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二人目の秘密(中編)

夜中の2時。草木も眠る丑三つ時というが、この時間はこの世界でも魔素が濃く、魔力が最も高まる時と言う。

 常時、魔力最高値の私には関係ないが、この時間を狙って召喚魔法を使い、通常では呼び出せない魔物を呼び出すこともできた。


(で、これは召喚魔法じゃないの?)

 アンリエッタの部屋を訪れた私は、部屋の中央に書かれた魔法陣を見て、これが子供の占いごっこレベルではないことを確信した。

 魔法陣は一体何を呼び出すものか、全く分からなかったが、これがただの落書きでないことは一目で分かった。


 それには魔力が増幅され、ビンビンと波動となって私にぶつかって来るレベルなのだ。無論、私だから波動と分かり、対応できるが、普通の人間なら魔力に当てられて気分が悪くなるだろう。

(ジータを連れてこなくてよかった……)

 今頃、シーツを噛んでママ~っとか寝言を言って寝ているジータを想像し、私は自分の選択に満足した。


 ジータが行きたいと言ったとしても、夜中の2時なら眠くて無理だっただろう。

「エロイム、デ・タンガ、クネイル、ヤハスガ……」

 なにやら怪しげな本を開いて魔法陣に向かって呪文を唱えているアンリエッタ。でたらめなようで、その呪文は有効で唱えるたびに魔法陣の文字が光輝いてくる。


「今日はいつもより、何倍も光が強くなったような気がします」

 そうアンリエッタは私に言った。彼女の説明によると、この魔法陣に向かって本に書かれた呪文を唱えることを100日連続で行うと、何でも願いをかなえてくれる魔獣が現れるという。

「アンリエッタはその何でも聞いてくれる魔獣を呼び出して、何をおねがいするの?」

 私はそう聞いてみた。アンドレのハーレムに暮らしているアンリエッタなら、欲しい者ややりたいことはある程度は叶えられる。わざわざ、魔獣を呼び出す必要なんかないはずだ。


「……ここを出たいの」

 そうアンリエッタは答えた。それには私も納得する。

 あの生意気でスカした、金儲けに目がないガキンチョのハーレムなんかに入ってうれしいはずがない。

 ここに集められた大半の少女たちは、そんなことは思わず、喜々としてアンドレに気に入られようと毎日、切磋琢磨しているが、冷静に考えればそれが幸せなんて思えるはずがない。

 ジータは頭が悪すぎて何にも考えていないから、参考にならなかったが、同じハーレムにいる令嬢で私と同じ考えの少女がいて、私は少しだけ安心した。

(そうよね。周りがみんなアンドレ様好き、素敵、かっこいいとか言うので、そう思えない私がおかしいのかと思っていましたわ……)


「で、魔獣を呼び出してハーレムから脱出するということだけど、それだったら、私からアンドレに話しましょうか」

 私はそう提案した。私が考えるにアンドレには執着する理由がない。ましてやアンリエッタは多くの少女の中の一人に過ぎない。

 私がアンリエッタを実家に帰すようにアンドレにお願いすれば、案外、簡単に手放すだろうと思われた。

 無論、それだとアンリエッタの実家にお手当のお金が支払われなくなるから、お金もいただきつつではあるが。

「ダメです……。魔獣様を呼び出さないといけないのです」

 そうアンリエッタは頑なだ。なぜ、誰かにそう命ぜられたからであろうと推測はできたが、誰かと話さない。


(まあ、いいでしょう。いくら正しいやり方でも、そうそう簡単に魔獣が召喚できるはずがない……)

 そう私は考えたが、その考えは甘かった。魔法陣の輝きがどんどん増していく。これにはアンリエッタも驚いたようだ。この儀式を100日続けた後、魔神は現れると言われてたのに、もう召喚されようとしてるのだ。

 まだ、始めて1か月しか経っていない。

「ミコト様……危険デゴザル……」

 いつの間にか豆蔵が私の背後でかしこまる。豆蔵に言われなくても私には分かる。本格的に邪悪な魔獣が目の前で召喚されつつあるのだ。


「あああ……魔獣様、お目にかかれて光栄です」

 そうアンリエッタは現れた黒い塊にお辞儀をした。

「我を呼び出したのはお前か?」

 そう黒い塊は地の底から響いてくるような声で尋ねた。あまりの怖さにアンリエッタも私も黙り込む。首だけコクコクとYESの意志を示した。

「ならば、お前に問う……。1つの望みをかなえる代わりにお前の魂をもらい受ける」

 黒い塊はそうアンリエッタに言った。

「えっ!」

 アンリエッタは驚く。魔獣を呼び出し、願い事を1つだけかなえるということは聞いていたが、まさか自分の魂と交換とは思わなかったようだ。

 私は魔獣とはこれまで戦ったことがあったから、奴らの狡猾さと凶暴さを身に染みて分かっていた。


(これまでに戦った魔獣より、知恵があるようね……)

