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最強NPCになりました・・・  作者: 紅天狼
第二章,偽の勇者と銀狼の騎士
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Chapter8,白い道化師

Chapter8,白い道化師


クエスト用紙に記されていた新たな文章を読んだシンは、ようやくこの世界がゲームではなくリアルな世界であるという事を心の底から認めた。


そして、自らをこの世界に引きずり込んだのは、この世界オルトクレイグランドにて女神と崇められているオルトクレアだということがクエスト用紙から読み取れたのだった。


さらにシンがクエスト用紙から読み取ったのは、どうやらその女神によって自分はこの世界を救済する勇者とやらに任命されたらしく、勇者として魔王グラダナスを討伐しなければならないらしいという事だった。


クエスト用紙に記された最後の一文は、予言を告げた厳格そうな女神の姿とはかけ離れており、お茶目な(シンには悪意がこもっているように見えた)一面をみせていた。


女神が軽そうな性格に見えるその文章を読んだシンは、現実から逃避したいなと思いながら遠い目をしていた。


そんなシンの肩にジルが手を置き、心配そうに話しかける。


「あの…嬢ちゃん?急にどうしたんだ?」


「あー、いえ…ね。クエッ…じゃなくて…ん〜と、手紙?うん。手紙でいいや。」


ジルの問いかけに、シンはクエスト用紙の事をどう説明しようかとしばらく逡巡した後、素直にクエスト用紙と伝えてもゲームを知らない人間には伝わらないだろうと考え、ただの手紙だと誤魔化して伝えた。


「実は、これ…ある人からのお願いの手紙なんですけど、そこに書いてある事がちょっと理不尽と言いますか…。現実からちょっと逃避したいな〜って。」


「えぇと…、それは大変でしたね?」


溜息を吐きながらどんよりと伝えるシンの様子に、軽く首を傾げて苦笑を浮かべるルファがそっと労う。


ジルも「よくわからんが、嬢ちゃも苦労してるんだな?」と一言告げると、シンの頭をぐしゃりと撫でた。


成人した女性の自分が、少し歳の離れた中年男性のジルに頭を撫でられていることに若干恥ずかしさを感じてシンは少し唸る。


そして、ジルはシンの頭から手を離すと、再び二人に城に向かおうと促し、その促しにシンとルファは頷くと、三人は神殿の目の前の白亜の巨城に向かって歩を進めた。


神殿の外では、太陽が真上に輝いており、シンは思っていたより時間が経っていたのだなとぼんやり思いながらジルの後ろを歩いていた。


神殿と城の間には足元が石畳で構成された円形広場になって、そこを様々な人々が行きかっていた。


そして、シンたちが目指している城の城門の前には何故か半円を描いてザワザワと騒いでいる人々が集まっていた。


半円の空いている方には城の門がありその前には槍を持った騎士らしき人物が5人ほど立ち塞がっており、さらにその前にはポッチャリ体型で金髪のいかにも貴族風な少年が1人踏ん反り返って立っていた。


少年と対面している方向には1人の屈強な肉体をした、鎖帷子の鎧を纏った戦士風の男性が腕を組んで佇んでおり、その後ろを通りすがりの人々が1人、また1人と取り囲んで野次馬の半円が出来上がっていく。


「おぉ?ありゃなんだ?…隊長、嬢ちゃん、ちょっとあの人垣を先になんとかしなけりゃ城に入れそうになさそうなんで、しっかり俺の後に着いて来てくれませんかね?」


「?…本当ですね。あの人垣はなんでしょうか?」


ルファの問いかけにジルは首を傾げ、頭をかきながら「ちょっと通してくれ〜!」と人垣に声を掛けて人々をかき分け、円の真ん中に進んで行く。


その後ろをシンとルファが不思議そうに、付き従った。


シンたちが人垣の真ん中に進んでいくに連れて、甲高く嫌味ったらしい少年の声と屈強な戦士風の男性の声が聞こえてきた。


「ぷぁっはっはっは!おっさんボケてるのか〜?勇者の印はもうこのボルダー様が王に示してるんだ!つぅまぁりぃ〜、僕が本物の勇者で、おっさんのその腕の印は偽物って丸わかりじゃん?」


