血の繋がりを持たない兄弟
[ダイアログ]
村の中で、二人の人物が熱心に剣術の稽古をしていた。エリュスと、その友だちであるデンジの娘だった。
[タスキ -思考]
強いなあ!
魔法使いを目指して勉強してるくせに、剣の動きもなかなかのもんだ。
でも、まあ仕方ないか。俺は今年で四歳になった。もう結構大きいほうだよな……たぶん!
三歳のころは、遊ぶ以外にやることなんてなかった。でも、剣を使う魔法使いになりたいなら、鍛えなきゃだめだって、自分に言い聞かせたんだ。
変な話だよな。この世界で、そんなことができるといいんだけど。
マンガで見た限りだと、世界にはいろんな種類があるらしい。俺のいる世界は、案外いい世界かもしれない……それとも、とんでもなくチートな強さをもらえたりして。
さあ、どうなるかな?
もしこの物語を誰かが書いてるなら、俺をめちゃくちゃ強くして、主人公にしてくれよな! あははは!
でも、ここに来てからずっと、精霊を使った魔法は一つも使えてない。
あの子がやり方を教えてくれたのに、どの精霊も、俺には近づきたくないみたいなんだ。
あの子が言う精霊の気配ってやつも、俺にはまるで感じられない。
魔法が使えなかったらと思うと怖い。でも、今は怖がらないことにする。魔法学院に入るまで、まだあと一年あるしな。
それまでに使えるようにならなきゃ、本当に詰んじまう!
それと、最近、父さんはあまり家にいない。本人は仕事の都合だって言うけど……俺には何も言えない。証拠がないからな。
[デンジの娘]
つかまえた!
[エリュス]
うわああっ!
[デンジの娘]
ふん! 私のほうが強いんだから! 情けないわね!
[ダイアログ]
エリュスは、友だちが剣をひと振りしたあと、地面に倒れた。
エリュスは地面から、悔しそうな目で彼女をにらみ、剣をしっかりと握り直した。
それからエリュスは立ち上がり、全力で彼女に向かっていった。
二人は日が暮れ始めるまで稽古を続け、やがて手を止めることにした。
[デンジの娘]
なかなかやるじゃない。でも、まだまだ上達しなきゃね!
[タスキ -思考]
そりゃそうだ! 四歳児にこれ以上、何を求めるんだよ?
[エリュス]
ありがとう! ぼく、もう帰るね。またね!
[ダイアログ]
エリュスは家へ向かった。家はそれほど遠くなかった。
歩いていると、エリュスの耳に赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
エリュスが中に入ると、父親が小さな赤ん坊を抱いていて、母親は出産で疲れきって体を休めていた。
[タスキ -思考]
言い忘れてたけど、父さんと母さんに、もう一人子どもが生まれたんだ。
これから俺は、お兄ちゃんになる。
また誰かを好きになるのが、怖い……
[カズマ - パパ]
エリュス! こっちに来て、妹に会ってやれ!
[エリュス]
はーい!
[ダイアログ]
エリュスは妹の顔を見に近づき、その小さな顔を見て驚いた。
妹があまりに小さくてかわいらしくて、エリュスは思わず笑顔になってしまった。
その顔を見ているうちに、エリュスは前の人生で妹がいたころのことを思い出し始めた。
少しずつ、エリュスはその子が愛おしくなっていった。
カズマは赤ん坊を息子に近づけ、そっと抱けるように手を貸してやった。
エリュスは赤ん坊の目を見つめ、胸の中が愛情でいっぱいになるのを感じた。
[エリュス]
かわいいなあ、ぼくの妹!
ぼく、お兄ちゃんとして、ぜったいに守ってあげるからね!
[カズマ - パパ]
はははは! それは頼もしいな、息子よ。なあ、父さんがいなくなったら、お前が妹を守ってやるんだぞ。
いいか、父さんの次は、お前なんだ。約束してくれるか? 母さんと妹、二人ともちゃんと守るって。
[エリュス]
うん! うん、パパ! ぼく、二人を守る。約束する!
[カズマ - パパ]
父さんは母さんと赤ん坊の世話をするから、お前はお風呂に入って、着替えておいで。今日は出かけるぞ。
[エリュス]
わかった、パパ!
[ダイアログ]
カズマが妻と赤ん坊の世話をしている間に、赤ん坊が空腹で泣き出したので、母親は赤ん坊を腕に抱いて、お乳をあげ始めた。
父親は妻に近づき、額にキスをして、ほかに何か必要なものはないかと尋ねた。
妻は、大丈夫だと答えた。そこでカズマは、彼女のために軽い夕食を用意し、テーブルのそばに水の入ったコップを置いた。カズマは、これからエリュスと出かけるところだったからだ。
エリュスがお風呂に入って着替えを済ませたころには、外はもう暗くなり始めていた。
父親は玄関のそばに立って待っていて、エリュスの姿を見ると声をかけた。
エリュスはすぐに駆けていった。
[カズマ - パパ]
準備はいいか?
[エリュス]
うん!
[ダイアログ]
エリュスと父親は家を出て、村の中を歩き始めた。そのころの村は、人影もまばらで、少しさびしい雰囲気だった。
[エリュス]
どこに行くの?
