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第十三公主ベアトリーチェの奇跡~魔女の嫁入り転生譚外伝~  作者: 坂崎文明


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第二話 剣聖

「本当に、この作戦で行きますか? この作戦の最大の被害者は公主殿下であり、おそらく、一生、公主殿下は各国の暗殺者につけ狙われることになります」


 エメラルドグリーンの双眸と髪を持つ、天才軍師ルイ・パルスは何度もベアトリーチェに問い(ただ)していた。

 彼はベアトリーチェの白い愛馬に並走しながら、最後の意思確認として話をしていた。

 彼の体の震えの原因は約百万の敵軍に対する怖れではなく、幼い頃より一諸に育ったベアトリーチェの人生への甚大な影響だった。

 

「仕方ないでしょう。私はこの国を救うと決心したし、あなたもこの作戦しかないと、断言したでしょう? それにあなた自身も永年、秘密にしていた切り札を切るのだから、かなりのリスクがあるはずよ」


 金髪碧眼の白い透き通るような肌を持つお嬢様然とした容姿のベアトリーチェは意外にもあっさりとそのリスクを受け入れていた。

 しかも、天才軍師を気遣う素振りまで見せた。


「確かにそうです。ですが、私はこの国の軍師です。この国を守ることは使命です。やむをえないとはいえ、公主殿下は昨日までは一般人であり、ワ皇帝陛下が許したとはいえ、本来なら最前線に出兵する義務など、一切、ありません」


 天才軍師はもう少しで大泣きしそうな悲壮な表情に見えた。


「本当に、そうかな?」

 

 と、背後で黒い甲冑を(まと)い、黒い軍馬に(またが)ってる剣聖レイ・ダリウスが疑問を挟んだ。

 いたずらっぽい瞳が少し笑っているようだった。


「……いや、まさか」


 剣聖と公主殿下は幼い頃より、共に悪巧みを巡らせるのが得意で、それに対抗するために、自分が天才軍師と呼ばれるまでになった事を思い出してるようだった。


「申し訳ありません。軍師殿、報告が遅れましたが、ベアトリーチェ殿下はすでに、北部騎馬連合のすべての軍と交戦経験があり、十数度に及ぶ実戦経験はおそらく、我が国の国境警備隊の将軍と匹敵するレベルにあります」


 という誠に残念そうに報告する、黒馬に騎乗した黒装束の小柄な女忍びレン・ロンは、天才軍師配下の筆頭諜報部隊の長だった。

 突然、どこからともなく現れて、影のように公主殿下護衛任務を担っていた。


「……レン・ロン、お前!」


 とは言ってみたものの、レン・ロンは元々、公主殿下の護衛として永年、ベアトリーチェに仕えていたし、剣聖と公主殿下に堅く口止めされていたのは必定な事は明らかだった。


「レン・ロン、この戦が終わったら、懲罰を受けてもらうぞ!」


 一応、軍師としては、軍規上、建前として叱っておくが、公主殿下の命令権の方が自分より上位にあるため、彼女に拒否権はなかった。


「はい、喜んで!」


 板打ち五十回程度の懲罰では、レン・ロンなら一週間程度で回復してしまう。

 杖刑の執行人の加減次第だが、軍人でも回復まで数ヶ月は寝込むはずで、運が悪ければ命を落とす者もいる。

 この戦いで命が永らえる保証はないのだが、逆に軍師が勝利を予想してるという評判を生むので、これはこれで悪くない処置だった。

 

「では、話は決まった。第十三公主近衛軍の<光速軽騎兵>二万騎はこれから北部騎馬連合の先鋒隊に突撃する! 天才軍師殿は手筈(てはず)通り、ランドロフ将軍の元で国境警備隊二十万の指揮に当たってくれ」


