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あたため令嬢の流儀  作者: 雪村灯里


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2/2

【後編】アツい舞台をあなたに!

 私がこの舞台(異世界)に生まれ落ちた時から、悩んでいたことが一つある。


 ――それは魔界が無いこと。


 あら~~?? おかしいわ!? ヒロインは魔界の王と恋に落ちるはずなのに……Why(なぜ)


 ――答えは単純明快。


「(レイカちゃん! 爆誕おめでとう! 今、君の頭に直接語りかけてるよ~! ごめーん☆ 予算が足りなくて、魔界を準備出来なくてさ~。現地でちょいちょいっと見繕ってくれる?)」


 誕生直後、カントクからの言葉に衝撃を受けた。私は泣いたわ。神でもない私に魔界をどうにかしろと? 無茶振りにも程があるわ!?!?


 この難題を解決する為、どれほど深窓で刺繍をしながら考えたでしょう? 一枚、また一枚と刺繍が完成していく。今までの舞台でも貴族令嬢役を経験した私にとって刺繍とは、精神を集中し思考できる良い時間。そして、長年の経験と知恵を働かせてある結論に至る。



 無いのなら作ってしまえコカトリス(byレイカ)



 ◇ ◆ ◇


 闇を駆る馬は目的地に着いた。ここは 『MAKAI(まかい)Village(ヴィレッジ)』。黒い森に囲まれた静かな村よ。


「(やっほ~。レイカちゃん! 久し振り!! お! 魔界出来たんだね? 魔界む――)」


「(ヴィレッジですわ!!)」


 こればかりは、いくらカントクでも譲れない。Village(ヴィレッジ)!!


 私は村で一番大きなお屋敷の裏口を叩いた。すると待っていたように扉が開く。品の良い痩せた中年男性が静かに出迎えてくれた。彼が村長……いえ、初代魔王よ。


「カラス様、いらっしゃいませ。中へどうぞ」


 私は彼に『混沌(カオス)使者(シシャ)闇夜(やみよ)のカラス』と名乗っている。ランプが(とも)る薄暗い客間で、私達は会談を始めた。

 

「カラス様、いつもご支援ありがとうございます」


「いいのよ。村はどう?」


「はい、カラス様のお知恵と資金のお陰で順調です。昨年は農作物の収穫が増え、食料も納税も問題なく。魔界住人たちに活気と笑顔が戻りました。そして村念願の学校も始動しました」


 私は窮地(きゅうち)(おちい)ったこの村の名前を買った。資金は刺繍作品を売りさばいて出来た元手を長年の財テクで増やした。魔界ビレッジはその金を使い暮らしを立て直している。


「それは良かった。エリックは元気?」


 エリックとは魔王の息子。この魔界の後継者であり物語のヒーロー候補。少し天然で天真爛漫(てんしんらんまん)な15歳で、カントクが求める魔王像にピッタリな人材。


「ええ、息子は健やかに育っております。次期魔王として私の仕事を手伝いながら勉学にも励んでおります」


 ポンコツ――いえ。ちょっと(すき)のある優しい男の子に育っている。物語のヒーロー育成も順調。私の計画(プラン)に隙など無いわ! 魔王の報告を聞いて私は胸を撫で下ろした。


「みんな息災(そくさい)で安心した。じゃぁ、私は行くわ。見送りは結構よ。良い魔界づくりに励んで」


「はい。カラス様の(おお)せのままに……」


 この調子なら村は発展して立派な魔界が出来るでしょう。聖女になるまでは定期的に訪れて、軌道に乗ってからはフェードアウトする。これで行きましょう。



 屋敷を出て馬に乗ろうとした時だった。また、カントクから頭に直接連絡が入る。



「(カレンちゃん! タイトルが正式に決まったよ!)」


「(まぁ、どんなタイトルです? 大きな変更はございませんよね?)」


「(『孤独な深窓(しんそう)聖女は、《《氷結の魔王》》と永久(とこしえ)の春を舞う』)」


「(え!? ポンコツはどこに行ってしまいましたの!?)」


「(やっぱりさ~、スパダリ(スーパーダーリン)の方がユーザーも頼りがいあるし、弱い部分を見た時のギャップにグッとくるだろ? だから魔王はクール系スパダリで決定!!)」



 ぐっ……私の計画がっ!! でも、原作は神の摂理(神のルール)。急な変更にも臨機応変に演じるのが、私の役目っ!!


