第3話 召喚した女どもへの茶菓子代とはなんだ?
「カイ・ミルロード」
朝食後、牛乳で煮た麦粥と、昨日ベルベットが丸ごと消し飛ばした熟成チーズの代用品として出した若いチーズを食べ終えた頃、俺は母屋の食卓に帳簿を広げ、今月の牧場収支を確認していた。牛乳の売上、チーズの出荷予定、干し草の追加購入費、壊れた貯水槽の修理代、鶏小屋の扉を遠隔で閉められたことによる精神的被害額、そして七大魔女に食べられた備蓄チーズの損失。最後の項目だけどう考えても牧場経営の教科書には載っていない種類の出費であり、俺はペンを握ったまま「災害損失」「魔女接待費」「竜害」「チーズ誘拐事件」あたりのどれで処理すべきか真剣に悩んでいた。
「なんでしょう、ベルベット様。先に言っておきますけど、今日のチーズは昼まで出ません」
「貴様の帳簿を見た」
「人の財布を勝手に覗くの、古代の魔女界では礼儀なんですか?」
「我の復活拠点の資産状況を把握するのは当然であろう」
「その復活拠点、昨日まで俺の牧場だったんですよ」
「今日も形だけは貴様の牧場だ。安心せよ」
「一番安心できない言い方を選ぶ才能がありますね」
ベルベットは椅子の上に正座するように座り、俺の帳簿を小さな指でとんとん叩いた。椅子に普通に座ると食卓の天板が高すぎるため、本人は威厳ある執務姿勢のつもりでも、俺から見ると朝食後に宿題を見せろと言ってくる小さな家庭教師に近い。額のツノ、背中の翼、膝の上でくるりと丸めた尻尾がなければ、本当に近所の子が遊びに来ただけに見えたかもしれない。
「この項目はなんだ」
ベルベットが指差した先を見て、俺は冷や汗が背中を滑り落ちるのを感じた。
「ええと……福利厚生費です」
「読み上げよ」
「必要あります?」
「読み上げよ」
「……召喚した美女への茶菓子代」
「ほう」
部屋の空気が変わった。昨日の魔力暴走ほど派手ではない。鶏小屋の扉が勝手に閉まることもない。干し草も舞わない。にもかかわらず、俺の背筋には七大魔女の百分の一未満とは思えない圧がのしかかり、食卓の隅に置いていたバター皿まで申し訳なさそうに沈黙している気がした。
「カイ・ミルロード」
「はい」
「召喚した女どもへの茶菓子代とはなんだ?」
その問いは、世界の真理を暴く賢者の詰問というより、亭主の隠し口座を発見した奥方の声色に近かった。俺は自分の命と社会的信用と今後のチーズ供給量を天秤にかけながら、どこから説明すれば一番燃えにくいかを考えた。
「ベルベット様、これはですね、俺の召喚術と牧場運営の歴史を語らないと誤解される項目です」
「誤解ではなく、直感で有罪に近い匂いがする」
「裁判の前に弁明の機会をください。俺は確かに好みの女性を召喚しています。けれど、それは決していかがわしい目的ばかりではなく、交流、相談、労務支援、村の文化水準向上、あと俺の精神安定という、非常に多面的な価値を持った召喚活動なんです」
「いかがわしい目的も混ざっておるではないか」
「混ざってはいません。香りが移っただけです」
「余計に怪しいわ」
ベルベットが半眼で睨んでくる。俺は観念して、椅子の背にもたれた。ここで嘘をついても無駄だ。この幼女姿の竜魔女は、俺の契約印を通じて魔力の流れだけでなく、たぶん後ろめたさの湿度まで嗅ぎ取ってくる。ならば語るしかない。俺がこの世界に来た日のことから、召喚術を覚え、牧場を始め、どうして帳簿に「召喚した女どもへの茶菓子代」なんて、未来の俺が見ても頭を抱える項目が生まれたのかを。
