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無職だけど異世界で旅がしたい  作者: 橘麒麟
預言者たち:滅びた王国
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「龍神族の聖域ママ・コチャです」

龍のシュラと共に大空へと飛んだリリルア。この世界おいては前人未踏の領域である空だがこれでリリルアは二日連続、二度飛んだことになる。

初め飛んだ時は飛行機で自分の意思通り飛んだものだが今の進行方向はシュラの意思。龍神族の聖域へ向かっていることに違いないが嬉しそうに飛ぶことを楽しんでいる。

右へ左へ体を動かしたり、急降下したり。やっとの思いでシュラの体にしがみ付いている。


ただ吹き抜ける風は心地いい。飛んで初めて新しい朝を迎えていたのだと気づく。


「やっぱり飛べるんじゃない。」


『飛べてしまったな。国に帰ってなにを言われるやら。』


飛行能力を持っていると何やら厄介なことがあるらしい。


「なぜ?」


『下級の龍が飛べていいのかという問題だ。すぐに俺には中級への昇格が言い渡され、洗礼を受けてもおかしくない。神としての象徴でなく力を持ったものになってしまう。先代の下級の龍、これは同時に二匹と存在しないので、俺の引き継ぎと共に洗礼の儀を受けて自我をなくした。動物になったんだよ。』


どうやら人間の子供が大人になって社会の洗礼を受けるように、自立すると龍にも同じことが起きるらしい。

中級の龍といえば自然の意をひたすらに汲むしかない存在だとはリリルアも知っていたので納得がいった。


『ところでお前はどうして龍神族の聖域に行きたいんだ?』


そういえばシュラにはリリルアの目的を説明していなかった。


「滅びた王国を再興して龍神族の庇護下に入れるの。色々やっかいなんだから。」


『西の果て、シュトロハイム王国?』


「そう。知ってるの?」


『ああ。龍神族も国家の裏に潜む裏社会の勢力にはうんざりしてる。奴らの商売が戦争や反乱を巻き起こしているしそれに染まった国家とはまともに交渉ができないからな。世界の価値観はここ数年で一新されたよ、宗教まがいの呪術師なんてのも出てきてるし、龍神族の聖域だっていつ崩壊してもおかしくないんだぜ。』


「あなたたちはそれじゃあどうするの?」


『まずは俺、龍の存在が抑止力として働いてる。この間あんたに落とされたのでそれがどこまで揺らいだかは知らないがな。

シュトロハイム王国の件にも少しばかり噛んでた。うちの方針は大まかに人道主義の昂揚だからな。その手の友好的な国と組んで軍隊を作る計画もあったが、多勢で動くのだろうと思っていたこっちは意表を突かれたのさ。真っ向から商会とぶつかり合うには力も情報も少なすぎて計画は凍結。今に至る。』


結局何もできなかったというわけだが、今リリルアが国民の生きていることを伝え救助を要請すれば叶う可能性は高い。

ただ「庇護下における」ほどの権力を龍が一度落とされた今龍神族の国が持っているかというのは疑問だ。


それにシュラの言う宗教の新勢力。リリルアはその一端に触れたことがある。それはおそらく裏の商会が現代の龍信仰に打倒するため打ち立てられた筋で、薬物売買の一形態。


そこに学ぶだとか伝えるとか、そういうものは一切ない。

ただ人々は苦労なく楽な人生を歩んでいきたいだけだ、。神がいるわけでないし、明確なイメージがあるわけでもない、特定のものを買って使えば悩まないで済む。


そこへ落ちた人間は信徒といより宗教中毒者。


一度だけ情報の間違いで宗教中毒の街へ立ち寄ってしまったことがあるが、狂信的な歓迎から抜け出すのに手一杯だった覚えがある。多分裏商会の側は薬物の取引に加えて小さな衰退した国家を初めに、占領し勢力を伸ばそうという腹だろう。

