50 対峙
「…は?」
「あ?」
「…今、なんて言った…」
「聞こえなかったか?そんなに俺のプレゼントが気に入ってくれたんだなって言ったんだよ」
「…お前がやったのか…」
「何を」
「…俺の家の前に、あれを…」
「あれって何だよ」
「…死体を」
「何の死体?」
…ッ!!こいつ!!!
「だから…!!!俺の家の前に赤ちゃんの死体置いたのお前かって聞いてんだよ!!」
「ああ、そうそう。あれ置いたのは俺だよ」
…!!!
「お前が…!!やったのか…!!!」
初めての経験だった。怒りや、悲しみが充満する前に一瞬で全身が殺意に染まった。
思考すら置き去りにして、すぐさま太ももに巻き付いた鞘からナイフを抜きクライルへと肉薄する。
「馬鹿が…」
ポツリとその言葉が聞こえた直後、視界がぐるりと回転する。
「うあ”…!!」
右半身が地面に叩きつけられ、衝撃と痛みで握っていたナイフを手放した。
あれ…なんで、俺は地面に倒れてる…?
何が起きたか理解が追い付かずほんの少しの間呆然とする。すると瞬く間に、俺は腕を極められクライルに組み伏せられていた。
「お前、なんでそのやり方で俺を殺せると思った。何回も稽古で実戦やったよな。お前俺に勝てたことあった?」
「うるさい!!!離せ!!殺してやる…!!!」
「おー、怖い怖い。そんな怒んなよ」
「ヘラヘラしてんじゃねぇ!!!生まれて間もない命に…!!あんな残酷なことしておいて!!!」
「別にヘラヘラもするだろ。俺はあの子殺してないし」
…え?
「…は……何…言って……じゃあ…誰が…」
「殺したかって?そりゃ教会の連中だよ。お前が、あの子を預けた教会の連中」
「…え……なん…で……教会の…人が…」
「あそこはただの教会じゃないからな。表向きはそうなっているが、裏では闇取引の窓口をやってる。薬物、盗品、億単位の希少品、なんでも買い取ってくれるらしいぜ。もちろん、人間もな」
…人…間…?
「そういえば…話を聞くと、最近その教会のお得意様が赤子の部位を集めるのにハマってるみたいで。調達に難航してたんだけどある日心優しい人物が無料で素材を―――」
「…やめてくれ」
限界だった。
「もう…わかったから…。だから…もう、喋らないでくれ…」
「あ、そう。てか今更?…わかってなかったのかよ。俺ちゃんと、手紙に書いてあげたと思うんだけどな。『お前が殺した』って」
「そ、それは、違うだろ!!…だって…俺が殺した訳じゃない…!!」
「何言ってんの。お前が大して警戒もせず、怪しい教会にあの子を預けたから―――」
「違う!!!…そんな場所があるって…知らなかったんだ…!…あの時は必死で…警戒とかも…」
「……あのさ。俺、お前のこと一応評価はしてるんだ。教えたことはちゃんと身に着けるし、暗殺の技術を自力で改善してくることもある。つまりな、お前は馬鹿じゃない。なぁ…」
「わかっててやったろ?」
「…ぃ……あ…」
何も…言えなかった。
「お前3ヶ月はガナレ地区で暮らしてたよな。ここでの仕事だって3回目だよな。だったら、お前が、気づかない訳ないんだよ。ガナレ地区がどれだけ汚れた場所かなんて」
…ち、違う。
「教会でも怪しいところが、何か違和感があっただろ。それでもう十分だ。教会が信用できない場所だと判断するのに十分」
…違うんだ…。
「それなのに、お前はあの子を預けた。なんでか教えてやろうか?逃げたかったからだ。自分で殺す覚悟も無い、かといって生かす覚悟も無い。だから、お前は責任を放棄して逃げたんだ」
「…ち、ちが…」
「何が違うんだよ!!!」
俺に馬乗りになっていたはずのクライルが目の前でしゃがみこみ、俺の髪を掴んで顔を持ち上げる。
「反論があるならはっきり言え!!!さっきみたいに馬鹿でかい声でな!!!」
「…う…ぁ」
「強く言い返せないのが、殺意すら俺に向けられないのがいい証拠だ!!!自分でもわかってるんだろ!!危険だとわかってて教会に預けたって!!お前が殺したんだよ!あいつは!!!」
クライルが握っていた俺の髪を離した。
「…躊躇えばよかったのに。お前がもし、教会に預けず自分の家であの子の面倒を見る選択をすれば、俺が痕跡を辿ってお前に合流して、信頼できる場所にあの子を預けることができた」
コツコツと足音が離れていく。
「俺のことが信用できない気持ちは、わかるけどな。ボスだったらああいうのは殺すし、その教育を受けてる俺も同じ判断をすると考えるのも無理はない。ただ、俺は救える命は救う方だ。それで、あれは救える命だった。実際ボスにもあの子に関連する情報は渡してないし………って、聞いてないか」
遠くの方で足音が止まった。
「どうする。稽古やるか?別にやらなくてもいいぜ。それで困るのは俺じゃない」
古い倉庫に無音が鳴り響く。
「…次からは殺せよ。どうせお前に、人を生かすなんて到底出来っこないんだから」
その言葉を最後にクライルはどこかへ消えていった。