俺がこの世界に転生したのは、三年前の春だった。前世の俺は日本の田舎で酪農家の息子として育ち、朝は牛の餌やり、昼は学校、夕方は搾乳、夜は牧場の帳簿を手伝うという、青春の半分くらいを牛の胃袋事情に捧げた青年である。恋愛経験は牛の発情周期ほど正確に管理できず、都会に出る夢は搾乳機の修理費に負け、家業を継ぐか別の道へ進むか迷っているうちに、豪雨の日に用水路へ落ちた子牛を助けようとして足を滑らせ、目を覚ましたときには、見知らぬ森の中で木漏れ日を浴びながら、どこからどう見ても異世界の空を見上げていた。
最初に思ったことは、「転生した」ではない。
「牛舎の掃除、誰がやるんだろう」だった。
人間、身体に染みついた仕事の心配は世界を越えるらしい。
そこから先の俺は、まあまあ惨めだった。金はない。知り合いもいない。文字は微妙に読めない。村へ向かう道中で角ウサギに追いかけられ、初めて訪れた市場で銅貨と銀貨を間違え、宿屋の女将に「顔は悪くないのに目が迷子の犬みたいだね」と評され、冒険者登録をしようとしたら剣の素振りで受付の花瓶を割った。攻撃魔法の適性検査では、火属性の魔石に手をかざしても湯たんぽ程度の温度しか生まず、風魔法では紙切れを一枚めくるのがやっと、身体強化を使おうとすれば足だけ速くなって壁へ突っ込む。神様らしき存在に会った記憶も、チート能力を授けられた感覚もなく、俺は異世界転生者でありながら、村の子どもに木剣で負ける不審者として人生を再開した。
そんな俺に転機が訪れたのは、村の古道具屋で一冊の召喚術入門書を買った日だった。表紙には『初心者でもできる楽しい召喚生活』と書いてあり、下のほうに小さく「契約事故、魔力逆流、異界存在による人格侵食については自己責任」とも書いてあった。前世の通販サイトなら絶対にレビュー欄が荒れている本である。俺はその危険な注意書きを、当時の貧乏と空腹と孤独と、あと表紙に描かれた召喚士のお姉さんが妙に美人だったせいで完全に読み流した。
召喚術とは、簡単に言えば「こちらの世界とは別の層にいる存在へ呼びかけ、契約を結び、一定時間または一定条件のもとで力を借りる魔法」だ。この世界では、現実の裏側にいくつもの異界が重なっていると考えられている。精霊が住む精霊界、魔族が根城にする魔界、死者の魂が漂う霊域、過去の英雄や魔物の記録が眠る記憶層、さらに誰が管理しているのかよくわからない古代の封印領域。普通の召喚士は、その中から相性の良い一種類、多くても二種類の領域に細い糸を伸ばすだけで精一杯だとされている。
ところが俺の場合、その糸が異様に太く、異様に長く、異様にしつこかった。初めて召喚陣を描いた夜、俺は火種を貸してくれる小さな火精霊を呼ぶつもりで、なぜか暖炉の神様の下働きをしていた火蜥蜴を呼び出した。二回目は井戸水を汲むための水精霊を望み、森の泉で昼寝していた半人半魚の水妖を呼び、三回目には道案内用の小鳥精霊を狙ったはずが、かつて辺境騎士団で伝令を務めていた幽霊馬が出てきた。成功なのか失敗なのか判断に困る結果ばかりだったものの、共通していたのは、彼らが俺の呼びかけに驚くほど素直に応じたことだった。
召喚された存在は、原則として召喚者の命令に逆らえない。もちろん限度はある。契約内容にない無茶を押しつければ魔力消費が跳ね上がるし、相手の存在格を無視した命令は契約そのものにひびが入る。召喚士が弱ければ、呼べる相手は小さな精霊や低級使い魔程度に限られる。けれど俺は、なぜか異界への扉を開く力だけが桁外れで、こちらの世界で牛に蹴られたら普通に泣く程度の男なのに、召喚陣を前にすると、王都の宮廷召喚士が三人がかりで挑むような高位存在でも、わりと「呼ばれたので来ました」という顔で現れてくれた。
