懲罰人たち
「女将さん、どうでしたかい。あのガキ、相当ビビっていたでしょう」
「怖がってお漏らししてませんでした?」
「泣いて謝っていたでしょう」
エンリエッタが帰ってくるとそう3人の使用人が尋ねてきた。桜蘭亭で仕事をしながら、遊女の仕置きをする懲罰人である。
懲罰人は逃げ出したり、言うことをきかなかったり、客に対して不適切な態度を取った遊女を折檻するのが役目だ。
この3人は桜蘭亭を経営するエンリエッタとオーボエの管理下に置かれず、複数の出資者からなる桜蘭会なる組織の直属なのだ。
桜蘭亭の品格を守り、その秩序を守るのが役割である。そのためには、見せしめの体罰も行うし、逃亡を助けた人間を調べるために様々な拷問も行う。その道のスペシャリストなのだ。
昨晩に行った幽霊の演技も折檻の一つ。恐怖で謝罪をさせる手の込んだものだが、効果は抜群で、別館に軟禁されると聞いただけで遊女は言うことを聞くようになった。たまに、別館の噂を信じない者もいるが、一晩、二晩と昨夜のように脅せば、みんな泣いて謝り、その後従順になるのだ。
人を脅すという行為はある種の快感を植え付ける。面倒なことでも3人はこの折檻を待ちわびていた。最近はほとんどすることがなかったから、今回の折檻を楽しんでいる。
「それがねえ。あの子、ちっとも堪えていないようなんだ。あんたら、本当に脅したのかい?」
エンリエッタはそう3人に苦情を言った。脅しに行ったが、ミコトにはどうも効果が薄かったようなのだと。
3人は首をかしげた。確かに相手が小さな子供であったから、脅し方には手加減をした。それでも小さな子供には十分な脅しだ。あれでビビらない子供がいるわけがない。
「あのガキ、昨晩はビビっていたように見えたけどな」
「強がっているだけさ。まあ、今晩脅せばそれで終わりさ」
「今日は人形をベッドに着地させましょう。それで小便漏らしてジ・エンドよ」
3人は今晩のプランを楽しそうに話している。強がる女の子を屈服させることを快感にしている少々クズな連中である。
「あまり、ミコトをいじめないでくれよ。あの子は大事な商品なんだから」
エンリエッタはそう3人に自制を促す。やり過ぎて、夜にトイレにいけなくなってしまうようなことになると困ると思ったのだ。
「女将さん、あのガキに相当入れ込んでいるようですね」
「あたりまえさ。私はあの子を買ってるんだ。この桜蘭亭の歴史の中で先輩のプリンシパルに反撃したプティはいなかったよ。しかも2人まとめて返り討ちとは呆れたけど、あれは大物になる器さ。メルセデスもああは言っているが、この騒動が収まったら自分が教育すると言うと思っているんだ。ミコトはそれくらいの器があると思うのだよ」
「大物になるのは結構ですが、秩序を乱すのは出資者は望みません。桜蘭亭は格式のある店なのです」
「そうですよ、女将。ああいう生意気な子供は小さいうちに矯正しないととんでもないことになります。女は従順が一番ですよ」
懲罰人たちはそう口々に女将に反論する。ミコトが昨晩の脅しが堪えていないことを知って、今晩は最大級の脅しをかけようと相談した。エンリエッタはため息をついた。
「わたしは、ちょっと嫌な気がするんだよ。ミコトのことも心配だけど、あんたたちにも何か起りはしないかとね。やり過ぎは自分に返ってくるからね」
そう言って仕事に戻っていくエンリエッタ。最後の言葉は深く考えた言葉ではなかったが、ミコトが話した小さな勇者の話が少しだけ引っかかったのだ。




