二十四話 お友達になりたい
二十四話 お友達になりたい
カトリーヌは睦美を、つぶらな瞳でじっと見つめる。
・・・まさか、油断させておいて、いきなり襲ってこないよね ・・・
睦美も気を引き締めながらカトリーヌを見つめる。やはり、違和感がある。もし、トビが操って要るのなら何処かにトビが潜んでいる筈だが、まったくその気配はない。最初にカトリーヌに会った時から睦美には、彼女が自立した1人の人格として見えていた。そこから導き出されるものは……?
・・・ひぃぃぃ、やっぱりそうなんだ。彼女は…… ・・・
この世には人成らざる者が潜んでいる。服部家では代々その人成らざる者とも関わりを持ってきた。魍魎と呼ばれる闇の存在。睦美の目は幼い頃から色々なものが見えていた。それが特殊な目であると気が付いたのは小学校に上がってからだった。普通の人には見えないものが見える。幼い頃の睦美は家から出るのが怖かった。睦美の親も、そんな睦美に手を焼いたが、睦美の目が特殊なものであると気付くと、貴女は神様に選ばれた人間です。貴女のその目を人の為に役立てるのです。けして、恐いものではありませんよ。貴女の目は真実を見抜く目なのです。貴女が、もっと大人になったらきっとその目の素晴らしさに気が付くでしょう。幼い睦美は両親のそんな言葉を毎日聞き、段々と目の使い方を覚えてきた。そして、今、目の前にいるカトリーヌ。明らかに人ではない。確かに恐ろしい感じは漂ってはいるが、同僚のトビと一緒に住んでいるうえ、先日のツーリングでは金田一家を助け、その後も湖に飛び込んで正一を助けようとした。
・・・そうだよ。カトリーヌさんは悪い人じゃない・・・
睦美が引きっった笑顔をカトリーヌに向けると、カトリーヌもニコッと首を傾げる。
「私、お友達が居ないから睦美さんと友達になりたいんですよ。トビ様は私を守ってくれている親みたいな存在なので…… 」
「トビ様? 」
「ええ。トビ様は殺されかけていた私を救ってくれたのです。昔の私は人間に害をなす存在だったと思います。だから殺されかけたのですが、トビ様は、たまたま逃げ込んできた私をかくまってくれたのです。ご存知かも知れませんが、トビ様の幼馴染みの卯月様は魍魎を討伐するお仕事をしていましたので、その卯月様にも内緒にして私をかくまってくれたのです。もっとも、あの卯月様に何時までも隠し通せる筈がありません。トビ様に何度も引き渡しを迫ってきたのですが、トビ様はその度に私の事を庇ってくれました。その内に、卯月様の方も心境の変化があったようで私の事を認めてくれるようになったのです。こんなに嬉しい事はありませんでした。トビ様の他にも私を認めてくれる人がいる。でも、その卯月様も亡くなってしまいました。闇の世界を統べていた者を倒すため自らの命を犠牲にされたそうです。そんな寂しさのなか睦美さんが私の正体を分かっている事を思い出したのです」
カトリーヌはつぶらな瞳で睦美を見つめ動かない。
「も、もちろんですよ、カトリーヌさん。私もカトリーヌさんとお友達になりたいと思っていました 」
「良かった。やっぱり睦美さんも好い人で嬉しいです。ビスクドール好きな人に悪い人は居ませんからね。それでは、お友達の証にこれを差し上げます 」
カトリーヌは、睦美に持っていた箱を渡す。睦美が、その透明な箱を見ると中にはカバキコマチグモの標本が入っていた。そこの自動販売機で購入したものとみえる。
「ひ、ひぃぃ! こんな貴重な物、も、貰っていいんですか? 」
「フフッ お近づきの印です 御遠慮なく 」
睦美は引きつったままの笑顔でカトリーヌから毒蜘蛛の標本を受け取った。
* * *
月夜たちは、居酒屋半蔵で新年会で盛り上がっていた。
「ちょっとぉ、何で課長が居るんですか? 」
「風魔さん、私だってたまには羽を伸ばしたいんだよ 」
「まあまあ、楽しくいきましょうよ 皆さん 」
月夜たち5人の他にも、株式会社サイレンスの金田課長と風魔伊織、それに駅のホームで睦美が知り合った唐沢牡丹まで参加していた。
「あの、服部師匠。私まで参加してしまって宜しいのでしょうか? 」
牡丹が遠慮がちに言うが、すでにいい調子になっている睦美は、OKOKと手を振る。
「大丈夫。みんな好い人ばかりだから。因みに今日はうちのチーフの奢りだから、バンバン頼んでね 」
「了解しました。師匠 」
牡丹が元気に返事をするが、月夜の顔は引きつっていた。
「私も持ち合わせ有りますから出しますよ 」
忍が月夜の耳元で囁き、それを見た寅之助が、相変わらず仲良いですねと二人を冷やかすと、トビもにこりと笑顔を見せ、トビを心配していた月夜はホッと安堵した。
「牡丹ちゃんは、どんな仕事してるの? 」
「私は派遣なので、色々な所に行ってますよ 今は家電の量販店で携帯の契約取ってます 」
「へぇ、牡丹ちゃん可愛くてスタイルも良いから、ちょっと笑顔見せればたくさん契約取れるんじゃない 」
「ちょっと寅之助 それ、セクハラだよ 」
睦美が寅之助に噛みつき、牡丹は困ったような顔をする。
「えっ、俺、そんなつもりで言った訳じゃないけど 」
寅之助が弁解するが、睦美は厳しく追及する。
「言った方と言われた方で意見が食い違うのは週刊誌なんかでもよくあるけど、まず謝りなさい それから弁解するのが普通でしょ 」
「そうですよ、寅之助さん。会社にクレームの電話あった時、まず謝りますよね。こちらが悪くなくても 」
伊織も睦美に同調して攻めてくる。
「ホント、そういうことか出来ない大人多いですよね 特に普段偉そうにしてる奴 」
伊織が言いながら金田の顔をチラリと見た。
「おいおい風魔さん。そこで僕の顔見るのやめてくれないかな 」
「あはっ、つい見ちゃいましたけど課長はそんなこと無いですから安心して下さい 」
「だいたい、そんな小学生でも分かること出来ない大人なんて情けないですね 」
トビも会話に参加してきて、場が異様に盛り上がり始めた。
「そういう人は自分の意見ばかり主張するから、周りの人の気持ちなんて考えたこともないんでしょうね 」
忍までも参加してきた寅之助は席を立つと牡丹の前に土下座した。
「ごめんなさい、牡丹ちゃん 俺が悪かった でもホントそんなつもりで言った訳じゃないんだ 」
「も、もういいですよ、寅之助さん 私も気にしてないですから 」
牡丹が慌てて寅之助の手をとり立ち上がらせる。
「はい、こうすれば直ぐ収まるでしょう 」
「そうだな それじゃ罰ゲームで寅之助くん そのグラス一気だっ 」
月夜が場を盛り上げようと言った言葉が命取りになった。
「チーフ、それパワハラです 」
寅之助が、鬼の首を取ったように逆襲する。周りからの冷たい視線で月夜は硬直した。救いを求めるように忍の顔を見る月夜だったが、その忍からも冷たい視線を投げかけられ、ガクッと力尽きた。その姿を見て全員が爆発して新年会の夜は更けていった。