この力に気づいたとき、俺は冒険者として成り上がる道を考えた。炎の魔人を呼んで魔物を焼き払い、古代騎士を呼んで迷宮を攻略し、王女様から勲章をもらい、酒場で吟遊詩人に名前を歌われる。転生者としては王道の夢だ。問題は、俺自身が剣を持つと邪魔になること、戦場の空気を吸うと胃が痛くなること、そして何より、魔物退治より牛の世話をしているほうが落ち着くという、英雄志望者にあるまじき牧場魂が骨の髄まで染み込んでいたことだった。
結果、俺は戦わずに生きる道を選んだ。
この世界の辺境村は、土地こそ広いものの人手が足りない。水路はすぐ詰まり、土は痩せ、家畜の病気も多く、運搬ひとつ取っても馬や牛に頼るしかない。そこへ前世の酪農知識と召喚術を合わせれば、冒険者より堅実に食っていけると踏んだ。水精霊に井戸と水路を整えてもらい、土精霊に牧草地を改良してもらい、風妖精に干し草の乾燥を手伝ってもらう。発酵の管理には、湿気に詳しい洞窟妖精を呼んだ。乳牛の体調を見るために薬草に強い森エルフへ相談し、病気の兆候を見つけるために嗅覚の鋭い獣人の見習い薬師とも縁を結んだ。こうして俺の牧場は少しずつ形になり、最初は「変な召喚術師が牛を飼っている」と笑っていた村人たちも、半年後には「カイのところの牛乳は腹を壊しにくい」と言ってくれるようになった。
まあ、ここまでは立派な話である。
ここまでだけを切り取れば、俺は異世界の知識と特殊能力を活かして地域産業へ貢献する、かなり健全な転生者だ。村長も鼻が高い。女将も褒める。子どもたちも俺の周りへ集まる。牧場経営の本に載せるなら、このあたりで夕焼けの牧草地を背景に笑顔の俺を描けばいい。
問題は、俺がそれほど健全な男ではなかった点に尽きる。
召喚術に慣れてくると、俺は気づいた。異界には精霊や魔獣だけではなく、人に近い姿を持つ存在、あるいはかつて人間だった存在、森の奥で暮らすエルフ、薬草師の修行をしている獣人、湖の管理を任された水精霊の乙女など、話して楽しく、見て癒やされ、なおかつ牧場経営にも役立つ女性たちがたくさんいる。しかも俺の契約は基本的に強い。呼び出せば来てくれる。命令すれば従ってくれる。ここで自制できる男は、聖人か、すでに結婚して奥さんに財布を握られている男くらいだと思う。
もちろん、俺にも最低限の倫理はある。命令に逆らえない相手へ無茶をさせるのは気分が悪いし、相手が嫌がることを押しつけたら、召喚士としても人間としても終わりだ。だから俺は、契約を結ぶときに必ず条件を入れた。「雑談相手として呼ぶ場合は、茶と菓子を出す」「労務支援の場合は対価を支払う」「危険な作業は事前説明を行う」「契約時間外の干渉はしない」「相手の尊厳を損なう命令は行わない」。こういう細かい決まりを守っているからこそ、セシリアは薬草畑の相談に来てくれるし、ルルは水路を見に来てくれるし、ミャロは牛の腹具合を診てくれる。
そして、俺はそのついでに、彼女たちとお茶を飲む。
森エルフのセシリアは、薬草と土の話をすると目を輝かせる。水精霊のルルは、井戸の水質について語るときだけ妙に早口になる。猫耳の薬師見習いミャロは、俺の作った焼き菓子を食べると尻尾が正直に揺れる。彼女たちの笑顔を見ながら、牧場の将来や村の暮らしや、ときにはどうでもいい恋愛観を聞く時間は、俺にとって孤独な転生生活を支える大事なひとときだった。茶菓子代とは、そのための必要経費であり、断じて下心だけで膨らんだ支出ではない。
「下心だけではない、という言い方がすでに濁っておる」
俺の長い説明を黙って聞いていたベルベットが、帳簿をぺらぺらめくりながら呟いた。
「ベルベット様、俺の回想に割り込まないでください。いま結構いい話に持っていこうとしてたんです」
