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じゅ、獣人だ!ふぁんたじーだぁ!

side⁇⁇


「……」

「あの、ここはどこですか?」


子供を拾った。

こんな場所に子供が居るはずがない。夢でも見ているのだろうか。


ここ『魔の森ルクストロワーツ』は、レベルの高い魔物がゴロゴロ生息している為、各ギルドの警戒レベルマックスに指定されている。つまり弱者がこの森に入ることは死を表し、そんな危険地帯に居るような子供は大抵ワケアリで面倒くさい。

一目で貴族階級だと分かる出で立ちをしているこの子供、関わればろくなことにならないだろう。

無視するに限る。


そう思い身を翻して去ろうとした時、何かがローブを引っ張った。自分以外に一人しか居ないこの状況、犯人は考えずとも分かる。何とか手を離させようと試行錯誤するも離れない。

数分後、諦め後ろを振り向いた。


「……」

「……」

「…来るか」

「はい‼︎」

「はぁ…大きな声を出すな。魔物共が寄ってくる」


数秒間見つめ合い、結局子犬のような目に負けてしまった。

溜息を一つ吐くと、それを小脇に抱えて歩き出した。


「お、おろしてください。ぼくちゃんとじぶんであるけます」

「…この方が速い。もう直ぐ日が暮れるから、あまりノロノロしていられない。分かったら口を閉じてじっとしていろ」

「…はい」


歩き始めて一時間程経った頃、漸く森を抜けた。空は太陽が沈み双子月が顔を出し始めている。


ふと疑問に思った。つい情に負けて連れてきてしまったが、この子供は一体何処に帰せば良いのだろう。そもそも帰る場所はあるのだろうか。

子供を地面に立たせると、しゃがんでその顔を覗き込んだ。そんな自分の行動に自分で驚きながらも、表情は変えずに淡々と尋ねる。


「…お前、名は何と言う。帰る場所はあるのか」


その言葉に子供は驚き目を見開くと、次の瞬間俺にしがみついて声を上げ、大泣きし始めた。


「⁉︎」

「う、うぇ〜ん‼︎ぼ、ぼくしらないお、おじさんがししつにはいってきて…ヒック‼︎うぅ…きがついたらもりのなかで…うぇ〜ん‼︎」」


オロオロしながらもどうにか泣きやませようと、昔母親がしてくれたように、背中をぽんぽんと優しく叩く。一方頭の中では、冷静に子供の言う単語から状況を推測していた。


(ししつ…『私室』のことか。随分と上品な言い方をする。それに、この見た目からして二、三歳だろうに口調がしっかりし過ぎている。貴族階級の子供でまちがいないだろう。どうやら俺は、本当に厄介なことに首を突っ込んだらしい)


そうは考えても後の祭り。だが幸運なことに、親に捨てられた訳ではなさそうだから、家にさえ帰せば後は何とかなりそうだ。


「そのお方から離れなさい」

「りゅ、りゅしー‼︎」


ちょうど考えを纏め終わったその時、背後から刃物を押し付けられた。どうやらこの子供の身内らしい。聞こえてきた声は若い女のもので、相当な手練れなのか、その声には迷いも恐怖も一切無い。


「だめだよリュシー、そのひとはぼくをたすけてくれたんだ!もりにとばされたぼくを、ここまでつれてきてくれたんだよ‼︎」

「え?」


子供の言葉に女の気配が緩んだ。その隙を逃さず女の武器を奪い、逆に自分の剣を突きつける。

月の逆光になって顔はよく見えないが、まだ二十歳にもなってなさそうな感じだ。


「おまえの知り合いか?」

「は、はい!ぼくのうばでごえいのリュシーです」

「…そうか」


(乳母兼護衛…相当強いな、こいつ)

まだ俺を信じきらず、毛を逆立てた子猫のように警戒心を剥き出しにしている女を落ち着かせようと、説得を試みる。


「その子供の言う通りだ。俺は何もしていない」

「信じられません。だったら貴方は何者なのですか」

「俺はただの通りすがりの冒険者だ」

「冒険者?」

「あぁそうだ。依頼でこの森へ採取に来ていた」

「…証拠はありますか?」

「これを」


証拠を求める女に、ギルドの依頼書を渡す。それには、冒険者ギルドが正規で発行した証の判子が押してあるから、何よりの証拠になるだろう。


「申し訳ありません、主の恩人にとんだ無礼を!本当に申し訳ありません‼︎」


依頼書をじっくり見つめ、女は警戒を解くとそう言って、何度も頭を下げた。

俺はあまり頭を下げられるのは好きでは無いから、止めさせようと肩を掴んだ。それに驚き咄嗟に上げたらしい手が俺のフードに当たり、フードが脱げた。

俺は咄嗟に女から距離を取ると、剣の柄に手を伸ばした。

女は俺の頭に生えているものをみて呆然としている。


俺は人間ではなく、赤虎の獣人族だ。この国はまだマシだが、亜人族は基本的に余り喜ばしいものではなく忌避される。特に貴族階級の奴らは酷い。

この女も顔を顰めるだろう。その時は、この剣でその細い首を斬り飛ばしてやろうと女の気配を読む。

すると女は顔を俯け、一歩一歩俺に近づいてきた。何か只ならぬものを感じて警戒を高めたその時。


「じゅ、獣人だ!ふぁんたじーだぁ!本当にいたんだ、キャー凄い凄い‼︎」

「……は?」


女は顔を顰めるどころか歓喜の声を上げ、その場で飛び跳ねた。ふぁんたじーってなんだ?意味が分からん。

おれも子供も唖然と固まる。

その時、女の顔が月に照らされ露わになった。

その顔はとても美しく、髪は夜の星空のように黒く、瞳は静かな湖面のように碧かった。

俺は悟った『この女が俺のつがいだ』と。











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