  私が戦った魔獣は2体。巻角の魔獣と齧歯の魔獣。こいつらは動物並みの知恵しかなく、問答無用で私に襲い掛かって来た。人間の言葉を話すこともなかった。

「それは困ります……魂を取られては生きていられませんから」

 返事ができないアンリエッタに変わって私がそう答えた。する魔獣は恐ろしいことを言い始めた。

「ならば、キャンセルだな。キャンセル料は目の前の魂2つ……」

 黒い塊がだんだんと形のあるものに変わってきた。それは黄金の毛に黒い縦じま。どう見ても……。

「トラじゃない!」

 虎である。但し、この虎は魔獣を語るだけあってでかい。大きさはサイほどある。開いた口は私たち2人をペロっと食べてしまうくらいである。

「一呑みにしてやる。久しぶりの人間だ」


 大きな口を開けて私たちに襲い掛かかってくる。ここで気が付いたのだが、アンリエッタの部屋であったのに、いつの間にか漆黒の空間に私たちと虎の魔獣はいた。

(魔獣が創り出した仮想空間ね……)

 魔獣は戦闘をする際、こういう仮想空間へターゲットを引きずり込むらしい。これは豆蔵からの情報。ここへ引きずり込まれたら、魔獣を倒すか、魔獣に解除させるしかない。


「こ、怖い……ミコちゃん」

 アンリエッタが私の後ろに隠れる。言っておくが、私の方が年下だ。でも、アンリエッタを攻めることはできない。こんな魔獣の前で12歳の少女が平気なわけがない。

「大丈夫よ、アンリエッタ。あんな奴……」

 私がそう言ったと同時に、虎の魔獣は大きな口を開けてすさまじい咆哮を放った。それは聞いた人間を気絶させるほどのもの。特に魔力がない人間は一撃で気を失う。

 ぱたりとアンリエッタは崩れるように倒れた。子どもだから仕方がない。でも、同じ子供の私は気絶しない。


 これには虎の魔獣も驚いたようだ。口を閉じてぎろりと私を見る。

「これはどうしたことだ。気絶させてから食べようと思ったのに、気絶しないとは……」

「我、記せし世界を欲する」

 私は魔法を唱える。目の前に魔紙が召喚される。そこへ「倍化」と筆で書く。そして私の腕に貼る。倍化の紙は全部で5枚。2の5乗の力が私の両腕に宿る。

「き、貴様、ただの子供ではないな!」

 強烈な右手の薙ぎ払いが私を襲う。猫が小さなネズミをおもちゃにして遊ぶようなつもりのようだ。

 しかし、その薙ぎ払いは私の左腕で止まる。ピタッときれいに止まる。

「え?」

 間抜けな声を上げた虎の魔獣。その瞬間に右手で強烈にビンタをする。

「ぐおおおおおおおっ……」

 倍化で人間離れした私の筋肉から繰り出される攻撃。その威力は虎の魔獣がひっくり返ったことで分かろう。ゴロゴロと4回転した。

 ここが亜空間ではなくてアンリエッタの部屋であったのなら、完全に破壊している。

「ば、バカな……人間の……それもメスガキの攻撃がこんな……」

「我、記せし世界を欲する」

 やられキャラの死亡フラグの台詞を聞いても、私は容赦しない。

「火の玉」

 召喚したのは10発。無限の魔力をもつ私には、10発分のファイアボールは問題なく撃てる。

「ち、ち、ちょっと待て、人間」

「人間じゃないわ。ミコト様と呼びなさい」

 ビビりまくる虎に私はそう高飛車に言い放った。

「なぜ、我が人間のガキを様づけで……」

「あ、そう。じゃあ、丸焦げになりなさい」

 冷たくそう言い放つ私。もう面倒なので魔獣は殺しておこうと心決めている。

「ミ、ミコト……様」

「何ですか。虎吉」

 私はこの巨大な虎の魔獣を「虎吉」と命名した。

「そ、そんな変な名前はよせ。我は12の魔獣の1つ。横縞の魔獣なり」

「問、無用!」

 私はゆっくりと指を差した。10個の炎の玉が放射状に飛んでいく。

「ぎゃああああああっ……」

 次々と命中していくファイアボール。

呼び出されて幼女に虐殺される魔獣であった。


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