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第17話 eスポーツ大会(午前の部 ー予選ー)

・・その時は来た。


「お待たせ致しました!ただいまより、株式会社JINNAI記念主催、「ファイティング・ファイターズ5」eスポーツ大会」を、開催いたします!!」


メインでMCを務めるeスポーツ専門の実況と解説が、まずそれぞれ紹介される。


「さて、今回はエンターテインメント界の新星「JINNAI」の記念主催と言う事で、特別ゲストが来てくれています!自己紹介どうぞ!!」


「はじめまして!ボクは、株式会社JINNAI公式マスコット「ジーン」です!」


「同じく公式マスコットの「アイ」です!」


「「本邦初公開のバーチャルキャラとなります!!よろしくお願いします!!」」



「うぉーーーー!!」

「公式マスコットのバーチャル化!?」

「めっちゃ動いてる?すげーー!」

「かわいいーーー!!」


大会を盛り上げようとする歓声や驚きの声と言ったものが、会場に熱気をもたらす。

どうやら、出だしは上々のようだ。


「お客さんたちの反応は良さそうですね。動作の方も、今のところ問題無さそうです」


「のようだね。・・にしても、皆瀬さんはともかく、渚氏もトーク動じなさすぎない?」


今、俺がいるのは会社内にある、いわば「簡易スタジオ」。文字通り、簡単な収録等を行える部屋である。

・・なぜこんな施設が社内にあるかと言えば、試験的ながら、ネットやテレビなどで通販番組のようなものを独自で行っているからと言う事。・・大手だなぁ・・

なので、外からの音が入りにくい防音ガラスの向こうで、渚氏と皆瀬さんが現在バーチャルキャラを務めており、有事の対応のため、俺、彩音ちゃん、野上さんが待機している状況だ。


「・・そこは、渚ちゃんですから」


そう。企画通り、その辺にいる・・と言っては語弊があると思われてもしょうがないが一応、一女子高生である「陣内渚」と、人気有名女優「皆瀬瑠衣」が、バーチャルとして共演しているのだ。


渚氏が演じるのは、好奇心旺盛な男の子と設定されている公式マスコット「ジーン」。

皆瀬さんが演じるのは、ジーンの幼馴染で暴走を抑えるけど、たまに一緒に好奇心を爆発させることもある女の子と言う公式マスコット「アイ」。


・・なんだか、後者の設定が盛り気味な気もするが、まぁ、そんなものなんだろう・・とにかく、いわば「役」を演じていた。


驚くことに、二人とも当初予定していた「ボイスチェンジャー」は使っていない。役者として幅広く活動できるよう努めている皆瀬さんが「小さな女の子」を演じれるのは、流石という限りなのだが、


「渚さん、声優経験とか無いんですよね?「小さな男の子」の声をきっちり演じているというのが・・芸能界を少しは見てきた私からしても、信じられないんですけど・・」


皆瀬さんのサポートとして待機しているマネージャーの野上さんも、目をパチクリとしている。


「・・・・・渚ちゃんですから?」


「「殺し文句に、早くも自信を失くしてきてる!!」」


何はともあれ、裏方組も目まぐるしくなるであろう、ビッグイベントが遂に始まった。


―――――――――――


本日のeスポーツ大会で競われるゲームのタイトルは、「ファイティング・ファイターズ5」。

人気の対戦格闘ゲームである「ファイティング・ファイターズ」シリーズの5作目だ。

1作目2作目でプレイヤーから絶大な支持を得て、3、4作目も上々の評価。だが、システム的に進化した結果、対戦のハードルが上がってしまい「これから始めるには少々難しいのでは?」と言った評価も多く見られた。

そこで、「新規プレイヤーも入りやすく、かつこれまでのシリーズ強者も飽きさせない」をコンセプトに作り上げられたのが、この5作目らしい。

結果、「絶妙なバランスの傑作」として評価され、eスポーツ大会に多く採用されているゲームの一つとなっている。


今回の大会の進行内容を、公式マスコットのお二人さんが説明してくれる。


「本大会は出場選手30名でまず予選を行い、上位8名が決勝に駒を進めるよ!」


「決勝は、予選を勝ち抜いた実力者同士が、負けたら終了の緊迫感最高潮のトーナメント形式となります!」


「そして、今から行われる予選ですが、選手が闘ってもらう相手は、なんと、会場の皆様です!!」


「ジーンくん」の発表に、会場がどよめく。


続けて、「アイちゃん」と「ジーンくん」が、交互に詳細を説明する。


「厳密に言うと、事前に会場参加を募りました「一般のプレイヤー」の方々になります。ですが、予定数に若干の空きがありますので、今、会場にいらっしゃる方々から募りたいと思います。なお、それでも数が満たない際は、当社のスタッフが務めさせていただきます」


「選手の皆様には、ランダムで選出された一般の方またはスタッフとハンデ付きで3戦行って頂き、その結果で決勝進出者8名を選出したいと思います」


「そのハンデ内容はこちら!正面の大型スクリーンをご覧ください!」


颯爽と表示されたハンデ内容に、今回のゲームに詳しい面々は得心のいく反応を示す。


「・・・あ~、これはきつい」


「鬼だw」


「なかなか面白いじゃん」


だが、会場の中には当然と言うか、「え?ふたり?」「どういうこと??」となっている人もいる。ハンデ内容を説明する。


「今回行われる「ファイティング・ファイターズ5」では、使うキャラの特性を「パワー」と「テクニカル」の2スタイルから選ぶことができます」


「「パワー」タイプでは、通常攻撃の威力が高めの代わりに、コンボ。いわゆる連続攻撃が入りにくく、与えるダメージも通常よりそこまで上がりません」


「それに対し「テクニカル」は、通常攻撃の威力がパワーに較べて低い代わりに、パワーよりもコンボを入れやすく、コンボを行った際に発生するコンボダメージも高く設定されています」