 私は苦虫を噛みながら、修正案を練っていた。その時だった。


「カラス様!」


 後ろから、名前を呼ばれた。振り返ると、ひょろっとした黒髪の少年が立っていた。冬の湖の様に澄んだ瞳に端正な顔……エリックだ。彼は私を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。


「僕と踊ってくれませんか?」


 歌とダンスが好きな彼は、私に手を差し出した。純真な彼の笑みに負けて、私は彼の手を取る。


「エリック、背が伸びたわね? 寝室を抜け出してきたの?」

「ええ。お会いしたくて。カラス様も少し背が伸びましたね? ……きっと、フードで隠しているお顔も、美しいのでしょうね」


 私達は月に照らされながらステップを踏む。繋がれたエリックの手が熱い。


「……ダメよ? 私は闇の住人。闇を舞う(カラス)は気まぐれなの。決してあなたとは結ばれないわ」


 ピクチャーポーズ(決めポーズ)になった拍子に、被っていたフードがパサリと落ちる。熱を帯びた切なそうな目で、真っ直ぐに見つめられた。


「なぜ、そんなことを言うのですか? 僕はカラス様が好きなのです」


 告白をされ不意に心臓が跳ねたけど、直ぐ現実に引き戻されてしまう。

 ううっ……す、スパダリ……どうしましょう。ここからなれるスパダリは有りますか?

 私の情緒はぐちゃぐちゃだ。とにかく! 彼をポンコツからスパダリにする方法を考えないと。私は彼の腕に抱かれたまま考えた。それは星が瞬く程短かったか、氷がどけるほど長い時間だったか……。

 そしてプランが練り上がる。とても残酷だと分かっている。でも、私は告げた。


「……エリック。会うのは今日で最後よ。私、冷静沈着で頼れる大人の男が好きなの。あなたには6年後、運命の女性が現れるわ。私の事は忘れて今後も励んで素敵な魔王になって頂戴。さようなら……」


 トンと彼の胸を押して、離れた。猛ダッシュで馬に飛び乗り、村を出る。もう私が闇夜のカラスとして村に来ることはないだろう。


「カラス様! 僕は! 諦めませんから!!」

 

 罪悪感で胸が張り裂けそう。でも、恋に落ちて幸せになるのは私とでは無い。私はただの代役。そう言い聞かせながら屋敷へと戻った。


 そして、2年後。私は聖女になる。


 ◆


 聖女になって早3年11ヶ月――。


 何も言わず大人しいことをいい事に、こき使いやがって……。――なんてこと思っても口と表情に出さず、私は聖女としてこの国に仕えた。


 美女になった私は360度全方位隙なし! まごう事なきヒロイン。聖女として歴代最強の力と実力を持つのは、日ごろの鍛錬の賜物(たまもの)。努力は私を裏切らなかった。


 そして、もうすぐ18歳。物語が動き出す。


 ああ、早くこのブラックな職場からおさらばしたい。Come on(カモン) 神託――♡

 この国は偽の神託を受ける。そして、聖女を魔界の魔王へと捧げるのだ。


 でも、問題が発生した。誰も私を聖女の塔から追い出そうとしないの。派閥争いも無い。国内外も平和そのもの。それとなく、私を邪魔に思う人や組織が無いか聞いてみた。


「フレイ様を追い出そうとする勢力!? そんなの我々が全火力をもってブッ(つぶ)しますよ!! ――で、今日の仕事なんですけどー……」


 骨の(ずい)までしゃぶり尽くされる! 私は慌ててカントクに()いた。


「(カントク? 偽の神託を出す人って、台本では誰になっています?)」


「(……あれ? ごっめーん☆ 考えてなかった!)」


 …………。


『【神託シンタク】聖女ヲ排除(ハイジョ)セよ――聖女ハじきに闇に()ちる。国の脅威(キョウイ)トナル。闇堕ちシタ聖女を、()えらレルのハ魔王(マオウ)しかいない。聖女を魔王の花嫁として、《《早急》》に献上(ケンジョウ)せよ!!』



 怪文書が王宮に届いた。私は一週間、(うつむ)きながらボソボソと独り言を零し続けたら……国はあっさりと魔王の元へ送る事を決めた。


 もう、自分でニセの神託出しましたわ。ええ。


 18歳を迎え、輿入れ当日となった。建前上しょぼんとしたまま馬車に揺られ、懐かしい森の道を進む。

 もうすぐ私の役割も終わり。18年間長かったわ……最後まで気を抜かずに演じきらないと!!

