プロローグ-4
「…そうして読書することを諦めきれなかった私は、何を考えたか本を『喰べていた』のです」
「いや、話飛びすぎだろ。何故喰ったし」
「…勿論本は紙ですから全然美味しくないですし、お腹は壊しますし…。でも、不思議と本の内容を理解出来たんです」
「嘘だろ…」
「その気持ちはよく分かります。しかし、現に私は本を『喰べる』ことで『読む』事が出来てるんですよ」
「……………」
少女の話はあまりにも信じ難い。果たしてこの世にそれを信じる人間などいるのだろうかと思うくらいの内容。
だが、何の理由もなく本を喰うのは明らかにおかしい。極限の空腹などという話なら分からなくも無いが、彼女は別段そういった風にも見えなかった。
「…ちょっと試させてもらうわ」
男は少女へと近付き、少女が持っていた本を奪う。手に本を持っていた感触が急に消えて少女は焦りの表情を見せる。
この慌てようと反応の遅さを見るに、目が見えていないのは本当の話だろう。男はその本の1頁に書かれた内容を記憶して、破り少女へと手渡した。
紙片を渡された少女は戸惑いながらもそれを口に入れ、噛み砕き、飲み込む。
「…その頁の一行目は?」
「…あ、えっーと…。『男はまた戻ってきた。何も成すこと無しに』…ですね」
少女の発言に男は目を見開く。少女は男のやりたいことを理解し、次の質問を待つ。
「…正解。じゃあ、その男の名前は?」
「『アレン』です。因みに恋人の名前は『リン』ですね」
これも当然のことながら正解だった。少女は喰った本の内容を完璧に把握してるのはどう見ても明らかだった。
ここまで見せられた男はもう信じざるを得ない。確かに少女は『読書』をしている。
「…信じられんが、事実みたいだな」
目の前の盲目の少女は、あっけからんととんでもないことをやってのけた。これは人の出来ることの範疇を越えている。
神が、奪ってしまった目の代わりに授けた能力だとでも言うのだろうか。有り得ない話ではあるが、そうでなければ説明がつかない。
「目が見えなくなって、絶望しかなかった私に芽生えた特殊な力…なんですかね。目が見えなくても、本が読めるように」
少女は憂いと希望が混じったような顔で、そう言う。それを見ると本を喰う、といった異常性が少し薄らぐのが不思議だった。
「…そうですね。5年ぶりに人と出会いましたし…。お兄さん、ちょっとお手伝いしてくれませんか?」
「あ? 何を?」
唐突に告げられたのは、盲目の少女からのお願い。受ける義理などないはずなのだが、何故か口から出ていたのは内容を問うものだった。
「まだ、ここの本を全て読めていないんです。目の見えない私一人だと時間がかかるんですよね…」
シュン…と目に見えてテンションの下がる少女を見て、男はそのお願いを断れるはずがなかった。
男は大きく溜息を吐くと、少女の頭に手を置いて美しい艶髪を撫でる。
「…少しだけだからな」
ここで会ったのも何かの縁であり、別に急いでいるわけでもなかった男は少女のお願いを受け入れる。
そして何よりも…盲目である少女を放っておけるような性格はしていなかった。
「いいんですか!? ありがたいです!! じゃあ、早速まだ残ってる本を持ってきてもらっていいですか?」
「はいはい…」
諦めたように、目が見える男は本の墓場に残っている本を集めて回る。5年も経ってるだけあり、そんなに数は残っていないようであった。
「次はどんな本なんでしょうか…! 読むのが楽しみです!!」
久々に人と会話し、体のいいお手伝いを得た少女のテンションは高く。
その反面、未だに得体の知れない少女にこき使われる男のテンションは低かった。