「ざっくり言うと、「パワー」は初心者向け、「テクニカル」は上級者向けとなる訳です。「ファイティング・ファイターズ5」が、初心者から上級者まで楽しまれている理由の一つですね」


「・・とは言え、キャラによっては明らかに「パワー」、「テクニカル」寄りのキャラが存在します。通称「パワーの「ザキエフ」」、「テクニシャン「バルロ」」です。選手にはこの2キャラを、「ザキエフ」をテクニカルで、「バルロ」をパワーでと、あえて使いにくい方で、一般のプレイヤーと対戦してもらいます。あ、一般の方はもちろん、キャラ、スタイルの制限はありません。それがハンデです」


説明を聞いて会場から、「お~」と、納得の声が上がる。


「あれ?選手には3戦やってもらうんだよね?もう一戦は?」


「よくぞ聞いてくれました。再び、スクリーンをご覧ください!!」


1枚のゲーム内画像が、スクリーンに表示される。


「説明しますと、今スクリーンに表示されているのは、本作の主人公である「ケンリュウ」でストーリーモードをやる際に、途中で発生する「強制敗北イベント」のシーンです」


「プレイヤーはケンリュウを操作できますが、深手状態と言う設定のため、体力は1割ほどでスピード、パワーも半減となっています。これではまず相手を倒せません。実は一応倒すこともできますが、ストーリー的には負け扱いになります。ちなみに開発様の話では、2スタイルどちらでもここでは同じステータスだそうです」


「開発側の話、助かる!」うんうん、わかるぞ。でも説明は続くよ。


「本来、このキャラは対戦では使えないのですが、開発様のご厚意により今大会、特別に使用できるようにしてもらいました!選手の皆様には、このキャラで3戦目を行って頂きます!!」


会場からは、「そうきたか!」、「え?すごくね??」といったある種の賞賛と、「確かにこれは究極のハンデww」というある種の笑いが上がる。


なお、この予選内容は、選手にも今知らされたため、「マジかよ・・」と言う声も聞こえたが、そこは各々頑張って欲しい。勝つメリットは大いにあるし。


「なお、3戦目のハンデが非常に大きいので、3戦目に勝利した選手の人数次第では、本選出場を優先いたします。つまり1戦目2戦目の戦績が芳しくなくとも、決勝に上がれる可能性がある訳です。選手の皆様は最後まで諦めることなく、予選を頑張ってください!」


「では、準備が整い次第、予選を開始したいと思います!!」


こうして予選が始まった。


選手側または一般プレイヤー側のどちらかに、勝敗が偏り過ぎないかの懸念があった。だが蓋を開けてみれば、1,2戦目は流石と言うか、選手側の多くが勝つ、理想的な展開となった。

そして、大ハンデとなる3戦目は、ほとんどが一般プレイヤー側の勝利となった。具体的な数字だと、選手側で勝てたのは6選手のみ。うち一選手は1,2戦目は勝てていないので、運の所が大きかったのかも知れない。

それでも、冗談とも思えるハンデですら、選手の5人に一人は勝てたと言うのは、一般プレイヤーに凄さを伝えると言う目的には十分だろう。


「このハンデでも勝てない。・・やっぱ強い・・」


「何とか勝てたけど、同キャラだと勝てる気が全くしない・・」


「善戦したんだけど、やっぱ無理かぁ~」


こうして、プロまたはトップ選手たちの面目は保ちつつ、決勝トーナメントに進む選手8名が決定。

無事に予選が終了し、1時間の休憩タイムとなった。



「ふぅ。・・緊張した」


「これがバーチャルなんだ。・・勝手が違って、新鮮かも」


休憩タイムとなり、公式マスコットを務める二人も、席を外すという形で画面から姿を消している。その間の映像や音声が誤って入らないことを確認した上で、サポート組がいる編集ルームに、二人とも移動してきた。


「渚ちゃん、お疲れ様!よかったよ!!」


「皆瀬さん、お疲れ様です。問題なかったですよ。」


それぞれのパートナーを激励する中、一応ではあるが責任者の俺も声をかける。


「皆瀬さん、渚氏、お疲れ様です。この調子で午後もお願いします!」


二人とも一瞬喜んだ反応を示すも、何故かすぐに揃ってジト目となる。え、何か問題があった!?


「ありがとうございます。・・ところで、そちらの可愛い子、改めて紹介して欲しいんですけど?」


あ、ああ。・・そう言えば、皆瀬さんには、彩音ちゃんは朝一で簡単に紹介しただけだっけ?


「瀬崎さんどうも。・・ところで、先日の「幻のパスタ」ですっけ?あの時の話、詳しく聞きたいんですけど?」


渚氏は、なんで今、その話!?


俺に対し何故か当たりが強い二人と、それを止める気配すらないそれぞれのパートナーさんたち。なんで?


・・とにかく、ええい!


「時間も無いので、まずは昼食を取りましょう!」


至極、妥当な提案をして、いったんお茶を濁すしかなかった・・



とは言え、険悪だとか、仕事的にネガティブなムードではなさそうだ。なんだろう?


なにはともあれ、サプライズ企画は、これからも山場だけどきっとうまくいく!

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