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説明回ですいません……。
難しい話は続くよどこまでも!
マオはさ、ずっと暖めていた計画を実行したんだろうけど、異世界の魔族の移住なんて、私とお母さんは初耳なんだから、すぐに答えられる訳がない。受け入れられない理由ならいくらでも浮かぶんだけど。
でも、ここで即座に断るのはあんまりよくないよね。なにしろ、異世界トリップですから!
逆ハーエンドを夢見て頑張らないとね。あれ? 乙女ゲーと混じっちゃった?
とにかく、そういうわけで、お母さんに話しただけでやり遂げた顔をしているマオと、営業用笑顔のお母さんと、三人で晩ご飯を食べて、返事は保留のままマオには帰って貰った。
来週は月が変わってお母さんのシフトが変わっちゃうから、木曜日に来て欲しいって事と、私は塾でいないから、勝手に下まで降りていいけど、とにかく靴は脱いでねって事を伝えたけど、分かってもらえたかな……まあ、分かってなかったらまたお母さんにお説教して貰えばいいや。
そんな訳で、ネットで移民の条件とかちょっと調べてみたけど、ごめん、全然分かんなかったよ……。とりあえず、マオがなんか魔法でうちに現れるのは不法入国に当たるって事は分かったけどね!
水曜夜にお母さんにそのことを伝えて作戦会議をしてみたけど、お母さんだってもちろん看護師一筋の人だから、不法就労の人が入院したことはあるっていってたけど、詳しい話は分かんないままで、つまりノープランのままマオを迎えてしまうことになりそうだった。
「お母さん、マオはうちを頼ってきたのに、これはちょっとやばいよ」
「でも、うちじゃ引き受けるのは無理よ。マオ一人ならともかく、魔族の人ってまだたくさんいるんでしょう?」
「でも、だって、マオ、ちょっと常識無いけど、お母さんのご飯美味しいって言ってたじゃん。移民出来なかったら勇者に殺されちゃうんだよ?」
「そうねえ、あの食べっぷりはよかったわねえ」
「ね。ね。私、塾の先生に聞いてみるよ。現社の先生かな?」
「お母さんも心当たりに聞いてみる。でも、明日には来ちゃうのよね。間に合わないわ」
まあ、晩ご飯さえ食べれたらマオは満足する気もするけど、ノープランだとご飯の時間まで間が持たないよね。
「じゃあさ、移民って何人くらいいるのかとか、魔族って、小説やファンタジー映画だと色々種族があるけどどういう人かとか、こっちに来てご飯とか大丈夫かとか、こっちの人間食べたりしないかとか、そういうの聞いておいたら? 移民してくるって前提なら、そのうち確認しなきゃいけないと思うし」
「そうね、マオに喋らせて聞いてればいいのよね。お母さん、そういうの得意よ」
にっこりと笑うお母さんはさすがの白衣の天使です。隠し財産のありかをこっそり教えられて骨肉の争いに巻き込まれたりするのはもう勘弁ですけどね。
で、木曜の夜です。
帰宅したらマオはもう帰っちゃってました。つまんない。ていうか、靴を脱がなかったらしく、帰った途端に階段の掃除を言いつけられました。ちくしょう、マオめ。
わざわざ居残りで質問した現社の先生はイマイチ役に立たなかったから、お母さんの話を聞くと、さすが、ナイスなお母さんはデジカメをマオに渡して魔族の写真を撮ってくるようにお願いしたんだって!
「それいいね! カッコイイ人いるかな?」
わくわくしながら聞くと、お母さんはそれがねえ、と憂い顔で言葉を継いだ。
「なんだかね、力が強いと人間型になるんだって」
「え? じゃあ、魔族って人外? 移民じゃなくて外来種?」
「えーとね、お母さん、色々喋らせたのよ」
いやお母さん、そこは「色々聞いたのよ」って言おうよ。
話の腰を折ると機嫌悪くなるから心の中でだけ突っ込むと、お母さんは走り書きのメモを見ながら教えてくれた。
「今ね、残ってる魔族の人、二万人くらいなんだって」
「にまんにん? えーと、うちの高校、三学年で四百五十人だよね……えーと、えーと」
「あなたこの間東京ドームのコンサートに行ったでしょう? あれ、五万人くらいじゃない?」
「多いのか少ないのか分かんないね!」
「それでね、その半分は言葉が喋れなくて、八割は人間型を取れないんだって」
「え? 同じ種族なのに?」
「魔力があって、魔王……マオが好きなら魔族なんだって」
「まりょく!」
ファンタジーキタ!
「それでね、マオみたいに、人間みたいな人はほんの一握りなんだって」
「二割ね」
「ううん、二割は、人間型を取れるって人。だから、ゾンビとか狼男みたいな、一目で人間じゃないって分かる人も含んでいるの」
ああー。そうですか、ファンタジーですか。コワモテ狼男さんをブラッシングして腹を見せさせるフラグじゃないですよね?
「ていうかさ、一目で人間じゃないって……移民とか、無理だよね?」
「河童の実在を信じている先生ならいるけど、相談した方がいい?」
そして今夜もノープランのまま解散となったお母さんと私なのでした。