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君と歩いた、ぼくらの怪談 第2部  作者: tempp
箸休め バレンタインの思い出

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21/21

茉莉花の残り香

「マリカちゃんバレンタインチョコ作るんだ。凄い。もらえる人が羨まし〜」

「うっちはーたくさんもらえるでしょ?」

「もらうにはもらうけど、手作りチョコってもらったことなくて」

「へぇ。ホストって手作り嫌なんだと思ってた」

「どうして?」

「だって何が入ってるかわからないじゃん?」


 うん、だから端っこだけ齧ってゴミ箱にin。

 そのまま捨てる奴も多いけど、ちゃんと感想をいうと喜ばれるんだよ。変な味付け入れてる子いるから食べたか食べてないかは案外バレる。ヤバいものでも1口なら吐き出してOK。ヤバイアラートにもなるし齧るっきゃないでしょ。


「ねえマリカちゃん。手作りチョコ貰えるならホワイトデーで手作りのお菓子返しちゃうよ」

「それはちょっと気持ち悪いかな」

「酷い! でも心がこもってるって嬉しいじゃない?」

「珍し。ねぇうっちー、バレンタインで男を落とすってどうしたらいいのかな」


 ようやくゆかちゃんの息子さんの話。ちょっとだけ漏れる肉食獣の気配。でもハイエナレベルかな。


「みんな俺にバレンタインの相談するんだよね。なんか寂し」

「だってうっちー女子っぽいもん。詳しそうだなと思って」

「マリカちゃんはイメージあるの?」

「イメージって?」

「告白する相手と目標とシチュエーション?」

「なんで?」


 途端に警戒心があらわになる。警戒するってことは本命だよな? 全然ダメだな中途半端、つか底が浅い。ケイヤもゆかちゃんの息子さんもこれじゃ無理だろ。それなら俺も美味しいとこもらえるかもしれない。


「手作りって言うなら本気ってことじゃないの?」

「本気だけど、シチュとかどうでもいいじゃん」

「ダメダメ、例えばガトーショコラとかだとフォークとナイフで食べる前提でしょう? 一緒にいるなら雰囲気高まるけど軽く渡すならその場でバイバイだよね。単に一緒に過ごしたいなら気安く食べやすい一口タイプのガナッシュにしてブランデー強めに入れて酔わせて距離を縮めるとかさ」


 茉莉花はぱちぱちと目を瞬かせる。いや、この程度は常考でしょ。アンジェル・ホートスのレベルじゃないよな。なんであそこにいるんだ? コネかラスチャンか? いずれにせよ近々首。


「そっか、目的か。うーん」

「お相手さんはどんな人?」

「えっと、一見真面目そうだけどちょっと怖いタイプ」


 あれ? ゆかちゃんに聞いたのとイメージ少し違う。でも写真見せてもらったら同じ人。


「真面目そうに見えるけど、怖いの?」

「うーん、なんていうかたまに怖い」

「どのへん?」

「どの辺……その、2人になるとそっけなくなるというか」

「素に戻ってる感なら脈はあるんじゃないの?」

 

 あるいは取り繕う価値もなくてまるで興味がないとか。

 どこで出会ったのかな。アンジェル・ホートスはランク高い店だから接待に使われることもある思うけどこの子に太客につくとはとても思えない。顔はマアマアだけど接客が二流そう。脇も甘すぎる。


◇◇◇


「ヤバイほどではないと思います」

「うん、そうだねごめん。茉莉花本人は雑魚っぽい。でも茉莉花が狙ってる相手がちょっと面倒なのかもしれない。まあケイヤだと大丈夫だと思うけど」

「そうですね」

「今日は同席ありがと。また何かあったら教えるね。あとこれ、今日のお礼」

「ありがとうございます」


 チョコとケーキを広げて小さなチョコを更にカットする。一欠片で充分。


「これは?」

「ヘクセンハウザー。今年の辻切で一番流行るチョコかな。もうすぐバレンタインだからトークに使えると思って」

「いつもありがとうございます」


 ケイヤはつまらなさそうに一口ずつカケラを口に含む。ケイヤはオン/オフの差が激しい。仕事、つまり営業の必要のない俺やほかのホストには塩対応だ。ただ嫌なやつでは全然ない。むしろナンバーワンなのに不自然に腰の低いいい奴。だからこの店にケイヤの敵はいない。

