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09建国

 リラは本を開き、ページをぱらぱらとめくる。今リラが勉強しているのは国の歴史を伝える国記であり、読むことが得意なリラにとっては簡単な勉強だ。ただし内容が小難しく読んでいると眠くなるという点を除けばではあるが。

 本を開き、ページをぱらぱらと捲る。どこかに切れ紙を挟んで栞代わりにしていたのだが、どうにもそれが見つからなかった。リラは、最後に読んだのは一昨日だから何か忘れていることがあるかもしれない、と早々と諦めて一番初めのページから読むことにした。


 国記の最初は、世界の成り立ちにまつわる逸話から始まる。

 天地が避け、地上からは赤い海が沸き上がる。天は白い雲に包まれ太陽は一向に顔を見せない。生物など住めるはずがない環境は、天界に住む神々の戯れで一転する。焦土と化した地は緑が溢れる楽園へと変わり、生物が生まれ始める。いつしか人も生まれるが、愚かなことに人間たちは土地や権力を巡って争いを始めた。その状況を憂いた神々は、菩提樹に願をかけ一組の男女を生み出した。それが後にこの国の初代国王となるアンタレスと王妃のスピカである。二人は人々の争いを止め、幾多の困難を乗り越えて国を作り上げた。その際国王の側近となり国の平定に一役買ったのが偉大な魔法使いスヴァロンである。スヴァロンは太陽のように輝く金髪と深い海の色を讃える青の瞳を持ち、容姿の端麗さもさることながらその巧みな話術と誰にも引けを取らない知識で国治めの補佐をした。


 導入部分といえども、かなりの文量があるそれを読み終えたリラは息を吐き出す。

アレスは隣で頭を悩ませながら算術の勉強をしていた。リラが本を読んでいた間に教室には何名か生徒が来ていたようで、喋り声や鉛筆を滑らせる音が後ろから聞こえてきた。ミノリスは前の教卓に腰をかけて教室の様子を眺め見ていた。傍らには分厚い本が置いてあることから、彼の方も本を読んでいたらしい。何の本だろうか、とリラが覗きこもうとしたらミノリスと視線が合った。どうやらこの青年も途中で集中力が切れてしまったようであり、少し気恥ずかしそうにリラに声をかけてきた。

「リラさんは歴史が好きなのかな?」

「はい。どの教科も好きですが、一番は歴史です」

 そうか、とミノリスは微笑んだ。彼は少し考えた後、周りを邪魔しないように静かな声で言葉を続ける。

「じゃあ、この偉大な魔法使いの最後は知っている?」

 魔法使いスヴァロンの逸話をまとめた本は何度も読んだことがあるリラではあったが、その最後は知らなかった。それに国記にも、スヴァロンについては国を治める手伝いをしたという部分までしか書いておらず、あとに続くのは二代目国王、三代目国王の治世のことに関してであったような気がしていたのだ。

「いいえ。国記に書いているのはスヴァロンが国治めの手伝いをしたことまでですし、逸話を何度か読んだことがあるのですが最後については書いてなかったような気がします」

 頭の中の記憶を手繰り寄せても全く見当が付かないのだから、きっと最後については分からないのだとリラは確信した。ミノリスは少し得意げな顔になる。

「僕は学校で歴史や神話についての勉強をしていてね。それに本を読むのが好きだったから、よく学校の図書館に入り浸っていたんだ。そこで面白い本を見つけたんだよ」

 いつの間にか隣のアレスが顔を上げて、ミノリスの話をふんふんと聞いていた。リラが小突けば、いいだろ疲れちゃったからそろそろ休憩、などという甘ったれたことを言う。その真っ白な解答用紙はなんだとリラはアレスを白々とした目で見るが、彼にはまったくもって効いていないらしい。次の試験も大変なことになりそうだと、リラは思わずため息を吐く。



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