二人目の秘密(後編)
結果を言うと虐殺するのは止めてあげた。
黒コゲになった虎吉は息も絶え絶えであったが、あの凄まじいファイアボールの嵐に耐えきり、何とか生き残ったのだ。
「あんた、魔獣にしては根性あるわね」
私は偉そうにそう言った。黒コゲで倒れている虎吉は体をなんとか動かして、縮こまり、私に頭を垂れた。
生き残るためにはこうするしかないだろう。もう一度、私が魔法攻撃をしたら、100%死ぬのは間違いない。必死の命乞いである。
「……命ばかりはお助けを……」
「いいでしょう。私の子分になれば許して差し上げてよ」
「はははーっ……ミコト様。この雷虎の魔獣。ミコト様に忠誠を誓います」
「雷虎の魔獣?」
「はい、我は太古よりそう呼ばれております」
私は首を傾げた。雷虎の魔獣というくらいだから、こいつの能力に雷があるかなと思ったのだ。私はそれを魔獣に尋ねる。
「あ、ありますとも。我の力の根源は雷。サンダーボルトの上級魔法、ライジンが使えます。ミコト様が強すぎて使う前に倒されてしまいましたが」
(間抜けだな、虎吉)
私は心の中でそうつぶやいた。まあ、電撃の上級魔法を使ったところで、私にかなうはずはないのだが、せめて戦闘シーンを長引かせて楽しましてくれよと思わんでもなかった。
先ほどは虎吉が作ったい空間で、私のステータス看破の特技が使えなかった。今は通常の空間だ。額に手の甲を乗せると虎吉のステータスが分かる。
12魔獣の長 雷虎の魔獣 魔力1350 攻撃力2230 防御力2589
雷をつかさどる魔獣の中でも最強レベルの強さを誇る。特に雷系の最強魔法ライジンは要注意。電撃の力で心臓を止め、またその力で心臓を動かす「死んだふり」というお茶目な特殊技をもつ
(ライジンはともかく、その死んだふりって能力はなんですか……最強魔獣の割にはせこいですね。まあ、2つとも私の力にしてしまいますけど)
「まあいいわ。あのライジンって魔法、私に教えなさい。死んだふりもね」
「ミ、ミコト様……どうしてそれを?」
「下僕ごときがこの私に隠し事をしても無駄よ。すべて分かっているんですから」
「はははーっ。申し訳ありませんでした」
床に這いつくばる虎吉。私はその頭に片足を乗せてさらに追及する。
「あと、あなたの目的は何?」
アンリエッタを騙して召喚され、この虎の魔獣は一体何がしたかったのか、ある程度は予想していたものの、それを確かめることにしたのだ。
「決まっています。その娘を使ってこのハーレムに我を召喚させ、我の力をもって国王アンドレ・カッシーニを殺すことです。無防備な状態で我のような魔獣が現れれば、100%命はない」
「まあ、そうでしょうね。それは分かっていたわ。で、あなたを呼び出すように命じたのは誰?」
「それは……」
言葉を濁したので、私は虎吉の尻を蹴飛ばした。ゴロゴロと転がる魔獣。
「い、言います、言います、ミコト様」
「早く、言いなさい!」
「ファルツ帝国です」
「……ヨークやランカスターじゃなくて?」
「はい、そうです」
「う~ん」
私は悩んだ。もう意味が分からない。このショパン王国はファルツ帝国の影響下にある。独立国とはいえ、その駐留軍を受け入れ、政治も随分と牛耳られているのだ。
「ミコト様……アンドレ様ガ国王ニナッテ以来、ソノ流レハ変ワッテイルトノコトデゴザル」
そう豆蔵が私に報告した。アンドレは従属国の立場から逃れようといろいろ画策しているらしいことは何となく聞いていた。
(もしかしたら……)
私は今一度、状況を整理することにした。アンドレが治めるショパン王国はファルツ帝国の属国。そしてファルツ帝国の軍が駐留している。
あのメルセデスを娶ったバーンハート将軍が率いている軍だ。だが、アンドレとバーンハート将軍は仲がいい。二人で結託して何かをしようとしているように私には思えた。
(なるほど……読めたわ)
アンドレの目的はファルツ帝国からの完全なる独立。そしてバーンハート将軍は、どうやらファルツ帝国を乗っ取ろうと画策しているようだ。
それに気づいたファルツ帝国の誰かが虎吉を使って、アンドレを殺そうとしたと言うシナリオだろう。
(でも、アンドレの奴がランカスターとヨークのスパイを見つけろと私に言った。これは何なの?)
