第18話 eスポーツ大会(午後の部 ー決勝、そしてサプライズー)
「へぇ~、渚ちゃんと同級生なんですね。私も瀬崎さんと同じく彩音ちゃんって呼んでもいいですか?」
「あ、はい。私も、皆瀬さんとお話できて光栄です」
若干、緊張気味な様子の彩音ちゃん。
・・うん、まぁ、いきなり有名な芸能人に会ったら、大抵の人がこうなっちゃうよね。
「・・・で、この前テレビでやっていた「幻のパスタ」の考案者って、瀬崎さんですよね?一体、どういうことなんです??」
・・そして、「大抵の」に当てはまらない美少女JKさんは、追撃を休める気配はない・・
とりあえず今の状況を説明すると、「株式会社JINNAI記念主催eスポーツ大会」イベントの真っ最中。
午前の部の予選が終了し、午後の決勝に入る前の1時間の休憩タイムだ。
この休憩タイムは観客はもちろん、出場選手、司会進行、解説をメインで務めている方々も休憩となる。
具体的に休憩はどこで取るかと言うと、まず一般のお客さんは、近隣の飲食店に行って頂くか、ゴミを出さなければ観戦会場は飲食OKなので、そこで食べても良い。会場の様子を見るに、午前の感想を言い合っているグループもいる様子で何よりだ。
選手や解説の方々は、会社にとっては招待客でもあるので特別だ。
まず選手は30名一人一人に個室が割り当てられる。大会社主催なので、色んな意味でそこは抜かりない。解説の方々も一応部屋を割り当てられているけど、打ち合わせ等でスタッフがひっきりなしに出入りしているので、個室と言うのかなぁ・・?
ちなみに選手や解説の方々の休憩については、結構な有名人もいることもあり、大会が終わるまでは社内に留まってもらうようにお願いしている。昼食も持参して個室で食べたり、デリバリーも許可してある。
あるいは、「JINNAIの社員食堂」の利用も本日特別に可能だ。
実はこの社員食堂、グルメ番組に度々紹介される位、その味に定評があるらしい。後で聞いた話だと、「大会時はこれを食べる様にしている」といういわばジンクスを持つ選手の方以外はほぼ全員、お昼は社員食堂を堪能してくれたらしい。・・なお、ジンクス持ちの選手の方には大会終了後、「できたら社員食堂使わせてくれませんか?残り物で全然かまわないので!」という人もおり、特別に振舞ったと言う・・ええ話や。
さて、説明が長くなってしまったが、ワタクシ、不肖瀬崎が長を務める「サプライズ企画」担当チームの休憩および昼食はと言うと!?
・・そのまま、「簡易スタジオ」内で摂って頂いております・・ハハッ。
まぁこれは、もちろん上司・・この場合、自分か・・のパワハラなどではなく、「サプライズ企画」チーム故である。
「敵を欺くには味方から」という訳でもないが、このサプライズ企画の内容については、社内でも島津さん他ごく一部のスタッフにしか知らされていない。「女優 皆瀬瑠衣」が「スペシャルゲスト」兼「バーチャル公式マスコットの中の人」なのは、トップシークレット扱いなのだ。
また、もう一人の「バーチャル公式マスコットの中の人」が渚氏、「代表取締役社長陣内隆利CEOの一人娘」なのも極秘事項。・・・後でネタ晴らしする皆瀬さんと違い、公開する予定がない事を考えるとこちらの方が機密かも知れない。
そういった理由から「サプライズ企画」チームは、休憩中も原則、本スタジオに缶詰め状態なのだ。
「いや~、店長。美女美少女に囲まれてウハウハですね」
「・・ウハウハって野上さん、本当にそう見える?ってか、そんな表現、いつの生まれよ??」
「「店長!?」」
・・・休憩中とは言え大イベント中なのに、俺の周りには大物が多いのかも知れない・・・
などとやっている内に、1時間の休憩などあっという間に終わった。
メインMCのシャウトから、午後の部が開始された。
「さあ、これより本選だ―!予選を通過した8名によるトーナメント。プログラムによるランダムシャッフルの組み合わせ結果はこれだ!」
会場のメインスクリーンにトーナメント表が表示される。
「結構バラバラ?」
「・・いや、順当に行けば予選1位と2位が準決で当たる。予選戦績同率の4位と5位も1回戦で当たってる。・・決勝以外でも面白い闘いが観れそうだ」
・・・なんかやたら詳しい解説する方が、お客さんの中にいるなぁ。
「それでは、本選トーナメント。第1試合より開始です!!」
本選はプロ含む実力者同士の対戦なので、実況解説もメインの方が主体となる。
とはいえ、「ジーンくん」と「アイちゃん」にも振られ、「素人目線」的なコメントが良い感じで返されていく。
「・・・皆瀬さんの対応力、凄いなぁ」
「・・それについていけている渚さんも、本当に未経験者??」
「そこは渚ちゃんですから~」
「「もはや諦めの域!!」」
そして、あれよあれよという間に準決勝、決勝と名勝負が繰り広げられ、会場のボルテージはマックス。
・・そして、俺たち「サプライズ企画」チームの真の本番も、もうすぐだ。