[カズマ - パパ]
そうだな……森に行くんだ。
[エリュス]
え!? 森!? やだ! 行きたくない! パパ、あそこにはこわいものがいるって言ったじゃん!
[カズマ - パパ]
おいで、心配するな。何も怖がることはない。父さんについて、そばを離れなければ、何も起きないさ。
[ダイアログ]
二人は並んで歩き、森にたどり着いた。
森に入ると、エリュスはあたりを見回し始めた。エリュスには、木々の間に、大きくて光る目がいくつも見えた。地面にも、いくつかの目があった。
それに、エリュスの耳には、あちこちから奇妙な音が聞こえていた。
エリュスは本当にこわくて、父親のズボンをぎゅっとつかんだ。
カズマはそれに気づいて、小さく笑いながら歩き続けた。
もう少し進むと、二人は木々の間にある丸い空間に出た。真ん中には、火の消えたたき火があり、いくつかの石で囲まれていた。
父親は、食べ物や飲み物をいくつか持ってきていた。
さらにしばらく歩いて、二人はようやくその場所に着いた。カズマは軽く伸びをして、あたりを見回した。
[カズマ - パパ]
よし、着いたぞ!
ここは前に来たときと、何も変わってないな……
[エリュス]
ここ、どこ!?
[カズマ - パパ]
火をおこしたら話してやる。
[ダイアログ]
カズマはあたりに落ちている枝を集めて、石の真ん中に積んだ。
それからカズマは二本の木の棒を取り、こすり合わせて、火をおこした。
たき火の準備ができると、カズマは火の前に腰を下ろした。エリュスもその隣に座った。
[カズマ - パパ]
なあ、息子よ……ここはな、父さんがデンジとよく過ごしていた場所なんだ。俺たちのお気に入りの場所だった。ここで話をしたり、兄弟みたいに胸の内を打ち明けたり、何もかも忘れて食事をしたりした。
いちばんは、二人で一緒にいる時間が好きだったんだ。
デンジは、俺にとって兄弟みたいな存在だった。俺が小さいころ、両親は別れてな。
いつもそばにいてくれた母親は、俺を置いて出ていった。俺を父親のもとに残して、行ってしまったんだ。
父親はひどい男だった。何時間も飯を食わせてくれなかったし、俺が何か失敗すると殴った。継母と結婚してからは、もっとひどくなった。何をしても罰を受けた。家にいるのは地獄だった。
父親は、俺に剣術で完璧になってほしがっていた。俺が何かをしくじると、笑いものにして、辱めた。
いつも酒ばかり飲んでいて、もう一人の息子のほうをかわいがっていた。俺にはクズだと言い、死んでほしいとまで言ったのに、そのもう一人の息子には優しくしていた。母親のことも、侮辱していた。
でも、剣術の稽古や学校に通っているときだけは、俺の一番いい時間だった。そこで、俺はデンジと出会ったんだ。
あいつは、いつだって俺のそばにいてくれた。まるで兄弟みたいに。一緒に遊んだり、こっそり抜け出して、探検に出かけたりもした。
本物の兄弟がいるみたいだった。ようやく、頼れる相手ができた。俺を安心させてくれて、話を聞いてくれる相手が。
でも、ある日、あることが起きた……
俺たちは家にいた。そのとき、扉をノックする音がした。俺は階段を下りている途中で、数人の兵士の姿を見た。父親が俺を呼んでいたから、何事かと思って玄関に近づいた。
ところが、俺がたどり着くと、父親は俺を蹴り飛ばして、扉を閉めたんだ。
何が起きているのかもわからないまま、兵士たちは俺をつかまえて、荷馬車みたいなものに乗せた。
俺は必死に泣いていた。怖くて、これから自分がどうなるのかもわからなかった。
目を閉じたとき、誰かに抱きしめられるのを感じた。
デンジだった。
[デンジ]
大丈夫だ! 俺がここにいる! お前を一人にはしない、兄弟!
[カズマ - パパ]
俺は涙をこらえきれず、荷馬車に揺られながら泣き続けた。
デンジは、俺が一番つらいときにそばにいてくれた。あいつがいてくれたから、俺は救われたんだ。
しばらくして、俺たちは二人とも眠り込んだ。目を覚ますと、荷馬車は止まっていた。
俺たちが立ち上がると、一人の兵士が近づいてきた。突然、兵士はデンジをつかんで叫んだ。
[兵士]
なんだこりゃ!? ガキだと!?