賢いアンドレがそんな的外れなことを私に命ずるはずがない。
「う~ん」
(そもそも、なんで虎吉は急に現れたの?)
アンリエッタは100日儀式を続けると魔獣が現れると言っていた。儀式そのものに魔力をチャージする効果がある。アンリエッタのもつ微力な魔力を地道に魔力を貯金し、その力で魔獣を異世界から呼び出すはずだったのだ。
しかし、その魔力が十分に溜まってないのに呼び出せるはずがない。
「儀式に参加したものの魔力……アンリエッタはしょぼい力しかないし……急激に100日分をチャージする奴なんて……」
「あああああああああああっ!」
私は思わず叫び声を上げてしまった。
「私のせいだ!」
魔力無限大の私が呼び出しの儀式に参加すれば、魔力が注ぎ込まれてチャージが完了。雷虎の魔獣が召喚される。
「う、う~ん……」
気絶していたアンリエッタが目を覚ました。私はさっそく彼女に詳しい話を聞く。
アンリエッタの話によると、虎吉を呼び出す魔法陣と儀式を教えたのは、このハーレムに出入りするシスター。名前はマリアーナ。
そしてそれは私が目星をつけていた3人目の容疑者であった。
シスターであるマリアーナは、ハーレム内にある神殿で週に1回の安息日にハーレム内の女の子たちに祈りを捧げるためにやってくる。
そして私が怪しいと思ったのは、彼女がハーレム内の女の子から懺悔と称する悩みを聞き、それに対する助言を行っていたからだ。
(つまり、彼女はハーレムにおいて、外と出入りが自由にでき、そして懺悔を通して女の子たちから情報を仕入れることができる)
ハーレム所属のお姫様連中を疑っていたが、このシスターほど怪しい立場はない。そしてアンリエッタに魔獣を呼び出す儀式を教えたとは、神職にあるとは思えない所業である。
(となると、マリアーナがスパイである可能性があるわね)
私はそう断定した。明日になれば、マリアーナを締め上げてスパイ認定する。それをアンドレに話せばこのめんどくさい任務終わりである。
しかし、事態は急展する。
翌朝、マリアーナがハーレムに乗り込んで来たのだ。正確に言うなら、教会を守護する屈強な僧兵団の兵士とそれを率いてきた人物である。
「わたしは異端審問官バルトロメア。このハーレム内において、魔女の疑いのある者の密告を受けて来た」
異端審問官という言葉を聞いて、ハーレム内の者は凍り付いた。異端審問官は身分に関係なく、捜査する権限がある。それは国王であっても止めることのできないものであった。
異端審問官を名乗るバルトロメアは、長身の金髪美人。まだ20代後半にしか見えない容姿。ウェーブがかかった長い金髪頭には白いスカルキャップを乗せ、白に赤いストライプの入った神官服に杖をもっている。
悪名高い『断罪の錫杖』と呼ばれるものだ。魔女と認定した罪人をこの錫杖で打ち据えるとされる。アーチ状になった先端部分に鋭いトゲが無数にある。
あれで打ち据えられれば、無残な姿になって死んでしまうであろう。
「いました、バルトロメア様。あの子です」
マリアーナは私を指さした。バルトロメアは私の姿を見てにやりと笑った。その笑いは、薄気味悪いものでバルトロメアの青い瞳と相まってこの異端審問官の女の方が魔女であると思ってしまう。
「お前がミコトだな……くくく……このような幼女を魔女裁判にかけるのは心苦しいが、これも神より与えられた使命である」
バルトロメアの言葉が冷たく響いた。周りの女の子たちは、彼女の目的が私だとしってほっとしたものの、恐ろしさからは解放されていない。みんな自分が指名されたかのように互いに手をとりあい、しゃがんで縮こまっている。
「あら、心苦しいとかおっしゃって、やけにうれしそうな顔をされていますね。異端審問官殿」
私はビビらない。むしろ、この仕組まれたであろう事態にどう対処するか、思考回路を全開にしていた。
「ミ、ミコちゃん……どうするズラ……」
ジータはそう言って私に寄り添ってきたが、私はその手を跳ね除けた。ジータまで疑いをかけられたら厄介だ。




