きらり
大きな音にびっくりする。
「わっ、何っ?」
後ろを見ると、黒の軽自動車が必死で追いついてくる。
「あれはレンタカーだ」
「隼人っ」
驚いていると、隼人の運転する車が素早く横についた。
「車を止めろっ」
窓を開けて隼人が怒鳴った。隣の助手席では秋吉が真っ青な顔で座っている。
「比呂也がおびえているじゃないか」
秀一は憤慨すると、車のスピードを少しずつ落として、車線変更を出した。緩やかに二台の車が高速から外れ市外に向かう。
先に秀一が車を止めた。辺りは真っ暗で街灯だけが頼りだった。
「陸っ。降りろっ」
隼人がやってきてドアを叩いた。
降りたくない。合わす顔もない。
車の中で首を振った。
「陸っ」
隼人が激しくドアを叩く。子どもみたいにノブをがちゃがちゃいわせた。
陸は仕方なくロックを外して車を降りた。目を合わせる事ができなかった。
「何だよ……」
下を向いてぼそぼそと言うと、隼人が怒鳴った。
「俺の顔を見ろっ」
あんまり怒鳴るので、むかっ腹が立った。
「うるさいなっ」
かっとなって顔を上げると、見た事もないほど取り乱した隼人が立っていた。
「あ……」
「そんなに兄貴がいいか。俺じゃダメか」
「え……?」
いつもの隼人らしくない。焦った顔は必死だった。
「兄貴はやめておけ、こいつには比呂也がいるからな。あきらめた方がいい」
「何言ってんの……?」
こんな時に何を言っているのだろう。
一体誰が、いつ秀一さんを好きだなんて言ったんだろう。
脱力して陸はその腕を振り払った。
「陸っ」
「秀一さんはいい人だよ。隼人こそどうしてそんなに秀一さんを邪険にするんだよ」
「こいつがっ、俺から陸を奪おうとしたからだっ」
今度は陸が目を剥く番だった。
「えっ?」
びっくりして秀一を見ると、彼は肩をすくめて苦笑いした。
背後で秋吉さんの目が暗闇できらりと光った。
陸は困惑していた。おろおろしながら隼人を見上げる。
「ど、どういう意味?」
「最初に好きになったのは俺だ。なのに、兄貴は横取りしようとした。だから、俺は…っ」
「好き? ただの友達じゃ…?」
「それは…陸が安心するだろうと思って…」
隼人の声が小さくなる。
「安心? 俺は傷ついていた。ずっと好きだったのにっ」
隼人が目を丸くして陸を見る。陸は、あっと口を押さえた。
「好きなのか?」
隼人は血相を変えると陸に詰め寄った。
「あ、あの…その……」
陸は顔を赤くして後ずさりした。
「言えっ」
隼人が言った時、背後で秀一がボソッと呟いた。
「情けないよね。そもそも、隼人がいけないんだよ。お前は陸くんの気持ちを聞きもしないで、セックス友達という言葉で彼を縛りつけたんだ」
「何だと? もともと、あんたが邪魔をしなければ―――」
隼人が睨みつける。秀一はくすっと笑うと、
「私は邪魔なんかしていないよ。勝手に思い込んだのは隼人じゃないか」
と言った。隼人は言い返せずに唇を噛んだ。
「行くぞっ」
「待ってっ」
陸は足を踏ん張った。
「栞の友達は? ほかにもセフレがいるんだろ?」
「いないよ……」
一瞬たじろいだ隼人を陸は見逃さなかった。
「ホテルに入ったくせにっ」
「何もしていないっ」
隼人は怒ったように言った。
「それは栞さんの狂言ですよ」
「「え?」」
秋吉の発言に、陸と隼人は同時に振り向いた。