「ふっ!はっはっは!貴様のようなたるんだ体型のガキが勇者だと?笑わせてくれる!真の勇者はこの私だ!見よ!この強靭な肉体に宿りし銀の狼の印を!これこそ真の神狼の印!つまり、この私が真の勇者たる者であるという証拠よ!」


少年と戦士風の男性は互いに腕の印を見せ合いながら声をあげて自らを勇者であると宣言し合う。


その様子に野次馬達はざわざわと声を交わし合い、一部ではどちらが真の勇者かを賭けあうような話しで盛り上がっていた。


「おいおい、またか〜?」


ジルはダルそうにそう呟くと深く息を吐く。


「また…というと?」


その呟きにシンが疑問を投げかけると、ジルは唸りながら答えを返す。


「あー…あそこのチンチクリンの坊ちゃんが勇者に選ばれたっつう噂のボルダー様なんだ。…んで、あの坊ちゃんが勇者に選ばれたっていう話が巷に広がってからずっと、ああした戦士風の奴達が何人も腕に銀の狼の刺青を入れて、『我こそ真の勇者なり!』って城に来てな〜?その度に全員坊ちゃんの命令で捕縛されて城の牢屋に入れられてきてるんだ…。捕縛する役目は俺ら騎士だっつうのに毎回相手をああやって挑発して面倒起こしやがって…。」


ジルはめんどくさいと言わんばかりにシンにそう説明すると、ゆっくりボルダーの方に近づいて行く。


ボルダーは野次馬達の中からジルが出てきたことに気づくとニヤリと嫌な笑みを浮かべ、さらに踏ん反り返ってジルを指差しながら声をあげる。


「おい、おっさん!こいつが誰かわかるか?こいつはこの国で2番目に強い騎士で第一王女の親衛隊の騎士なんだぜ?前の隊長でこの国の最強だった騎士は魔王の手先だったから奴隷騎士になる予定だけど、この騎士もそこそこ強いみたいだし、おっさんじゃ歯が立たないかもな〜?ぷぁっはっはっは!」


ジルを指差し、踏ん反り返って戦士風の男性に自慢するボルダーの傍ら、ジルは気づかれないように舌打ちをする。


「…ちっ!(ルファ隊長に濡れ衣着せた張本人が調子に乗りやがって!)…ボルダー様、この騒ぎは一体何事でしょうか?」


「ジル、あいつを捕まえろ!勇者を騙る偽物がまた来たんだ!」


ボルダーはジルに戦士風の男性を捕らえるように命令すると、自分の後ろに控えている騎士達の後ろに下がる。


「(自分でやれよ!)…承知致しました。…悪いが、勇者様の命令により、あんたを捕縛させてもらうぜ?」


ジルはうんざりした様子で心の中ではボルダーに文句を言いながら剣を引き抜き、戦士風の男性に向ける。


すると、戦士風の男性も自らの腰に帯剣していた両手剣を鞘から引き抜くと油断のないように構える。


「はっ!騎士のお守りがなけりゃ、私を捕らえることもできない奴が勇者だと?…騎士様よ、本気であのなような子供が勇者だとお思いか?聞けば彼奴は悪逆非道の行いをしてきたと風の噂で耳にしたが…?」


「俺だって、あんな坊ちゃんが勇者だとは思えない…。思えない…が、国王様があいつを勇者だと信じきってるんだ。その国王様の命令で勇者様の命令は聞けと言われてるんでね。」


両者は向かい合いながら、そう言葉を交わすと、お互いの間合いを詰めて剣を振りかぶった。


そして、剣と剣がぶつかり合いそうになったその瞬間、突如二人の間に白い影が入り込み、二人の剣をそれぞれ片腕に持った細身の武器で軽く受け止め、辺りにはガキンッと金属がぶつかり合う音が響いた。