[カズマ - パパ]
兵士たちはデンジをつかまえて、あれこれ質問を始めた。それから、俺たち二人を捕まえて、ほかにもたくさんの子どもがいる牢屋まで引きずっていった。
何時間かして、一人の兵士がやってきて、俺たちはその瞬間から軍に属することになったと告げた。
どこの王国だったかはよく覚えていないが、俺たちはみんな怯えていた。
何日かが過ぎて、訓練が始まった。
日の当たる場所に出されるのは、剣の稽古のときだけだった。何時間も立たされ続けたり、手と足を地面につけたまま、ひどくつらい姿勢を保たされたりもした。
そのまま何時間も耐えなきゃならなかった。しくじれば、さんざん殴られた。
そんな訓練が終わったあとは、何時間も走らされた。
体がその負担に耐えきれず、たくさんの子どもが死んだ。
それでも、俺とデンジは前に進み続けた。あいつはいつも、俺に続ける勇気をくれた。
そしてある日、俺たちが互いに戦わされるときが来た。
兵士たちは、俺とデンジを向かい合わせに立たせた。ほかのたくさんの子どもたちも、同じようにされた。
顔に袋をかぶせられていたから、誰と戦わされるのか、わからなかった。
でも、袋を外されたとき、俺の目の前にいたのはデンジだった。
あいつは俺を見て、心配するな、遠慮なく殴れ、と言った。怒ったりしないし、ちゃんと許してやる、とも。
[カズマ - 少年]
だめだ、だめだ、デンジ! お前を殴りたくなんかない!
[デンジ]
やれ、カズマ! 俺はお前が大好きだぞ、兄弟。こんなことになっても、ずっと好きなままだ。お前を憎んだりしない。
[兵士]
おら、腰抜けが! まさか、こいつを殴れないとでも言う気か? 今すぐやれ、さもなきゃ俺がこいつを処刑してやる!
[カズマ - 少年]
いやだ! お願い、やめて!
[兵士]
だったらやれ!
[カズマ - パパ]
兄弟が殺されるのが怖くて、俺は泣きながら、謝りながら、デンジを殴るしかなかった。
兵士は、もっと強く殴れと、ずっとわめき続けていた。
俺の手は血まみれで、デンジはほとんど立っていられなかった。それでも俺は殴り続けて、とうとうデンジは気を失った。
その日が終わると、俺たちは戻らなきゃならなかった。俺はデンジを連れて帰った。抱えられなかったから、引きずって。
誰も手を貸してくれなかった。みんな、自分の世界に閉じこもっているみたいだった。
デンジが気を失ったままの間、俺は食べ物と水を与えた。体も拭いてやって、ずっと世話をした。
そして、ある日、あいつは目を覚まして、俺の名前を呼んだ。
その瞬間、俺はうれしくて、あいつを抱きしめた。
[カズマ - 少年]
兄弟!
[カズマ - パパ]
なあ、息子よ……まだお前にはわからないだろうけど、デンジが俺にとって、どんな存在だったのか、少しだけ話しておきたかったんだ。
ほら、大きくなったら、この日記を読んでくれ。ここに、俺の物語が書いてある。大きくなって、これを読んだときに、お前は多くのことがわかるはずだ。
[エリュス]
パパ、結界のことで質問があるの。前に、森を守ってる結界は、ぼくたちを何かから守ってるって言ってたよね。
[カズマ - パパ]
結界のことか……ああ。あれは、デンジを殺した、あの忌まわしい怪物から俺たちを守ってくれる防壁だったんだ。
聞いた話だと、誰かがあの怪物を、森の中で呼び出したらしい。
最初のころ、村は大混乱になった。たくさんの人が死んだ。だが、魔法の結界のおかげで、俺たちはあの化け物どもから守られていたんだ。
最近、その結界の一つが弱まって、やつらがまた入ってこられるようになった。残念ながら、あんなことが起きてしまった。
今、あの怪物は倒された。もう結界を維持する必要はない。やつらの頭の一体を仕留めたから、村の人たちも、お前も、怖がらずに森へ出られるんだ。
さて、息子よ、もう寝る時間だ! 遅いからな。
おっ、見ろ! あの星、動いてるぞ!
[タスキ -思考]
なんてきれいな空なんだ! リアが言ってたことを思い出す。
あの星は、リアが会いに来てくれたんだ。まだ俺のそばにいるよって、思い出させてくれてるんだ。
[ダイアログ]
二人は、空を動いていくその星を、じっと見つめていた。
エリュスはとても疲れていたので、父親は彼を腕に抱き上げた。それから父親は日記も拾って、息子のために大事にしまった。
そして、二人は家への帰り道を歩き始めた。
帰り道の間、二人はずっと黙っていた。
家に着くと、カズマはエリュスを部屋まで連れていき、ベッドに寝かせてから、部屋を出た。
妻も、小さな娘のそばで眠っていた。カズマは着ていた服を少し整えると、ようやく横になった。
しばらく天井を見つめたあと、カズマは、ある名前を小さな声でつぶやいた。
[カズマ - パパ]
デンジ……
こんにちは! みなさん、お元気ですか? 私は元気です、ありがとうございます。
Kizuna no Saisei 第8話をお届けします。約束どおり、有言実行です!
あ、自己投影してるわけじゃないですからね(笑)。「それ、自己投影でしょ」なんて言う人がいそうですが。
みなさんが元気に過ごせていますように。そして、ひとつだけ大切なことを。もし気持ちがつらくなったら、身近な友だちや、信頼できる人に話してみてください。話せる人がいないときは、メールをください。なんでも、好きなだけお話ししましょう。(^^)
みなさん大好きです! それでは、またお会いしましょう!
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