 

 黒い森を抜けるとMAKAI(まかい)Village(ヴィレッジ)が見えた。三年ぶりの魔界は見違えるほど発展している。


 村では春の到来を祝う祭りが開かれ、村人は音楽に合わせてダンスを踊っていた。花も咲き乱れ、まるで天ご……いえ、ここは魔界。

 でも、こんなに豊かな村になったなんて……。並大抵の努力では叶わなかったでしょう。こんな素敵な魔界ならきっと物語は上手く進むはず。


 私は魔王の館へと訪れた。建物は昔と変わっていない。執務室へ通されると、サラサラとした黒髪の男が座っていた。エリックだ。書類を持つ指は少し骨ばって、捲られたシャツの袖から見える腕は薄っすらと血管が浮かんでたくましい。彼は氷の様な瞳で私を捉えてくれなかった。


「残念だが、君と結婚するつもりはない。君は自由だ。好きな場所に行って好きに過ごしなさい」


 ん~♡excellent(エクセレント)!! 「~つもりはない」構文頂きましたわーー!! 彼の言葉に、室内に居た人々は騒然とした。


 台本としてはperfect(パーフェクト)なスパダリ魔王に成長したエリック。でも、彼の言葉に私の胸は痛んだ。私には傷つく資格なんてないのに……。


「わかりました。エリックさま……」


 そう答え一礼した。部屋を出ようとした時……エリックが勢いよく椅子から立ち上がる。


「その声は……まさか、カラス様?」


 ……私を覚えていてくれたの? という切ない気持ちと……やっべぇですわ!! という相反する気持ちで頭が真っ白になった。


 私は逃げるように部屋を飛び出す。


「待ってくれ!!」


 まずい! まずいですわ!! でも、同時に盛り上がって参りましたわ!!!

 私は屋敷を出て、村の広場へ向けて走り出す。私の中の俳優魂が感動的なフィナーレに向けて計算を始めた。


 このままの走りでは、本気で振り切ってしまう。広場に着いた頃にエリックに捕まる様に調整して走らないと!!


 計算はぴったりのハズだった……。でも運命が悪戯(イタズラ)を始める。私が広場の中央にさしかかった所で、私はバナーヌの皮を踏んで、転ぶ!! 


 そんな! バナーヌ!?


 窮地に陥った私の世界は、まるでスローモーションのよう。

 右足の(ヒール)が脱げて天高く飛ぶ。体は抵抗する術もなく後方へと倒れてゆく。固い地面に受け身を取ろうと覚悟した時……


「はぁ……はぁ……捕まえた」


 エリックの腕に抱きかかえられるように収まった。これは、最高のタイミングでは!? 私の心臓も高鳴る!!


 その瞬間、真っ青な空に『終り』と『始まり』が見えた。


 世界もキャストも温まり……今、物語は生まれようとしている!!


 最後の瞬間、私はにっこりとエリックに向けて微笑んだ。どうか、彼の人生も幸せで満ちるようにと願いながら……。


 賽は既に投げられていた。青空に飲み込まれた(ヒール)が地面に恋して落ちてくる。そして、私の額を直撃。


 ――カツンッ☆


 これで、あたため令嬢の仕事は終わり。転生者さん、この世界を……人生を楽しんで!!












 ◆お客さまからの声◆

 

 ☆☆ 目覚めると、みんな踊っていて引いた


 異世界俳優さんと入れ替わった直後、周囲の人がフラッシュモブの(ごと)く踊っていて引きました。もう少し自然な感じだと良かったです。でもその後は不安なく過ごせました。最初の演出が暑過ぎだったので☆2で。


(終劇)

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