 ケイヤは日常的に客からたくさんの物をもらっているが名入のもの以外は全てを店のホストに配り、名入のものは処分しているそうだ。食べ物も同じ。この店で食べるものは店が用意した酒とつまみとだけ。俺が用意したこのチョコも口に含んだらティッシュに吐いて捨てている。


 ケイヤはもらったものを身に着けないし摂取もしない。同伴もアフターも一切しない。本当にオンとオフがはっきりしている。けれどもそれでもケイヤに高価なものを送るというのがケイヤの客のステータスになっている。

 ケイヤはそんな殿様商売でやっていけるほど顔とトークスキルが飛び抜けている。まさに人に夢を見させることに関しては天才的だ。だからオーナーはいつもホストにケイヤを見習えっていってるけど、でもこれ、多分学べるレベルでもないと思うんだよな。たまにヘルプにつく度にそう思う。これは特殊能力だ。


 まあ、だからその反動なのか、店が終わった後は素っ気なさ過ぎるくらい素っ気ない奴なんだけど。女の誘いどころか店の打ち上げも含めて全ての誘いを断っているらしい。本人に理由を聞くと家で男が待っているそうだが名前もどんな奴かも教えてもらえないらしい。誰も。よほど大切な男なんだろう。

 そもそもケイヤのクラヴァ・カイザー以外の私生活を知ってるやつはかなり少ない。俺も知らないけど多分徹底的に隠蔽している。何を聞いても『普通に暮らしている』しか帰ってこない。通常はもう少し生活が垣間見れるものだけど。


「それで気づいたことある? 茉莉花のこと」


 ケイヤはゆっくり目を閉じる。30秒ほど待つ。思い出している途中に口を挟むと嫌がられるから。そうしているとケイヤはふぅと息を吐いてゆっくり目を開けて頭の中をまとめるように組み合わせた両手に視線を落とし、人差し指をトントンと擦り合わせながら口を開く。


「カイザーに来る前にナミと会った。その前はアンジェル・ホートスにいた。アンジェル・ホートスの前は男と同伴した。その男とヘイリ・ホテルのエヌリ・タンテで飯を食べた。その男とスカイオフィスのデッレ・キナーティで待ち合わせをした。その前は家にいてシリアルを食べた。朝食かな。昨日の夜は別の男と寝た。それより前はわかりません」


 ひゅう。さすがケイヤ。真似しようと思っても無理なところ。これは超能力じゃなくて物理だ。

 ケイヤはめちゃくちゃ鼻がいい。そして覚えている。何を言っているのかわからないけど『匂いの重なり具合』である程度の時系列もわかるらしい。おそらくはその濃さで発生時間も。けれども濃さというのは様々な要因で、例えば風の強さや着ている服の素材による吸着率なんかで違うらしいから正確でないから聞かないと教えてはくれない。

 ケイヤの情報を時系列でひっくり返すと、昨晩茉莉花は枕をして朝だか昼だかに起きてシリアルを食って、おそらくその後営業LINEとかをして同伴の男を捕まえてスカイオフィスのカフェで待ち合わせてホテルでフレンチ食ってからクラブに出て終業後ナミと待ち合わせてここに来たわけか。


「同伴した男の素性とか居場所はわかるかな」


 ケイヤの恐ろしいところは接触者の残り香が残っていればそれもわかることだ。特殊な仕事であれば匂いでわかるし、昼に何を食べたかがわかれば職場の場所なんかもある程度絞れる。特にエスニックなんかの香りが強い店なら店まで特定できることがある。ただし時系列は曖昧になる。


「無理です」

「あれ? 全然? 珍しい」

「血の匂いしかしないから」

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