クラクション
泣くなんて…。
自分はなんて情けないんだろう。
がっくりと肩を落とし涙を拭いて隣を見ると、ハンドルを握った秀一が楽しそうに笑いかけた。
「……運転できたんですか?」
「ん? うん。君のために免許を取った」
「……いつもと違う車ですね」
「君に似合う色を選んだ」
「もしかして、レンタカーですか?」
「まさか、違うよ」
いつもより上機嫌の秀一は車を走らせて高速に乗った。一気にスピードが上がる。陸は泣き疲れてぐったりとしていた。
「どうして泣いてたの?」
優しい秀一の言葉に、陸は首を振った。悲しみが込み上げてきてまた涙が零れる。
「隼人なんかやめておきなさい。君を悲しませるだけの価値もない男だよ」
「秀一さん……」
知っていたの?
何も言えず目を伏せると、隣で静かに秀一が言った。
「兄である私が言うんだ。あいつに君はもったいない」
「どうしてですか……?」
「どうして、今頃そんな事を言うのかって?」
秀一はくすっと笑うと、ハンドルを切りながら追い超し斜線に移動した。グンとスピードが上がる。
「君が泣いているから」
「泣いてなんか……」
そう言いながら涙がこみ上げる。陸は観念した。
「…情けないですよね」
へへへと笑うと、秀一は真面目な顔で首を振った。
「他の男なら見苦しいけど、君はかわいいから、もっと泣かせてみたいね」
「はあ……」
どう答えていいか分からなかった。だが、涙は止まって、少し落ち着いた。
「どこに行きたい? ホテルにでも入って休憩する?」
「このままがいいです」
「そう」
秀一は微笑むとアクセルを踏んだ。
「CMはきっと話題になるよ。君が復帰するのをずっと待っていたんだ。それをあいつが……」
「俺はそんなに価値のある人間じゃないです。隼人の方がずっと仕事ができます」
「セフレになれって言うような男を褒めるの?」
秀一の言葉にひやりとした。
やっぱり、知っているんだ。
恥ずかしさで顔を上げられない。
「ごめんなさい…」
小さい声で謝る。
秀一は呆れたように言った。
「君は自分の価値を低く見すぎている。セフレだなんて、言葉にするのも吐き気がするよ」
「俺を軽蔑しないんですか?」
「君を?」
秀一が驚いたように声を上げる。
「とんでもない。軽蔑するのは隼人の方だ。君は本当に…」
秀一が急に黙り込んだ。
「ああ、追いつかれた」
話の途中で秀一が呟く。
「え?」
その時、後ろからブブーっと激しくクラクションが鳴り響いた。