「なっ!?」


「むっ!!」


ジルと戦士風の男性はお互いに驚きの声をあげ、間に入り込んだ白の影を見つめた。


そして、その白い影の正体に気づいたジルが驚きの声をあげる。


「じょっ、嬢ちゃん?!何してんのっ!?っつうか、俺たちの剣を片腕で抑えるって、マジかっ!?」


白影の正体はシンだった。


屈強な戦士と騎士であるジルの二人分の剣撃をその細い腕で止めたにも関わらず、シンは涼しげな顔つきでいた。


そんなシンの様子にジルは驚き狼狽える。


そして反対側の屈強な戦士も同じように、見た目は普通の女性であるシンに力を込めた剣撃を軽く受け止められていることに驚きを隠せないように目を見開いていた。


3人の周りに集まっていた一般市民の野次馬たちも、突然の乱入者に驚きざわめく。


「えっ?…シンさん!?えぇっ?!いつのまに!」


ルファは一瞬前まで自分の隣に立っていたはずのシンが、目の前の二人の男性の間に立って剣を止めていることに驚きながら、先ほどまでシンが立っていた場所と目の前のシンの姿を交互に見ていた。


突然乱入して人々を驚かせたシンは受け止めていた二人の剣をそれぞれの方向に弾くと、手にしていた二本の刀を静かに鞘に収め、騎士達の後ろに隠れながら様子見しているボルダーの方向へクルリと体の向きを向けた。


必然的にジルの方向を向くことにもなるのだか、驚きで体が固まっているジルは弾かれた剣を手にしながらボンヤリとシンを見つめていた。


シンはニッコリと笑顔を浮かべると、ジルの後ろの方で驚愕で固まっているボルダーに聞こえるようにと少し声を大きくしながら言葉を紡ぐ。


「いや〜、突然割り込んでしまって大変申し訳ないんですけど、お話を聞いていると、勇者を名乗った者は問答無用で皆牢屋行きなんですか?勇者様?」


シンはボルダーに向かってこう尋ねると、続けてため息を大きく吐き出し、まるで舞台役者…いや、道化師(ピエロ )のようにオーバーなリアクションをとる。


「…おっかしいな〜?かつての二人の勇者様達は立派な方で、偽物が現れたとしても比べ物にならないくらい力の差があったから、偽物を牢屋に捕らえる必要なんかなかったって聞いたことがあったんだけどな〜?」


シンは嘘を織り交ぜながら演技を続ける。


「今の勇者様のボルダー様?は、昔の勇者様達と違って偽物さんたちを牢屋に入れないと心配なんですね〜。…はっ!も、もしかして、弱いからですかっ!?…それは、かわいそうに…。」