「貴様のいい話は、最後に女の耳や尻尾へ吸い寄せられるので信用ならぬ」
「否定できない自分が悔しい」
「召喚された者は貴様の命令に逆らえぬ、と言ったな」
「基本的には、です。ベルベット様みたいな規格外は例外中の例外で、普通は召喚士の魔力と契約文が主導権を握ります」
「ならば、なぜ貴様は女どもに茶菓子を出す。命令すれば働くのであろう」
俺はそこで、少しだけ真面目にベルベットを見た。相手は幼女の姿をしているけれど、その中身は何百年、あるいはもっと長い時間を生きた魔女だ。命令と支配の理屈は、俺なんかよりずっと知っているのだろう。だからこそ、俺はきちんと答えなければならない気がした。
「命令だけで動く相手と一緒に仕事をしても、牧場は長続きしませんよ」
「ほう」
「牛だって、餌と環境が悪ければ乳の出が落ちます。人も精霊も同じです。契約で縛れるからって雑に扱えば、表面上は従っていても、関係が腐る。相手が気持ちよく手伝ってくれて、こっちも感謝して、失敗したら一緒に笑えて、終わったあとに茶菓子を食べながらまた来てもいいかなと思ってもらえる。俺はそういう牧場にしたいんです」
ベルベットはしばらく黙った。尻尾の先が、食卓の脚をゆっくり叩く。俺は自分で言った言葉に照れくさくなり、鼻の頭をかいた。
「まあ、セシリアさんの横顔が綺麗だなとか、ルルの涼しげな声が好きだなとか、ミャロの猫耳がぴこぴこ動くと仕事の疲れが取れるなとか、そういう気持ちがゼロかと聞かれたら、俺は神殿の前でも正直に首を横へ振れません」
「台無しだ」
「人間味と言ってください」
「欲望に名前をつけて飾るな」
「欲望があるから茶菓子も発展するんです」
「菓子職人に謝れ」
ベルベットは帳簿の該当欄を見つめ、ふんと鼻を鳴らした。完全に納得した顔ではない。むしろ、俺の言い分を聞いたうえで、どの角度からいじれば一番面白いか考えている顔だった。
「して、茶菓子代が月に銀貨八枚。村の相場から考えると高いな」
「良い茶葉を仕入れているので」
「召喚した女どもに?」
「お客様には良いものを出したいじゃないですか」
「我には若いチーズを出したな」
「熟成チーズを丸ごと食べた方が言っていい台詞ではありません」
「我にも茶菓子を出せ」
「ベルベット様、さっき朝食を食べたばかりですよね」
「出せ」
「帳簿の審査員が経費を増やさないでください」
ベルベットが椅子の上で胸を張る。
「我は七大魔女ベルベット・アスモデウス。貴様の契約者であり、この牧場の復活拠点化を進める最高責任者であり、現時点では鶏どもへの報復計画を保留してやっている寛大な支配者である。茶菓子くらい当然であろう」
「鶏への報復計画を持ってたんですか」
「当然だ。あの羽毛の群れ、我を囲んだ罪は重い」
「やめてください。マダム・コッコを敵に回すと朝の卵が減ります」
「卵……」
「焼けば美味しいです」
「報復は延期する」
「食材として認識した瞬間に判断が柔らかくなるの、ある意味で平和ですね」
俺は棚から焼き菓子を出した。昨日のうちにリナが作ってくれた蜂蜜入りの堅焼きビスケットで、保存がきく上に茶へ浸すとうまい。ベルベットは一枚受け取ると、最初は毒見でもするように匂いを嗅ぎ、やがて小さくかじった。ぱき、と軽い音がする。頬がわずかに緩む。
「……悪くない」
「でしょう。村の蜂蜜を使ってます」
「もう一枚」
「経費が増えるなあ」
「召喚した女どもには出すのであろう」
「ベルベット様をその枠に入れると、また誤解が増えるので別勘定にしたいです」
「では、我専用の項目を作れ」
「何て書けばいいんですか」
「竜魔女復活支援費」
「税務署が来たら説明で死にます」
「七大魔女慰労費」
