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怪異の正体

次の朝。

私は目を覚ました。隣に寝ていたジータがいない。


(ジータ、本館に帰ったようだね)

 ジータはプティだから、仕えるロイヤルレディの世話が仕事だ。朝の6時には起きて身支度をして、姉さんたちが起きてくるのを待つのだ。


「ミコト様……」

 豆蔵が天井から降りてきた。そして跪く。

「豆蔵、昨晩、お化けが出ました。外から館に入ったものはいました?」

「我ノ見タ限リ、誰モ入ッテイマセン……」

「……そうよね」


 私は部屋の扉を開けた。廊下に点々と黒い足跡が付いている。


「コ……コレハ……」

「階段に暖炉の煤を撒いておいたのよ。真っ暗じゃ気が付かないでしょう。この小さな足跡はジータ。後は見ての通り……」

「大人ノ足跡デス……。全部でデ3人……一人ハ足ノ大キサカラシテ、女ト思ワレマス」

「だんだん、薄くなるけど、彼らが帰った先はこれで分かるでしょう。恐らく、館の地下への入り口」


 私と豆蔵は1階に降りる。足跡を追っていくと1階のホールの片隅に魔物を足蹴にして勝ち誇る戦士の像が置いてあるところで途切れていた。銅像はかなり重そうで普通では動かせそうもない。


「ミコト様、ココニ、ボタンガアリマス……壁と床ノ形状モ怪シイデゴザル」

 足跡がなかければ気が付かないほど、巧みに隠されていたのは地下への入り口。銅像の下部にはボタンがあって、それを押すとロックが外れ、容易く銅像が動く。底に金属のボールが取り付けられており、それが転がって動くのだ。


 銅像を動かして、その後ろの壁を調べると扉のように開けることが分かった。開くと階段が地下へと続き、そして地下道が現れた。

「コレハ……マルデ、古代ノ遺跡ノヨウデゴザル……」

 豆蔵はそう評した。どこが古代なのか私にも分からないが、いつか写真で見たローマのカタコンベのような雰囲気はある。通路と言ってもかなり広く、大人が10人横並びで進める幅で1か所はまるでホールのようなちょっとした広い場所まであった。


「コレハ、昔ニ祭壇ガアッタト思ワレルデゴザル……」

 破壊はされているが豆蔵の言うように祭壇があったと思えるような作りだ。一体、何を崇めるために作られたのかは定かではないが、破壊された像みたいなものが散乱している。そして布で覆ってある大きなものが壁に取り付けてある。めくってみると青銅の鏡である。大人が一人映り込むほどの大きな鏡だ。


「変デスネ……コレダケ破壊サレテイナイデゴザル……」

 確かに変だ。これだけ古めかしい地下通路にこれは似つかわしくない。それに鏡なら壊れていてもおかしくはない。私はそっと鏡に触ってみる。


(あ……チリチリする……)

 微弱な電気が流れているような感覚が指にある。それを私は(魔力を帯びている……)と直感した。

(これは何だか、あまり関わってはいけない気がする……)


「豆蔵、先を急ぎましょう」

 私は祭壇の調査は止めて、先へ行くことにした。通路の方向からすると本館につながっていそうである。私は昨日の恐ろしい人形の幽霊の正体を確信した。


 通路の先は本館の裏倉庫につながっており、そこに目のない人形とつりざお、恐ろしい顔をした犬のお面を2つ見つけたのだ。


(正体見たり……ってところね)

「豆蔵、この人形や犬のお面について調べてちょうだい。たぶん、私を脅かすために用意されたものだと思うから」


「承知シマシタ……」

 豆蔵にそう言って私は別館へと急ぎ戻った。床の煤を拭いて軟禁されている状態に戻らないといけない。


 10時頃にエンリエッタがやって来た。いかにも心配そうな表情である。

「ミコト、昨日は怖い思いをしなかったかい?」


(おやおや……)

 私はそう思った。女将様は私が怖い目にあったと確信しているらしい。普通の8歳の女に子ならそれをおかしいと思わず、怖い怖いと泣き叫ぶことだろう。


 しかし、私は違う。エンリエッタの態度でこのお仕置きの正体が分かったからだ。

「昨日の夜、怖いお人形と犬が部屋にやって来たよ」

「そんなものが現れたのかい?」


 ちょっと演技臭いなと私は思った。エンリエッタは私にこう促す。

「あなたが真剣にコーデリアに謝るなら、本館に帰してやるよ。そうじゃないとまた今晩、ここに閉じ込めないといけない。それは怖いだろう。また、その怖いお人形がやってくるよ」

(ああ……なるほど)


 エンリエッタは私のことを心配してお仕置きを短縮させたいようだ。確かに8歳の女の子にこの恐ろしいお仕置きは酷だ。やり過ぎるとトラウマになってしまう。高値で買い取った私を脅かし過ぎて、精神に異常をきたしてしまうのを危惧しているらしい。


 将来、夜の蝶に育てて稼がせようと思っているのに、暗闇が怖くて働けませんなどとなっては、困るからだろう。


「全然、怖くないよ。あんなのきっと勇者様が倒してくれるから」

「勇者様?」

「そう勇者様。ミコトには勇者様がついているから」

「ははは……そんな人はいやしないよ。ガインがしゃべっていたキラーラビットとか言う勇者をあんたも信じているのかい?」


 エンリエッタは女衒商人のガインから、小さな勇者の話を聞いていたが信じていないらしい。もし、本当にいたとしてもそんな勇者がこの桜蘭亭の些細なことに首を突っ込むはずもないと思っているのだ。


(ふふふ……。女将様、それは甘いですよ)


 私が全然ビビってないようなので、エンリエッタは少し気分を害して別館を後にした。彼女は怖がって泣きつく私を想像していたから、この展開は予想していなかっただろう。


「さて、今晩現れる幽霊さんたちのおもてなしの準備をしないとね」

 エンリエッタが帰った後、私は今晩にやって来る幽霊対策の作戦を練ることにした。


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