「南の地下道です!」
レイジたちが南の国へ船で渡ろうと「死の村」へ誘われてしまった時、リリルアたちは目的地を同じくして海底の地下道を渡ろうとしていた。今彼女たちは遺跡のようにそびえ建った入り口の前まで来ている。
入り口の後ろには広大な海が広がり、南の島国が見えないことから地下道の大きさがうかがえる。多くの旅人や商人がここを通って海を渡ったそうだが国家間の交易が途絶えがちな今は使われていない。
キノコの森と同様魔物のいるような雰囲気が漂ってくる。
「ねえラケル、ここってやっぱり魔物とかいるの? 戦闘能力のほぼない私たちが渡るのって、ねえ…」
「アリル、私がいるではないか。今は魔法も使えるぞ、中級の龍でもいない限り皆の安全は保証するよ。」
ああ見栄を張っているなと悟ったアリクイをラケルが睨む、この二人のわだかまりが消えるのにはまだまだかかりそうだ。
しかしリリルアがキノコの森で「死の花」を討伐し得たのは龍がいたからと主人が兵器の中古品であったから。あらかじめダンジョンとして成り立っているこの地下道は多くの危険を伴うだろう。
異形のモンスター、入り組んだ構図に侵入者を阻むようできた魔物の住処。
「他に道があったりしない? 船が出てるとか。」
「ないこともないが今は既に滅びた村だよ。」
どうやら今はこの地下道を行くしか道はないらしい。
シュトロハイム王国の一件でもわかったことだが世界は確かに滅びの一途を辿っている。世界中に自分で何のために戦っているかわからない人間は多いだろう、その事情は薬物の販売事業によっても煽られてきたと思う。
異種族の者は土地や信仰を奪っていく人間への憎しみのため、人間は金や快楽のため。フローレンシアは龍神族の長として人間を滅ぼすつもりでいるのだろうがそれでならないことは歴史が証明している。
太古の昔… 人が滅びた理由はとある理由によって境界や種族の概念がなくなったからだという。全ての人が同じ考えで居られる理想郷を求め旅立った人類は「共存」の方法を失った。金、経済と社会性などが消えた世界で知性を持つ人類に生存の術は残されていなかった。
ある生物学者は知性を持った生物が同じような過ちを犯さないよう、エルフやドワーフなどの体に進化が進んだと言う。
とにもかくにも、人間か異種族のどちらか一つだけで世界がまわる法はないとリリルアは考えるのだった。
「計画だけはきちんと立てたほうがいいと思うんだ、僕…」
怯えたような物腰の相変わらずなアリクイが口を挟む。
「そうそう、ラケルの見栄だけじゃ心配だしね。」
リリルアにまで見栄っ張りだと言われてしまったラケルは少し不機嫌そうにするが、三人はすぐに地下道を抜けるための計画を練り始めた。
◇
ラケルが王国から持ち出した地下道の地図を広げる。シュトロハイム王国がかつて南の国が革命沙汰で物騒でなかった頃交易のため使われていたもの。
老廃して通りにくくなったり、床が抜けているような場所はあっても大まかな道は変わっていないだろう。
魔物の素材を確保し売るため過去に派遣された部隊がないことから住み着いている魔物は下級から中級であることが予測される。上級であれば素材にいい値が着くので目をつけた国の討伐隊があってもいい。
リリルアがキノコの森で出くわした全ての魔物は下級、死の花の母体でせいぜい中級くらいの力である。つまり三人でいれば包囲されたりしない限り問題はない。
地下道は高温多湿のため爬虫類や魚類などの魔物が生息しているだろうがラケルが雷系統の魔法を会得しているらしく比較的楽に討伐することが可能だろう。
さらに革命軍に志願しようとするものがこの道を使って南の国へ渡っている可能性が高い。つまり長い時を経て成長した類の存在はないと考えていい。
大まかに分けてこの地下道は三階層、降って登れば南の国となっている。いやに入り組んだ構造をしているのは敵国からの侵攻を阻むためらしいが地図を持っていればそこは問題がない。昔交易相手として認められた国には地図が送られていた。
