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お金持ちの分類

「ミコト、いつまで寝ているのじゃ」

 私はぬいぐるみごと蹴飛ばされて目が覚めた。どうやら、昨晩はぬいぐるみの中に入ったまま寝てしまったようだ。アランが追い出された後、3人目の客であるファルツ帝国の派遣軍司令官バーンハート中将との宴会の最中で寝てしまったようだ。バーンハート中将はファルツ帝国の若き英雄で戦の天才と呼ばれし男。


 メルセデスにぞっこんで毎月1,2回に遊びに来る。さすがに外国の軍人なので毎日のように逗留することはないが、それでも定期的にやって来るのだ。

 メルセデスもこの青年軍人のことを気に入っているのか、決まって一晩一緒に過ごすことにしているようだ。


「メ、メルセデス……」

「お主、ぬいぐるみの中で3人の男を見ただろう。その違いを言うてみよ」


 メルセデスはこの世には2種類の金持ちとさらに3種類の人間がいると言っていた。それがどういうものなのか、説明をしろということらしい。

「こほん……わかりました」

 私は説明した。


「2種類の金持ちとは、生まれながらに金持ちの家に生まれた人間と一代で成り上がった金持ちの2種類です。最初のお客の公爵は前者。2番目の穀物商人は後者です」

「うむ……そして3種類の人間とはなんじゃ」

「はい。1つはやんごとない人間。品がよくてマナーもよい。但し、恵まれてる故、自分より不幸な人間がいると思っていない人間」


「くくく……。こんな生意気なプティにクレーベル公爵様もえらい言われようじゃ」

「2つ目は人を見下し、蔑むことで己の存在を維持する人間。利に敏く、お金のためならどんなことでもする守銭奴」

「ふふふ……まあ、あの御仁はお金だけが自分の力の源じゃからの。ミコトよ。3人目はどう見たのじゃ?」

「あの方は3番目にあたる方でしょう。すなわち、これから伸びていく人間。輝いている人です。そういう人間は魅力があって人を惹きつけます」

「寝てたわりにはよく見抜いたの。バーンハート中将閣下は若いがそういうお方じゃ」


(ははん……メルセデスの奴、あの軍人さんに心が動いているようね。まあ、昨日の3人の中じゃ、一番いい男だけど……)


「さて、ミコトよ。お前の今の任務。黒真珠を売りつける相手は、バーンハート中将のような人間じゃ。本当の価値を見抜くものはあのような者しかない。分かれば、さっさと売りに行くがよかろう」


(はああああああっ!)

(だったら、あんたの好きな中将閣下を私に紹介してくれや!)


 私は心の中で悪態をついた。確かに黒真珠の価値を見出すのはバーンハートのような男だろう。少なくとも金の亡者であるアランのような男は本質が見えないから無理だろう。クレーベル公爵のような保守的な男も無理だ。価値の既成概念が破れないから高くは買い取らないだろう。




 私は渋々、2日目の旅に出ることにする。バーンハート中将のような男を見つけて買ってもらうのだ。

私は再び、豆蔵が引く人力車に乗って町をぶらつく。どうやって買い手を見つけるのか分からないままであるから、ただ町をぶらぶらと流しているだけである。


(あれ……なんだか……)

何だか、町の様子が変だ。大勢の人がプラカードを持って集まっている。

「豆蔵、市民の様子が変じゃない?」

 私は豆蔵に聞いてみた。都出身の豆蔵はこの雰囲気を知っていた。


「アレハ、デモ隊デゴザル……巻キ込マレルト危険デゴザル」

「デモ……まあ、政治がまずいこの国ですもの。庶民が暮らしができずに騒ぐことはあるでしょうね。あれは何を訴えるためなの?」

「……小麦デゴザル」

「小麦?」


 小麦はこの国の主食であるパンの原料である。地方の治安の悪化や天候不良で小麦が高騰しているのだ。これはやむを得ない原因もあるが、それに便乗した悪徳商人のせいでもあった。小麦の高騰を狙って供給を絞り、暴利を貪っているのだ。

 町のパン屋ではパンの値段を上げざるを得ず、それに怒った市民がパン屋を襲う事件は毎日どこかで起きていたが、一番の原因である小麦商人をどうかしないと解決しない問題であることは市民にも分かっていた。


だから、本日デモ隊の人々が向かっているのは町にある穀物商の屋敷。屋敷には買い占めた小麦が収められている蔵がいくつも立ち並んでいる。

 デモに参加している人々は怒りに満ちている。暴動が起きかねない様子であるが、穀物商人もそれを黙って許すはずがない。

 

町の治安を守る治安当局の警備兵だけでなく、自ら雇った傭兵で穀物倉を守っていた。武装する傭兵や警備兵の部隊を前にして遠巻きに抗議のシュプレヒコールを上げるしかない。

 抗議の相手は穀物商人アラン・ブローニングである。私はその名前を知っている。昨日、メルセデスを指名してNレディやプリンシパルに手を出し、桜蘭亭に出入り禁止になった男だ。

「小麦を買い占めるな!」

「我々に安く分けろ!」

「我らにパンを!」

 人々は大声で叫ぶが商人側はビビりもしない。兵士たちに守られて、館の主人であるアランが現れた。昨日、メルセデスに冷たく追い出されたあのおっさんである。


「騒ぐな、愚民ども!」

 その呼びかけに群衆は押し黙る。

「お前ら、すぐに解散しろ。そうしなければ、治安維持のために兵士に攻撃を命じる。死にたくなければ、さっさと家に帰れ、馬鹿者どもめ!」

 アランは昨日の出来事の腹いせとしか思えない口調で激しくののしった。群衆が集まったとはいえ、軍による万全な守備で気を大きくしているのであろう。


「商人様、頼みます。何もただでくれとは言わない。せめて昨年並みの値段で売ってくれ」

「家には腹をすかせた子供がいるんだ。子供にパンを食べさせてくれ」

「ふん。勝手なことを言いよって。食べたいなら金を払え。払えないならパンなど食うな。大麦や雑穀でも食べてろ。飢え死にするわけでもあるまい」


(あああああ~いらいらする!)

(というか、そのセリフ、傾国の美女になったら私が言うセリフだよ!)

「パンが食べられないなら、ケーキを食べればいい……。」フランス革命時に王妃マリーアントワネットが言ったとされる言葉であるが、傾国の美女にはふさわしいゲス言葉である。



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