番外編:もしも、レイジとNo.6=ただの男と女
これはNo.6の心象風景、そして夢。
夢。
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「旦那様!ほら、あれ見てくださいよ!」
うーんと唸って森の中、ちょうどいい陽だまりのある丸い石の上で昼寝をしていた男を、しきりに揺さぶっている女がいる。
「お前、目見えないのになんだって見ろって…」
眠そうに目をこすって起き上がった男はゆっくりと目を見開いた。
「ほー、ありゃすごいね、オオスズメバチかあ。」
女は蜂が森の中でせこせこと働く時期になったということを喜んでいるようだ。
草や花に、気まぐれに止まる生き物を膝をかがめて見つめているようである。男が言っていたように女の両目の見えていないことは伺えるのだが、動いたり、何がどこにいるのか知ることに何も不自由はしていないようだ。
今日、この男女はいつもとある業務に追われて忙しいのだが、久しく暇が取れて梅雨明けを匂わせる快晴になったというので散歩を兼ねた昼食会のために森の中でくつろいでいた。
目を覚ました男は目線を木漏れ日と輝いて見える木々の葉へ、心地よく飛ぶ蜂へ、はしゃいでる女へ、移り移り泳がせながらバラード調の鼻歌を歌っている。
ここは人里離れた森の中で、周りは山だらけだから人っ子一人の気配すらない。
狐の親子が二人を見つめながら、お辞儀交じりに歩いていくように通り過ぎた。
「きっくきっくとんとん…」
まるで新しいおもちゃをもらった子供みたく女は森の中の色々なものに目を輝かせている。
もちろん輝かせる目はないのだが、言葉の調子や動作から簡単に分かる。顔の表情は変わらないものの 途方もなく表情の豊かな人だった。
その狐のお辞儀じみた通りすがりを基点にして男が丸石から立ち上がり、そろそろ昼食にしましょうと持ちかけたところ、女は快く応じた。
男は持ってきていた折りたたみの机を、ちょうど木のない広がった場所を見つけて置くとテーブルクロスをかけたり銀色のバックパックを開けたりと準備を始める。
「今日は僕、手を抜いたよ。作ったのサンドイッチだけだ。うちで去年作ったオレンジのジャムとか持ってきたけれど、お気に召さなかったらすみません。」
「オレンジ栽培って旦那様でしたか?」
「いいや違うよ。このジャムはうちじゃ普段は栽培者の彼しか普段は使わないじゃない、ちょっと拝借してきたんだ。彼にはこの間演劇を見た時、驕りにしておいたから使ってもいいって言ってもらえたんだ。」
準備を終えると、二人はサンドイッチを食べながら、銀色のバックパックに氷と一緒くたに入っていたオレンジのジュースをキラキラと光る透明のグラスに入れて飲んでいる。氷の溶け合う音が暑い日差しや木漏れ日の中に彩りを加える。二人は世間話を続ける。
「そういえば九尾の人どうしたの?あの、黄泉の方にいる。」
「あぁ、それは…確か他の商会の薬物商売に引き込まれてしまったようでございますよ。」
相槌を打ったり、軽い感嘆詞を交わしながら
「そうか。あの人も大変だものね。それじゃあ誰かに行ってもらわないとね、薬物の取引くらいはやめて欲しいものだなあ。」
「あの、旦那様。多分それは要りません、多分物好きでお人好しの魔女嫌いがもう行っていますので。」
「そっか。そっか。麻薬の話はいつも気づいたらあの人が行ってくだらないからやめろと言ってくれた後だものね。」
二人はさきほどの狐の姿でお互いに思い出していた仕事の話を簡単に終えると、またサンドイッチに手を伸ばし始めた。
男の方が外が暑いのでしきりに、溶けてしまう氷を入れ替えたりオレンジジュースを注ぎ足したりしている。仕事の話で真剣になったと思われた二人の、和やかな雰囲気への移調は驚くほど早い。
二人の時間はオレンジの酸味とサンドイッチの甘みの中でゆっくりと過ぎていく。
食事の後二人は森の中をしばらく散歩すると、ひぐらしの声がぽつりぽつりと聞こえてきたのを覚えて帰路に着いた。
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これはNo.6とレイジのもしものお話…
一体全体、違う世界で結ばれた二人と、今の世界の二人がどう異なっているかということは曖昧すぎてわからない。
でもきっと、こんな風な優しい世界へ辿り着ける日がくると信じて。




