす。
(歯痒い……やはり狼牙の両腕を失ったのは失敗だったか)
ボガードと、その専用魔装甲冑である狼牙の最終兵装は、名を《風爆一閃》と言う。
その名の通り、風爆の術式で集めた大気を一度に爆発させ背部より放出、それにより己の速度を瞬間的に極限まで高めるものだ。
本来ならば、失った狼牙の両肩にも小型ながら胴体同様の吸気と放出機構を有し、超超高速状態であっても軌道の細かな調整が可能だった。
また、攻撃には衝突時の衝撃に耐えうる強力な槍を使用するのが常だったが、それも右腕と共に失い今は無い。
結果的に、直線のみの移動、攻撃も術式で耐久性を増した蹴りのみになり、それ故三度の攻撃でも邪龍機を倒しきるには至らなかったのだ。
(いや……この現状は全て、相手を弱者と決めつけた己の油断が招いたもの。その程度乗り越えられずして、何が五聖輝将か!)
そう自らに喝を入れた。
改めて邪龍機を見る。右腕は二度の風爆一閃で吹き飛び、更に各部の甲殻は狼牙の度重なる攻撃によって砕け、あるいは変形していた。
(それに……着実に奴を追い込んではいる。二度三度では無理なら四度五度六度と打倒するまで攻めれば良いっ!!)
そうして、再び風爆一閃の為に吸気を再開したその時、邪龍機にも動きがあった。
前触れもなく、邪龍機を中心に濃霧が急激に発生する。
瞬く間に邪龍機は霧の中に消え、すぐ目の前すら白く塞がれた。
どう見ても明らかな、邪龍機の術式による霧だ。
『ふんっ、苦肉の索で目眩しか、それとも霧に紛れ俺から逃げおおせるつもりか……だが、いずれも笑止千万!! 術式発動!烈風!!』
今度は狼牙を中心に強い風が吹き、濃くかかった霧が散らされ、嘘のようにみるみると晴れる。
霧の中から現れた、己の術式をあっさりと破られ狼狽する邪龍機の姿に、ボガードは薄く笑う。
(好機っっ!!)
吸気を終え、動揺した邪龍機に向かって跳躍し、必殺の間合いで風爆一閃を発動する。
反応する僅かな間も与えず、狼牙の渾身の蹴りは今度こそ邪龍機の真芯を撃ち、ボガードは己の勝利を確信した。
ーードゥッバッ!ーー
(なっ!?)
狼牙の蹴りが邪龍機を貫いた瞬間、邪龍機の体は巨大な液体の固まりとなり、狼牙はその中を通り抜ける。
かつて邪龍機だった液体で、全身ずぶ濡れになりながらも着地し急ぎ振り返ると、空から翼を畳みながら邪龍機が降り着地する。
『っっっ! 水の虚像だと!? ……貴様っ! ふざけているのか!!』
霧の術式で一時的に姿を隠し、本体は上空へ飛翔、本体が居た場所には、身がわりとなる水の虚像を術式で生み出し置いたのだろう。
五聖輝将であるボガードを相手にするにしては、その場しのぎにも程がある見苦しい悪あがきに、一度は勝利を確信したボガードは激昂する。
『おのれ! おのれ! こんな下らない小手先の術式で、俺と狼牙をあしらえると思ったか!! 五聖輝将を舐めたその罪、今すぐ貴様等の命をもって償わせてやろう!!』
その時、ボガードの怒声を聞き自棄になったのか……邪龍機が狼牙に向かって真っ直ぐ走り出した。
(ふんっ、愚かなっ! とうとう勝負を投げたかっ! その速度ならば、俺の風爆一閃発動の方が早い!!)
向かってくる邪龍機に、最後になるだろう風爆一閃をカウンターで仕掛ける為、ボガードは吸気を開始する。
ーーズッガッンーー
その瞬間、不自然な振動で狼牙全体が大きく跳ねた。
「ぐっ、何だっ!!」
ボガードが驚愕するわずかな隙に、邪龍機が狼牙に突っ込んだ。