 黒衣の剣聖レイ・ダリウスの号令の下に、<光速軽騎兵>二万騎は出撃していく。

 彼は一万騎を率いて先鋒隊を務める。

 ベアトリーチェは残り一万騎の先頭に立ち、それに続いていく。


「公主殿下、どうかご無事で!」


 天才軍師ルイ・パルスは馬を返して、すぐ背後のカナール渓谷のランドロフ将軍の軍営本陣に向かっていく。




      †




「公主殿下、まずは我が先鋒隊が北部騎馬連合三十万の先鋒隊(せんぽうたい)に攻撃を仕掛けます。数はさほど減らせませんが、殿下は援護攻撃をお願いします。敵軍主力はあくまで後衛に控えてる北狼国の重騎兵隊五十万騎なので、それを前線に引き出すのが目的になります。決して無理はしないように」


 剣聖レイ・ダリウスは念を押した。


「はいはい」


 べアトリーチェは意外と素直に、澄まし顔で、剣聖の言う事に返事をした。

 今回は流石に、妙な気は起こさない様子だった。

 油断はできないが。

 剣聖は<光速軽騎兵>一万騎の速度を上げた。

 べアトリーチェの軍との距離が次第に開いていく。

 周囲の光景は岩場の多い渓谷から緑色の草原地帯に変わっていった。

 見晴らしは良く、十タルス先に北部騎馬連合の大軍が見えていた。

 五十万はいるはずだ。

 剣聖軍は更に速度を上げて敵軍に接近していく。

 三タルスに接近した所で、剣聖は腰から聖刀<黒龍剣>を引き抜いてゆっくりと横に()いだ。

 たちまち、草原の草が舞い上がって、緑の何重もの壁のように広がり、剣聖軍の姿が消えてしまう。

 ここに来て、敵兵の先鋒隊も迎撃のために動き出していた。

 そこへ緑の壁の背後から剣聖軍の弓矢が一斉に襲った。

 敵兵の先鋒隊は一万騎の弓矢の攻撃でその被害は甚大である。

 総勢三十万の敵先鋒隊にとって、一万騎が失われてもさほどの被害ではないと言えた。

 が、剣聖軍の<光速軽騎兵>が怖い所はここからだ。

 剣聖軍は尋常ではない速度で左へ、敵軍の右翼の側面へと回り込んでいく。

 敵先鋒隊三十万は剣聖軍の<光速軽騎兵>あまりの速さに、突撃を(かわ)されて、剣聖軍は後詰めの二十万の北部騎馬連合の側面に到達してしまう。

 そこでも聖刀<黒龍剣>で草を()いで、目くらましにし、一万の弓矢を一斉射撃で叩き込む。

 気づいた時には、ついに北狼国の重騎兵隊五十万騎が見えて来ていた。

 突撃すると見せかけて、北部騎馬連合の先鋒と後詰めを一気に抜き去って、北狼国の重騎兵隊主力に到達してしまった。

 その時、轟音が北狼国の重騎兵隊の背後で鳴り響き、紅い閃光が大軍を包んでいた。


「……まさか、あれは! 聖天剣技<流星乱舞(メテオ・ドライブ)>!」


 この剣技の使い手は第十三公主ベアトリーチェしかいない。

 そして、公主殿下が剣聖であるという秘密は十五年間秘匿(ひとく)され、このカナール渓谷の戦いの切り札のひとつだった。

 だが、こんな作戦は天才軍師から聞いていない。

 しばらく経つと、北狼国重騎兵隊の後衛二十万騎がごっそりと消滅していた。

 

「あれ、剣聖軍を(おとり)に使うなんて、公主殿下の戦略眼に脱帽ですね」


 と言ったのは剣聖軍の赤毛の軍師ル・ロイである。

 黒衣のマント姿で、瞳は青く澄んでいる。


「のんきなこと言ってる場合か! あれでは公主殿下が孤立する! 全騎、聖刀剣技<音速突撃(ソニック・チャージ)>で公主殿下を救出する!」


 剣聖軍は更に速度を上げて、北狼国重騎兵隊に正面から突撃する羽目になってしまった。

 全騎が聖刀抜刀して、敵軍に切り込んでいった。

 聖刀から放たれる衝撃波で敵軍の中に道ができた。

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