従っておけばいい。

そういう迷信の植え付けられた人々は都合の良過ぎる駒に過ぎなくなっていく。


しかしこれはまだ一定の地域で蔓延する商業形態、異世界にも薬物を取り締まる法は最低限のモラルとして存在するので大きな王国がこれに食われたという話は聞かない。

裏商会が往々にして手を染める、女、酒、賭博、奴隷や玩具などとは一つ違う次元に薬物はある。

確かに1000つぎ込めば10000返ってくるような商売だし宗教的な抗争の一環としても捉えられるものだが、一旦足を入れれば売り手の方も蝕まれ、やがて滅びるような諸刃の剣。


リリルア自身薬物宗教は急激な龍神信仰の失墜でもない限り確立されないと思うし、金儲けの手段としても一過性のものでしかないと考える。


簡単な話富があって麻薬さえあれば働かず死んでもいいやなんて人も居るだろう。富のある人間に限ってそういうものに手を染めるので普及しきれば社会自体が一気に回らなくなる。金の意味も商売も成り立たないわけだ。

結局別に闇社会が大部分の権力を握っているとはいえ、商売上持ちつ持たれつの関係は変わらない。


『おい、見えてきたぞ。あれが大陸の観測者の役を担う法王聖下ロディニア・フローランシア様の鎮座する聖域。龍神信仰の総本山ママ・コチャだ。』


三十分ほど飛んでから見えてきたのは大陸に一本の長大な橋を渡す一つの小さな島。王国というより一つの町くらいの大きさをしている。

シュラが硬化しはじめて街の風景がつぶさに見えてくる。魔物、自立した機械、聖職者であろうエルフの人民…


「夢のような街…」


『移民や難民は犯罪者であっても拒まない。危ないのはちょっとした管理下に置かれるし、居住区は島の周りに広がる海底都市だ。色んな人がいるから面白い街だし、移民の数は多いのに犯罪件数の少ない稀有な国。

数が少ないエルフの聖職者たちも悪い魔力を取り込みやすい人たちが集まっている。要は持ち前の潜在能力が大きすぎて国を追われてきた者だ。皆幸せだが外部が少し力を加えればすぐに崩壊してしまう体制の下生きている。そこはフローランシア様の手腕がなせる技だな。』


「それでも戦力不足なの?」


『聖域が聖職者で軍隊を構成し戦争に参加してみろ。信仰は終わりだ、全世界を敵に回すことになる。それこそ裏商会の思う壺だろう。我々は強いて言えば自立して行動できない。それに反して独立し戦争に向かう組織が誕生しないのもフローランシア様の力だ。』


「すごいのねフローランシア様って。」


『ああ。まだ若いが街の人の母親のような人だよ。』


大変楽しそうに話すシュラが着陸態勢に入り、何度か街の周りを旋回して正門の前に降り立つ。

正門のところには衛兵も門番も見当たらなかった。やはり島国に橋一つという構図は防衛に向くのだろう、それに橋は動くようで今は渡されていない。

横に小さな港が見える。もっぱら交易や移民の受け入れが行われる場所だろうが今は船が見えない。


『ここで一時の別れだ人間の娘リリルア。私はフローランシアに会ってくる。お前のことも話を通しておくから、少し散策でもするといい。ここは水上交通が発達しているから道案内はボートに乗った人に聞け。

フローランシア様は旅人なら喜んでお会いしてくれる方だ。夜になったら城まで来て私の紹介があると言え、そこまで厳しい検査もない。』


「ありがとう、それじゃあ夜に行くよ。」


空から見て大きな城が街の中心に立っていることは知っている。ある程度散策すればそれは見えるはずであり、そこへ行けなくなるまで迷うことはきっとない。


シュラがまた空へ飛び立ちリリルアは街の中に足を踏み入れる。街の人々が魔物やエルフ、機械である中人間がいるのは不自然かと思ったが、なんとか街の波の中へ溶け込むことができた。


とりあえず昼食でも食べたいなと思った。北の国で自堕落な生活を始めた時からまともな酒を飲んでいない、舌に合うワインもちょっぴりあればいい。

暖かい潮風が吹いている。これならいい酒もあるだろう。


見たこともないような街の風景に心が躍る。

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