戦闘は龍から左足を授かって身体能力のあるリリルアが近接、ラケルが後方より魔法支援、アリクイが荷物持ちと道具を随時使役し管理する係となる。
◇
「と、こんなところだよ。どうだい?」
「なんとかなるんじゃない。最短ルートも分かるしそんなに苦労しなさそう。」
ラケルが計画の全貌を説明し終えると持っていた不安因子が明確にされ、解決されて安堵できる。
「僕は荷物持ち…」
若干不満げにするアリクイだったが戦闘能力がないのだからしょうがない、できるとすれば雑魚の虫系魔物が出てきた時亜人として食べるくらいのものだろう。それでも最後方からの支援役は重要だし「いなくていい」とは言えない。
なんとかお互いの帳尻を合わせ三人は地下道へと入って行く。
◇
しばらく階段を降りてもう海面下の道に入ったかなというところ。
薄暗く湿気の多い地下道はリリルアたちに鳥肌を起こさせる。
細かい虫の影がカサカサと壁に這っていてランプの明かりを当てると足早に逃げていく。アリクイがさも食べたそうにそれらを眺めていたがラケルに睨まれて我慢した。
どうもラケルはアリクイに対して当たりが強いが、もう募った恨みというより少しいじめて遊んでやろうという気だったかもしれない。確かにちょっぴりおどおどしたアリクイは可愛いと言えなくもないから女性の母性をくすぐるところはあったろう。
まずは狭い通路、奥の方にまず大広間が見える。
かけられた燭台にはもう火がともっておらずただ錆びれて悲しい感じを漂わせ、真ん中にチョロチョロと水の流れる噴水が見られた。
「なんだか怖い場所… 直感は信じなくていい?」
「理論上は、そこまで怖いモンスターはいない… はずだ。」
地下道の雰囲気を感じてから推測から外れた力の持ち主がいてもおかしくないと一行は感じ始めている。増してやリリルアはのどかな木の子の王国で死の花の惨劇を見ているので、ここにも過去の兵器の残骸があって襲って来やしないかと心配だ。
広間には無数の通路へ続く扉と壁に書かれた文字に、天井の高さがますます恐怖心をあおっていく。
「なになに、試練の間…? 力を持つものは左へ知性は真ん中、へたれは右。」
文字を読んで見せたラケルがうーんと可愛く首を傾げているのだが、ますますリリルアとアリクイの方は不安になる。ラケルという子の計画は信用に足るのか…?
「ラケル説明して、何かあぶなーい場所だったりしないここ。」
「多分侵攻を阻むためのいたずらだよ。最短ルートへ続く道は右だな。」
「よりによって一番危なそうな扉!?」
アリクイはもう諦め顔でいて、リリルアは「へたれ」の試練が一番調教っぽくて危なそうだと思っていた。しかしどれも言ってしまえば危なそうな道だから地図を頼りに進んでみればいいだろうと思い渋々ラケルについて行くことにした。
重く軋んだ音を立てる扉を開けて通路へ入って行くとラケルの足元でカチリと音がする。
「あ。」
「気づいたんでよかったよそこから動かないで!? きっと足を上げないと作動しないスイッチ!」
「そういえば忘れておったよ。ここには様々な罠が仕掛けられておってな、ほらこの地図の裏を見ると最長のルートを辿るべし。と、な。」
そんなことなら初めに言え!
すぐにスイッチを押したままでいられる重みのものを探し、ラケルの足元に置かなければならない。
「ラケル体重いくつ?」
「な、なっ…! よ、よんじゅういち…」
「あれ僕39なのに。」
ヴィンセントに捕らえられていた時急激にアリクイは体重が落ちたのだろうが事実の前に赤面するラケル、そして彼女はあろうことかアリクイに飛びかかっていく。アリクイの蛇足にリリルアがどれほど怒りを感じたかは計り知れない。
もうこの旅はリリルア一人でくればよかった。
三人の足元の床がきれいに開いて全員共に落ちていった。




