10偉大な魔法使いスヴァロンと王女プレオネの逸話
「国記では語られていないけれど、初代国王と王妃、偉大な魔法使いの話には続きがあるんだ」
ミノリスはゆっくりと、吟遊詩人のように情緒深くその顛末を語り始める。
国が平定し、白銀の冬が明け春の柔らかい日差しが降り注ぐ頃、初代国王アンタレスとその王妃スピカの間に双子のお子がお生まれになった。まばゆいばかりの美しさを持つ女児と父王と似た凛々しさを持つ男児だった。国中は歓喜の声に包まれ、お二人の誕生を祝した祭りは一週間も続いた。
王女と王子が成長し、数え年で十五になる頃だ。王女プレオネは魔法使いスヴァロンを慕っており、自身の思いのたけを彼に伝えた。彼は非常に聡明な魔法使いであったので、返答を濁しうやむやのままにした。一介の側近と国の未来を背負うこととなる王女。二人の身分はっきりとしており、スヴァロンは王女には逆らえず、また簡単に承諾することは出来ないことであると知っていたのだ。スヴァロンがどうすべきかを悩んでいたところ、その噂を聞きつけた父王が二人の仲を切り裂くためにスヴァロンを彼の生まれ故郷であるカノープスに左遷した。しかし彼の不運はそれだけにとどまらなかった。
「……この街がスヴァロンの故郷だったんですね、知りませんでした」
「僕も初めて知った時は驚いたよ。逸話の中に登場したことはあるけれど、まさかね」
リラは瞳をきらきらとさせながら話を聞いている。それとは対照的にアレスはつまらなそうに話を聞いていた。鉛筆をくるくると回しながら頬杖をついている。この少年、どうやら算術だけでなく歴史も嫌いなようだ。
「でも先生、そんなに有名ならさ、街の外れの墓地にでかい墓が建ってそうなのに。俺、何回かあそこに行ったことがあるけどそんな墓見たことないな」
リラは靄のかかった記憶を呼び起こす。今となっては共同埋葬となっているこの街の墓だが、昔は個人個人で埋葬しており、昔の偉人たちの墓は掘り返すことなくそのままにしているのだ。昔の偉人、――その中には王直属の騎士であった者や街の開発に貢献した者、初代街長などが含まれる。アレスの言っている通り、確かにそのような墓は無かったような気がする。アレスは建国の補佐をしたスヴァロンの墓が無いことは変で、それゆえ本当にこの街が故郷なのかを疑っているのだろう。
「初代国王と王妃は菩提樹の実からお生まれになったという経歴を持つ方々だし、本当に実在したかどうかは分からない。まあ人は樹からは生まれないからね。僕は王族の神聖さを強調するために後から作った物語じゃないか、と思っているのだけれど。もちろんスヴァロンだって本当に実在したかどうかは不明なんだ。でもアレス君、君はいいところを突いたね。君が今言ったことは、これから話すスヴァロンの不運な定めに関連しているんだ」
ミノリスはにやりと笑いかけ、アレスの頭を撫でた。アレスは得意げな顔をする。リラはどうにもその表情が気に入らない。