薄っすらと笑みを浮かべながらエアハンカチで涙を拭う仕草をしながらのシンの言葉は、ボルダーを暗に小物だと告げ、小馬鹿にしていた。


そんなシンの様子と告げられた言葉に自らが侮辱されていると感じたボルダーは、顔を怒りで真っ赤にさせブルブルと体を震わせながら怒声をあげた。


「な、ななななっ?!何なんだよお前ぇ!この僕、勇者ボルダー様を侮辱するのかっ!!…お、おいっ!お前達!あいつも捕まえて牢屋に入れとけよ!!」


ボルダーが自分の前にいる5人の騎士達にそう言うと、控えていた5人の騎士達が一瞬度惑い、互いにアイコンタクトをしながら槍の穂先をシンに向けて前に出てきた。


そして、ジルの隣まで前進してくると、ジルにどうすべきか伺うように困惑の表情を浮かべる騎士達。


ジルも同じく困惑しているのか、肩を狭めてお手上げだというジェスチャーをする。


そんな騎士達の様子にシンが一体どうなるのかと固唾を飲んで見守る野次馬の人々は、ひそひそと隣の人間と声を交わす。


人々の視線や騎士達の視線を受けたジルは、困った表情を浮かべながらシンの方へ視線を向けて話しかける。


「嬢ちゃん…さっき、そこの戦士にも言った通り、勇者様は現状、俺たちの上司に相当するんだ。だから勇者様の命令は絶対なんだ。」


「そうですね。確かに…、彼が『真の勇者』であるならばジルさんは彼の命令を聞くべきだと私も思います。しかし、本当に彼が真の勇者なのでしょうか?」


シンの言葉を聞いたジルはピクリと体を震わせると、疑問の表情を浮かべた。


そして、ボルダーもギクリと体を震わせると苦々しそうな表情を浮かべ、地団駄を踏んでイライラした様子を見せた。


「お、お前!デタラメなことを言うなよ!僕が正真正銘の勇者に決まっているだろ!見ろっ!これが証拠…」


「おやぁっ?その神狼の印ですが、貴方以外の方も持っているんですよねぇ?…どうしてボルダー様の印は本物で、他の方の印が偽物だとわかるのでしょうか?他に勇者だと証明する証拠があるのですか?」


シンはボルダーが証拠として腕の神狼の印を見せながら発言するのを遮り、その印が本物なのかと疑問の声発した。


「こちらの…えーっと、すみません、貴方のお名前は?」


「おぅ?俺か?俺の名ははガントという。」


シンが後ろに立っていた屈強な戦士に名前を尋ねると、戦士は一瞬目を丸くした後、ニカリと良い笑顔を見せながらガントと名乗った。


シンはガントを手で示しながら話を続ける。


「ガントさんですね。…こちらのガントさんも神狼の印を持っているというではありませんか!ガントさんの印が偽物だという根拠はどこにあるというのでしょう、ボルダー様?……あぁ、自分の印が本物だからとか言う理由なら、何か勇者だという力か何か証明してから言ってくださいね?」


「うぐっっ?!そ、それは、ま…まだ勇者の力が体に馴染んでないから…。力を見せることは…」


シンがガントの腕の印を見ながらボルダーの腕の印や勇者だという証拠はどこにあるのかと少し冷ややかに追求すると、ボルダーは先ほどガントに偉そうに威張り散らしていた様子から一転、気まずそうにモゴモゴと言葉を濁しながら言い訳をする。


そのボルダーの様子を見て、シンは一つ大きなため息を吐き、そしてゆっくり自らの左腕を胸の前に上げ、コートの腕の裾を肘までめくり上げ、真の勇者の証であるシルバーアームズフェンリルの紋章をボルダーに見せながら高らかに宣言した。


「では、この神狼の印を持つ私が力を見せれば、勇者の候補者として名を上げても文句はございませんよね?」


ニッコリと満面の笑みを浮かべながらそう告げたシンの言葉に、ボルダーは驚愕のため、シンを指差しながら口をパクパクとさせた。


そして、ルファやジルを始めとした様子を伺っていた野次馬の人々も一瞬思考を停止させると、次の瞬間には驚愕の声や、賭け事の掛け声が瞬く間に広がった。


「おっ、おおお前っ!お前もそこのおっさんみたいに偽物だろ!僕こそが本物なんだよっ!」


野次馬の人々の声を聞いたボルダーは気を持ち直し、再び地団駄を踏みながらシンの勇者候補の名乗りを否定した。


「じょっ、嬢ちゃん?!な、何でその印がっ?!」


「シン様が、なぜっ?!」


ジルやルファも驚きを隠せない様子で狼狽えると、シンへと疑問を投げかける。


それを聞いたシンは、辺りにいる人々に聞こえるようにハッキリとした声量で、


「なぜって?…それは私が(今さっき知らされたけど…)本物の勇者だからですからかね?」


っと小首を傾げながら苦笑で宣言したのだった。

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