鑑定対決3番勝負
「それでは第3戦のお題の発表をする。第3戦は鑑定対決とする」
セバスチャンによる第3戦のお題が発表された。ここまでメルセデスの2勝。あと1つ勝てば、メルセデスがシュバリエの称号を勝ち取る。私に対していじわるなメルセデスが勝つのは何だかすっきりしないが、私にも利益があるからここは我慢するしかない。
(鑑定対決って、シュバリエってどんだけ多彩じゃないといけないのか)
お題の意義について話すセバスチャンによると、一流の遊女たるもの客の持ってきたプレゼントの見極めができないといけないということだ。ものの価値の見定めということが遊女には求められるのだ。
また、客の身に付けているものを瞬時に把握し、どれだけ自分に貢げるのかは判断することが大事なのである。客からすればとんでもなく失礼なことではあるが、遊女にとっては生きていくためには必要なのである。
客によっては大して金がないくせに、偽物で遊女をだまそうとう輩もいるが、超一流の遊女はそんなことでは騙されない。馬鹿ではないのである。鑑定能力とはそう言った意味では、重要なスキルなのだ。
「2人ともロイヤルレディの経験も長く、大抵のものの価値はすぐに把握できるであろう、よって、シュバリエ勝負のお題はかなり難しいものを提示しよう」
セバスチャンが出したものは、年代物のワイン、ダイヤモンドの首飾り、そして剣である。年代物のワインとか、ダイヤモンドの首飾りなんて難しくはないのではと思ったが、ワインはテイスティングはしてはいけない、ダイヤはルーペ等で石を見てはいけないというのだ。
(ワインなんか飲まないと分からないだろう……)
私が日本人だった頃、テレビの番組に安いワインと高価なワインを飲んで当てるというものがあったが、飲んでも多くの人間は分からなかった。ましてや、見るだけで当てるなんて、できるはずがなかろう。
だが、メルセデスもコーデリアも余裕の表情である。用意されたボトルの置いてあるテーブルをぐるりと回り、そして注がれたグラスを見る。色だけで判定するというのだ。
「これは簡単じゃ……」
そうメルセデスは言ったが、私には全く理解できない。そんな私の様子を見て、メルセデスがくすりと笑った。
「のう、お主よ。お前はあのワイン、高価なものかどうか分かるかえ?」
メルセデスが例のごとく、私に聞いてくる。仮にも私は8歳の子供だ。子どもにワインの良しあしを聞くのはどうかしている。
「私に分かるわけないでしょう」
「くくく……。だから、お前は男に騙されるのだ」
(はん!)
私は心の中で毒づいた。いつ私が男に騙されたと言うのだ。ふと、アンドレのことが思い浮かんだが、あいつのことは忘れよう。私はあいつには騙されていない。あいつは利用しているだけだ。現に金銭的な利益は相当に彼から搾り取っているのだ。
「一応、ラベルを見る限り、100年前のビンテージもの。産地も有名だから、あとはブランドから判断すれば分かるんじゃないの?」
一応、私はもっともらしいことを言った。だが、メルセデスは笑うだけだ。私のことを馬鹿な奴だと思っている笑いだ。
「さあ、両者ともこのワインに値段を付けるがいい」
そうセバスチャンが答えを促す。メルセデスもコーデリアも紙に値段を書いた。そして、それを公開する。
「おおおお!」
「2人とも一緒じゃないか」
観客が驚いた。紙には大きく「価値なし」と書いてあったのだ。
「ラベルからするとかなり高いワインじゃないのか?」
「俺はあれに近いのを飲んだことがあるが、グラスで金貨5枚はしたぞ」
「価値なしてどういうことだ?」
観客たちのどよめきは収まらない。私の心の中も動揺している。私は瓶に書いてある銘柄だけで金貨100枚は行くと思っていたからだ。
「メルセデス、コーデリア……説明をしてくれないか」
そうセバスチャンが2人に説明を求めた。メルセデスは扇で口元を覆い、コーデリアは笑いを堪えているような表情である。
「これは楽勝じゃ。そこのツンデレレディでも分かったことじゃ」
「ツンデレって失礼ですわね。しかし、メルセデス、さすがは金の匂いをかぎ取ることは得意なようね」
説明をせずにお互いの悪口を軽くジャブ代わりに放つ両者。それでも、セバスチャンに自分の判断の根拠を話した。
「そのラベルが怪しいのじゃ」
「瓶の色と不釣り合いですわ」
2人の指摘はラベルと瓶の色。これは共通していた。そもそも、100年前の代物にしてはラベルが新しいと言うのだ。これは私もうかつであったと反省した。確かに年代を示す数字がはっきり読めるし、紙も古ぼけてもいない。
さらに2人は瓶が透明であることを指摘した。高級なワインが透明なガラス瓶に入れられるはずがない。日光を遮断するために暗い色の瓶に詰めるのが常識である。
「……2人とも正解だ。これはボトル銀貨2枚のワインだ。そして、偽っていたことを考えれば、価値なしとするのも正しい判断だ」
そうセバスチャンは判定を下す。
「おおお……」
