第16話:お前もか。姉を挟んで座るフェンリルと猫(完)
姉がリビングのソファに腰掛けると、フェンリルはいつもの定位置――その「左隣」にスルスルと歩み寄り、当然のような顔でぴったりと寄り添って腰を下ろした。
そして、ふと見上げるように姉の顔を覗き込み、安心したように目を細める。
その光景を、カーテンレールの上からじっと見つめていた黒猫モデルの耳が、ピクリと動いた。
「……ふん」
黒猫モデルは小さく鼻を鳴らすと、軽やかな身のこなしでカーテンレールからひらりと跳び降りた。
狙うは、ソファに座る姉の反対側。
誰も座っていない、姉の「右隣」のスペースである。
「ちょ、お前、どこに行く気――」
「邪魔だ、下僕」
妹の制止を無視し、黒猫モデルはツカツカと歩み寄ると、何の躊躇いもなく姉の右隣にストンと腰を下ろした。
それだけでは飽き足らず、彼はコテンと自分の頭を姉の右肩に預け、さらに不敵な笑みを浮かべながら、左隣に座るフェンリルをじっと睨みつけた。
「……なんだ、貴様。そこは私の定位置だ」
「は? 何を言うか、人間の隣という特等席がいつから狼ごときの指定席になった。控えろ、雑魚が」
「ほう……誰に向かって口をきく。叩き潰すぞ、野良猫」
バチバチと、二人の超高性能ドールの間で目に見えない火花が散る。
しかし、その中心にいる姉は「はいはい、仲良くねー」と、どこ吹く風で両方の頭を優しくポンポンと撫でた。
撫でられたフェンリルは「くっ……仕方ないやつめ」と耳を赤らめておとなしくなり、黒猫モデルも「……ふん、悪くない感触だ」と小さく喉を鳴らして目を閉じた。
――姉の左隣には、すっかり飼い慣らされた銀狼。
――姉の右隣には、気高いはずなのにちゃっかり陣取った黒猫。
そして、その両側に挟まれた姉を遠い目で見つめながら、妹はその場でガクリと膝をついた。
「ちょっと待って……!? なんで私の全財産を注ぎ込んだ最高峰アンドロイドたちが、二人揃ってお姉ちゃんの左右を陣取って平和な空気作ってるの!? お前たちもそっち側なのかよ!! 私のマスター権はどこに行ったのーーっ!!!」
リビングに響き渡る妹の絶叫と、それを完全無視してまどろむ二匹の獣人たちのマイペースな息遣いとともに、今日も我が家は平和(?)に回る(完)。