「勝負あり!ここに株式会社JINNAI記念主催「ファイティング・ファイターズ5」eスポーツ大会、チャンピオンが決定だーーー!!!」
試合が終わった。
後は表彰式を行い、最後に司会進行役の方から「アイちゃん」の中の人を務めたのが「女優 皆瀬瑠衣」であったことが発表され、サプライズでステージに登場。
・・・という打ち合わせだったのだが、
「・・さて、これにて表彰式を終えた訳ですが、ここで本大会を盛り上げて頂いた選手の方々とご来場の方々への感謝の意を、・・当社代表取締役CEO陣内より申し上げたいと思います」
「「「え?」」」
壇上にスポットライトが当たり、そこには、
「この度は、当社主催のeスポーツ大会にご参加ならびにご来場いただき、誠にありがとうございます!本大会を主催しました株式会社JINNAIの陣内隆利と申します。本大会を盛り上げて頂いた皆様に、お礼の言葉を申し上げるお時間を暫し、頂ければと思います。」
・・・・・
会場がしばし沈黙。やがて、会場の端々から、
「・・陣内って、テレビにたまに出てるイケメン社長?」
「え、本物?」
「・・・アミューズメント界に留まらず、今の日本でも屈指のやり手社長が目の前に?」
ホント、やたら詳しい方、客席に一人はいるよなぁ・・
「うおーー!主催者キターー!!!」
「テレビで見るよりイケメン!!」
「大企業のトップが前置きなくいきなり?サプライズか!!?」
サプライズめいた雰囲気を把握した面々がヒートアップ。それは大変良いことなのだが、
「・・・聞いてないですよ、社長・・・」
反射的に防音ガラス越しのご息女を見るが、首を横にブンブンと振る。・・どうやら身内にも聞かされていなかったようだ。
・・・だが、俺たち「サプライズ企画」チームのやることが変わった訳ではない。チームメンバー全員に念を押す。
「・・合図が来たら、打ち合わせ通りに。皆瀬さん、みなさんよろしくお願いします」
全員が俺の方を向き、うなずいてくれた。
陣内社長のトークは続く。
「さて、今大会で初披露させて頂いた当社のマスコットキャラ「ジーンくん」と「アイちゃん」のバーチャルバージョンですが、・・本大会のようなバーチャルキャラとしての今後の活動は、現段階では予定しておりません。」
会場がざわめく。
「・・・というのも、今回はある特別なゲストに、マスコットキャラの一人の声をご依頼したからです。」
「本日、当社マスコット「アイちゃん」の声を演じて頂きました「皆瀬瑠衣」さん!どうぞご登壇ください!!」
司会進行役からではなく、まさかの社長直々のネタ晴らし。
俺は冷静に一言。
「皆瀬さん。お願いします」
芸能人。女優の顔になり、彼女はステージに向かう。
「え?うそ?」
「皆瀬瑠衣って、まさか・・」
ステージ中央、陣内社長と対面する位置まで向かう。そして観客の方を見て第一声。
「ご紹介頂きありがとうございます。本日「アイちゃん」を演じさせていただきました女優の皆瀬瑠衣です」
「本物キターーー!」
「声からまさかと思ってたけど、本人!?」
「またまたサプライズだ――!!」
人気女優の登場に、さらにヒートアップする会場。タイミングを見計らい、彼女は続ける。
「みなさんに、そんなに驚いてもらって嬉しいです!」
「私も、JINNAIさんのマスコットキャラクター、しかも今回だけの特別なバーチャル役をさせて頂き、大変光栄です!」
「eスポーツは名前だけは聞いたことがあるくらいだったんですが、選手の方々も応援しているみんなもすごく楽しそうで、こんな世界があるんだ!とワクワクな体験をさせてもらいました。」
「選手の皆さん、応援してくれた皆さん、そして本大会を開催、運営してくれた皆さん。最後までお疲れ様でした」
「そして、ありがとうございました!!!」
「ありがとーー!」
「楽しかったよ――!」
「感謝ーーー!!」
再び沸きたつ会場。
その中心は間違いなく、「皆瀬瑠衣」だった。
「・・この素晴らしい大会もこれで終わりだけど、・・・こんな特別な時間への感謝を込めて、最後にもうひとつだけ、ちょっとしたサプライズをさせてもらいたいと思います」
・・聞いてませんよ? 皆瀬さん??
「・・今大会のために創った、私の新曲です!」
「嘘!?」
「新曲!!?」
「聴いてください!「ALL Precious」!!」
皆瀬さんの合図で会場に音楽が流れる。・・という事は、少なくとも舞台、音響関係もグルか・・
などと思いながらも、ステージのボルテージはこれまで、いやそれ以上に上がっていく。
正しい事なんて知らない
未来なんて知らない
やれること信じよう
そのすべて讃えよう
All Precious
かけがえのない、今を…
・・それは、ここにいる「すべてを尊ぶ」そんな歌。
「株式会社JINNAI記念主催「ファイティング・ファイターズ5」eスポーツ大会」は、こうして大成功の内に幕を閉じた。




