64.ソロモンの過去
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俺はソロモンという赤ん坊として、この世界に生まれ落ちた。
最初に見たものは、揺れる天井でも、人の顔でもない。
夜空だった。
無数の星。
その配置。
明るさ。
わずかな揺らぎ。
それらを見た瞬間、俺は直感する。
(ここは、地球じゃない…?)
恒星の位置関係が違う。
星の並びも、既知の天文学と一致しない。
それは“別の惑星”か、あるいは“別の世界”だった。
だが、それ以上に異常だったのは視界そのものだった。
人間には見えないはずのものが、そこにあった。
赤外線と思われるもの。
紫外線と思われるもの。
そして、電磁波に含まれている波長と思われるもの全て。
まるで世界そのものが、無数の光で構成されているかのように感じられた。
その中に、一つだけ“理解できない波長”が混ざっていた。
既存の知識には存在しない揺らぎ。
(これは何だ)
やがて成長するにつれ、俺はそれを理解する。
人が魔法を使うとき、その普通は見えない何かが“束ねられている”ことに気付く。
光でも熱でもない。
だが確かに存在し、世界に影響を与える何か。
俺はそれに魔力波という名前をつけた。
魔力波は、恒星から常に降り注いでいる。
光と共に流れ込む見えない波。
この世界そのものを満たす、もう一つの自然現象。
それからの俺の興味は、急速に変質していった。
世界はただの風景ではなく、観測対象になった。
空を見上げれば、星の光に混じる不可視の波。
人の身体を見れば、微弱な熱と光の揺らぎ。
水の流れにも、岩の内部にも、全てに“情報”が流れている。
俺はそれを理解しようとした。
名前を付け、分類し、再現しようとした。
だがこの世界の知識体系は、あまりにも狭かった。
魔法は体系化されていた。
術式は完成されていた。
しかしそれは、人間が“見える範囲だけ”を切り取った結果に過ぎない。
ならば、その外側はどうなっているのか。
なぜ誰もそこに疑問を持たないのか。
やがて俺は、ひとつの結論に至る。
この世界の魔法体系は、“未完成”だ。
完成しているのではなく、観測できる範囲でしか完成していない。
それを理解した瞬間、俺は決めた。
すべてを知る必要はない。
ただ、“知られていない領域”を観測すればいい。
それだけで、この世界は今より遥かに面白くなる。
そしてその選択が、やがて俺を学院へ、研究へ、そして冒険者という立場へと導いていくことになる。
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