「村長に見られたら笑われます」
「小さき暴君への供物」
「それはそれで正確なのが腹立つ」
ベルベットは二枚目のビスケットをかじりながら、帳簿の余白に勝手に文字を書き込もうとした。俺は慌ててペンを取り上げる。
「やめてください。帳簿は聖域です。ここを荒らされると、俺は本気で泣きます」
「貴様、召喚事故より帳簿の乱れを恐れておらぬか」
「牧場経営者は、魔王より未整理の領収書を怖がる生き物なんです」
「ふむ。ならば我も学んでやろう。この牧場を拠点とする以上、収入、支出、労働力、召喚契約、チーズ生産量、すべて把握せねばならぬ」
「ベルベット様が経営に関わるんですか?」
「不服か」
「正直、村が灰になるより先にチーズ庫が空になる未来しか見えません」
「安心せよ。増やしてから食う」
「一応、経営の概念はあるんですね」
ベルベットは得意げに笑った。その表情を見て、俺は少しだけ嫌な予感と、少しだけ不思議な期待を抱いた。七大魔女の復活拠点などという物騒な言葉を使っているけれど、彼女がいま真剣に見ているのは、俺の牧場の帳簿であり、茶菓子代であり、チーズの在庫であり、鶏への報復を卵の味で延期する程度の生活感だった。世界を灰にした伝説が、辺境村の食卓でビスケットをかじりながら経費項目に文句をつけている。この光景に慣れたら、人間として何か大事な基準が壊れる気がする。
「それで、カイ」
「はい」
「今日、その召喚した女どもは来るのか」
「言い方はともかく、セシリアさんは薬草畑、ルルは水路、ミャロはミルカの体調確認で来る予定です」
「茶菓子は」
「出します」
「我の分は」
「出します」
「チーズは」
「少しだけです」
「増やせ」
「牛と時間と熟成菌に相談してください」
ベルベットは不満そうに頬を膨らませたものの、ビスケットを茶に浸して食べる方法を教えると、しばらく黙って試していた。その姿は完全に小さな子どもで、昨日の契約反転も、鶏への宣戦布告も、牛乳噴水事件もなければ、俺は微笑ましい気持ちで眺めていたと思う。
この世界に来たばかりの俺は、自分が何者なのかわからなかった。冒険者になれない転生者。剣も魔法もぱっとしない男。牛の世話だけは妙にうまい、異世界では扱いに困る前世持ち。召喚術を見つけ、牧場を始め、好みの女性たちを茶菓子で釣っているように見える現在でさえ、胸を張って立派と言えるかは怪しい。
それでも、この牧場には牛がいて、鶏がいて、精霊がいて、エルフや獣人が来て、村人が笑い、帳簿に頭を抱える俺がいる。
そして今日から、その中心に、尻尾とツノの生えた伝説の魔女が居座っている。
「カイ」
「はい」
「この茶菓子代、我の分も含めて来月から倍にせよ」
「いまのしみじみした空気を返してください」
「復活には糖分が要る」
「復活って便利な言葉ですね」
「ついでに、召喚した女どもとやらを今日ここへ集めよ。我が貴様の契約関係を監査してやる」
「監査?」
「貴様が下心で経費を濁しておらぬか、七大魔女の目で見極めてくれる」
「その目、下心を見極めるというより、俺が慌てるところを見たいだけですよね」
「もちろんだ」
俺は帳簿を閉じ、深く息を吐いた。召喚術とは、異界の存在と契約し、力を借りる便利で危険な魔法である。俺にとってそれは、異世界で生きるための道具であり、牧場を豊かにする手段であり、寂しさをごまかす交流の扉でもあった。
そして今、その扉から入ってきた最悪最大の例外が、俺の茶菓子代にまで口を出し始めている。
俺はペンを取り、帳簿の新しい欄に震える字でこう書いた。
小さき暴君への供物費。
その横で、ベルベットは満足げに三枚目のビスケットをかじっていた。