観客たちは驚きの声を上げる。理由を聞けば簡単に思えるが、鑑定前の状況ではそれを言い当てることは難しい。そもそも、クイーンズゲートに出てくるお題でいきなり価値なしとするものが出るわけがないという先入観をもってしまうものだ。
「では2品目にうつる」
1品目は簡単に答えられてしまったところをみると、メルセデスやコーデリアにはウォーミングアップみたいなものだったのであろう。そうなると本気勝負は2品目ということになる。
「ダイヤの首飾りだ」
それは見事なダイヤの首飾りが出される。石の大きさから108個という数。特に中央にある石の大きさは半端ない。
(これは難しい……本物だとすると値段が付けられない)
私はそう思った。先ほどの流れで行くとこのダイヤモンドはさすがに偽物ではないだろう。本物と仮定すると値段設定は途方もない。
石の鑑定を本格的にせず、見た目だけで判断と言うのも難しい。同類のものをたくさん見ていておおよその価値を見極める目がないと無理だ。
ダイヤモンドはケースに入れられて飾られている。メルセデスもコーデリアもそれを少し離れたところから眺めている。
「ケースに入れられているところだけでは、分かりにくいだろう。どうだろうか、望むのならばケースから出して身に付けてもよいのだが……」
ダイヤモンドの首飾りと言うものは、実際に身に付けてみると価値をより身近に感じるものだ。
「それは遠慮しますわ……」
そう言ったのはコーデリア。どうやら、セバスチャンの言葉で確信したようだ。メルセデスも同様の表情をし、自分が触るのを拒否した。
二人ともダイヤモンドの評価をさらさらと紙に書いてセバスチャンへ渡した。だが、これだけでは終わらなかった。メルセデスは、少し笑みを浮かべると私にこう聞いてきたのだ。
「お主、あの首飾り、身に付けたいのなら身に付けるがよい」
「はあ?」
私はメルセデスの言っている意味が分からない。私に身に付けさせてメルセデスが得をするとは思えない。この私以上に腹黒い女が私に何か言う時は、必ず何かあると思た方がいい。
「どうじゃ、あのような高価なダイヤモンドを身に付ける機会は今後ないかもしれないぞえ?」
妙に優しい猫撫で声である。
(これは絶対に裏がある……)
心の中で激しく警鐘が鳴る。私が躊躇しているのを感じて、メルセデスの妹分、キャロラインが割って入ってきた。
「メルセデスお姉さま、あのような大振りな首飾りは、ミコトには無理です。わたくしが身に付けてみましょうか。重さや付け心地などを調べることもできますし……」
「ならぬ」
メルセデスはそうピシャリと言った。その表情は先ほど、付けることを拒否したコーデリアと同じであった。何やら、触れてはいけないものを遠ざけるような嫌悪の色である。
「さあ、ミコトよ。あの首飾り、身に付けるがよい」
そうメルセデスに言われて私も引けなくなった。仕方がないので、前に進み出る。
(うっ……)
首飾りに近づいて、私の体に異変が起きた。冷汗が頭からどっと出て、顎にまで到達。滴り落ちる汗。そして手がぶるぶると震えるのだ。
(こ、これは……もしかしたら)
ケースに入っているダイヤモンドを見て私は確信した。
「こ、これ、呪いの首飾りじゃないですか!」
私の素っ頓狂な声に観客が驚きの声を上げる。それはさざ波のように広がっていく。
「の、呪いの首飾りだって」
「お、俺は聞いたことがあるぞ。悲劇の王妃の首飾りじゃないか?」
「持ち主を必ず破滅させるって噂の……」
観客の動揺を制するようにセバスチャンが結果を発表する。
「コーデリアの判定。このダイヤモンドの価値は付けられないほどであるが、買う人間はいない。よって価値なし。メルセデスの判定は価値なし。呪いの首飾りを好んで買うものはいないと添えられておる」
またしても同じ判定である。この首飾りは、王立博物館に収められているものである。最初に所有していたとある国の王妃が革命によって処刑されたという曰く付き。そして次の所有者は破産、戦死といった不幸に見舞われるという話がある。有名な呪いのアイテムであった。
今は呪いのパワーを封じるためのケースに入れられているが、そこから出されれば、呪いを発揮するに違いない。コーデリアもメルセデスもこの首飾りから出る禍々しいものを感じ取り、有名な呪いの首飾りだと断定したようだ。
私は首飾りについては全く知らなかったが、私の膨大な魔力からこの首飾りの負のパワーを感じ取り、それが体に影響して知らせたのだ。
「すまなかったのう。お主ならあの首飾りを手に取っても呪われないのではと思ったのじゃ」
「そ、そんなはずはないよね!」
思わずそう叫んだが、メルセデスの奴は私が気づくと思ってわざと振ったようだ。私にこれを呪いのアイテムだと言わせたいがための命令だったのだ。
「さて、両者ともここまでは互角。次は最後だ。この剣の……」
ここまでセバスチャンが話した時に、異変が起こった。ものすごい爆発音がしたのだ。
それは連続で鳴り続けた。大勢の観客は思わず息を潜めた。西に見える王宮エリアから黒い煙が幾筋も上がっている。
「や、大変だ……反乱、反乱が起きた!」
一人の男がそう駆けこんでそう叫んだ。




