魔法?使えました。
お互いの勉強が始まって数日、私は午後から時間が空いたので書庫へ行こうと廊下を歩いていると、
「姉さまっ!!」
と呼ぶ声が聞こえ、顔を向けるとユリウスが走ってきた。
「姉さま。これからお時間ありますか?庭の薔薇が綺麗に咲いているそうなので、一緒に見にいきませんか?」
「いいわよ。一緒に行きましょうね」
ユリウスも稽古がおわったのかと誘いを了承し、庭に行くことにした。
王宮の庭は広く、その中でも薔薇園は先代国王の計らいで簡単な迷路のような作りになっている。そこには様々な種類の薔薇が咲き誇り、今が旬というとても綺麗な景色だった。
「すごい・・・綺麗ね」
圧巻な光景に見入ってしまい、ボーっとなっていると
「すごいですね!!姉さま、もう少し奥まで行ってみましょう!!」
弟が興奮して、私の手を引き薔薇園の中に入ってみると、当然ながら右も左も薔薇だらけで、キョロキョロと周りを見回しながら歩いていると、結構奥の方まできてしまった。そろそろ引き返そうとユリウスに声をかけようとしたとき、
「なっ何を!!?」
と一緒に付いて来てくれていた侍女の声がし、次いでドサっと倒れる音がした。
嫌な予感がして振り返ると、侍女が護衛騎士に斬られていた。咄嗟につないだままだったユリウスの手を引き、彼女が見えないように抱きしめた。
「なっなんてことを!?何故?」
「・・・・」
素直に答えてくれるとは思ってなかったが、私も簡単に殺される訳にはいかないのだ。2度も刺殺なんてごめんだし。なんとか時間稼ぎをして、他の騎士を呼ばなければ。
「最期なんだから教えてくれませんか?誰に頼まれたのです?」
「・・・・」
「狙いは私?まさかユリウスではないですよね?」
「ここで私たちを殺してどうやって王宮から逃げるのですか?」
とりあえず質問攻めにしてみるが、聞いているのかいないのか、答えてくれる様子はない。
「・・・こ・・・・・せ」
「え?」
「お・・・・こ・せ」
「どうしたのですか?」
「王女は・・・・殺せ!!!!」
俯いてなにかブツブツ呟いていて聞き取れなかったが、異様な雰囲気に少しずつ後ずさっていると、急に叫んで剣を振り回してきた。
「ユリウス!!」
私は怯えきっている弟の手を引き走り出した。本当は王宮に向かって走りたいが、逆方向だ。しかも迷路になっているので、迷い込む一方だし。
とりあえずユリウスだけでも逃がそうと必死に走っていたが、所詮3、4歳児。そこまで体力があるわけでもなく、弟と一緒にこけてしまった。
「殺せ。・・・殺す。コロスコロスコロスーーー」
「あぁっ!!」
「姉さま!!?」
男が振り回していた剣が迫ってきたので弟を庇うように背をむけると、背中を斬られてしまった。
・・・完全にデジャヴなんですケド。
背中が熱くなり、痛みで動くことができない・・・。遠い記憶の様に感じていた前世の最期がフラッシュバックしてきた。ワタシ・・・死ぬの?
「姉さま!!しっかりして下さい!!」
ユリウスが泣きながら呼びかけてくるが、背中の出血が多いのか朦朧として言葉にならない。あぁ、またコノ子を泣かせてしまうんだろうか・・・。私は・・・ワタシは・・・
『死ぬの?』
・・・だれ?
『困るよ。君にはまだやってもらわなくちゃならないことがあるんだからさ~』
・・・ナニ、イッテルノ?
『仕方ない。少し早いけど君に贈ることにするよ・・・・上手に使ってネ』
『あ。サービスで背中の傷の血は止めとくから』
「姉さまっ!!離せっ離せよ!!!」
ユリウスっ!?
自分を呼ぶ声にはっとなり目を開けると、男がユリウスの腕を掴んで引っ張っていた。
「・・・コロス・・・コロス・・・コロスーーー!!!」
「ユリウス!!逃げてーーーー」
ユリウスに向かって振り上げられる剣を見て叫ぶが、体が思うように動かない。かろうじて手を伸ばすが届くはずもなく、剣は容赦なく弟に迫っている。
ーーー誰か!!
思わずギュっと目を閉じて祈る。
・・・・・。
「なっなんだコレはっ!!?」
聞こえてくると思っていた弟の悲鳴ではない声がしたので、目を開けてみると、
「・・・・・え?」
一瞬、現実か理解するのに時間がかかった。
「姉さま!!大丈夫ですか!!?」
弟がいつの間には男から離れ、私に呼びかけるが、今見えているモノを処理するのに精一杯でまともに返事が出来なかった。
「くそっ。こいつっ!!」
そこには影から出てきた無数の黒い腕が巻き付き、ソレを剥がそうと必死になっている男がいた。
ナニアレーーーー!!!
「ひぃぃぃ!!離してくれぇ!!!誰かぁ!!」
斬っても斬っても巻き付いてくる闇の腕に男も別の意味でパニックになっている。
「いたぞ!!こっちだ!!」
「姫様ーーー」
「何をしている!!?」
呆然とその光景を見ているうちに、他の騎士たちが駆けつけて来て男を押さえつけていた。
「きゃああぁ!!姫様!?しっかりして下さいませ!!」
私の背中を見た侍女たちが悲鳴をあげている。
それを聞いて私はもう大丈夫だと安心し、気を失っていた。
『上手く使えたみたいだな』
『ふぅ。危なかったー。ちゃんと見てないとダメじゃない』
『誰の所為だよ。』
『ごめんってばーわざとじゃないんだよ?』
『(溜息)』
『無言ヤメテ!!』