表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/57

エピローグ

 


 そんなこんなで、私がグランハート領にやってきて、一年が経った。

 

 季節はすっかり冬になり、また極寒の時期がやってきてしまった。窓の外には、白く霞んだ空が広がっている。

 

 去年の今頃、右も左も分からないまま馬車に揺られてここへ来たことを思うと、随分とたくましくなったなと思う。

 

 そういえば、実家のことも、風の噂で聞いた。

 あの後、叔父と叔母は資金繰りが上手くいかず破産したらしい。


 国からの補助金で領地を立て直しを命じられ、王都の屋敷を引き払い、今は贅沢もせずに領地で慎ましく暮らしているとのことだ。


 ベアトリスは、結局どこかの男爵と結婚したらしい。幸せかどうかは、分からない。

 

 私は、もう彼らのことを恨んではいない。


 あの時の経験があったから、今の私がいる。

 そう思えるようになったから。

 

 ◇

 

 朝、いつものように起きて、身支度を整える。

 鏡を見ると、一年前よりも少し大人びた顔になっている気がした。

 

 食堂で朝食を食べて、オリバーさんに見送られながら玄関へ向かう。

 

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、アリス様」

 

 オリバーさんが、優しく微笑む。

 その笑顔を見るたびに、ここが自分の家なのだと思う。

 

 魔法学校へ向かう馬車の中、窓の外を眺めながら今日の仕事を頭の中で整理する。


 今日は備品の棚卸しがあって、午後にはリオとリラが魔道具の使い方を教わりに来る予定だ。

 あの双子も、すっかり備品庫の常連になってしまった。



 学校に着くと、廊下でレイア先生に声をかけられた。

 

「おはよう、アリス。今日も張り切ってるわね」

「はい。棚卸しがあるので」

 

「わたしも忙しいのよ〜」と言いながら、レイア先生は全く大変そうな顔をしていない。

 私は苦笑いしながら、備品庫へと向かった。

 

 備品の点検をしていると、お昼前にヴィクター様がひょっこりと顔を覗かせた。

 

「……今日は講義が午前で終わる」

「……?」

 

 私が首を傾げていると、ヴィクター様は、私の持っていた台帳に目を落とした。

 

「お前、午後は暇か」

「え、棚卸しが終われば……」

「なら来い」

 

 それだけ言って、ヴィクター様は廊下へ戻っていく。

 教本を持っているから、きっと今から授業なのだろう。

 

「ど、どこへですか」

「外だ」

「そ、外ってざっくり過ぎませんか……!」

 

 私の叫び声にも、振り返りもしない。

 その背中は、どこか少し急いでいるような気がした。

 

(……デート、ということだろうか)

 

 久々のデートに、思わず顔が熱くなる。


 レイア先生に事情を話すと、にっこりと笑って快く了承してくれた。

 

「いってらっしゃい。若いっていいわねぇ」

 

 その声があまりにも楽しそうで、私は少し恥ずかしくなりながら、ヴィクター様と一緒に学校を出た。

 

 

 ◇

 

 着いたのは、前に私に魔法を見せてくれた広場だった。

 空が広くて、遠くまで見渡せる。


 ここは、ヴィクター様が初めて眠った場所でもあるから私にとって特別な場所だった。

 草が風に揺れて、さわさわと優しい音を立てている。

 

「ヴィクター様、さっきから大人しくないですか?」

 

 私が聞くと、ヴィクター様は視線を逸らした。

 

「……そんなことない」

 

 いや、絶対にそんなことある。

 魔法学校を出てからというもの、彼はずっとぎこちない。


 いつもなら不機嫌そうな顔をしているのに、今日は妙に落ち着きがなくて、私の顔をちらちらと見ては視線を逸らすのを繰り返している。

 

「アリス」

 

 突然、名前を呼ばれた。


 振り返ると、ヴィクター様が真剣な顔をしていた。

 そして、私に向かってゆっくりと跪いた。

 

「えっ……」

 

 声が出なかった。心臓が、早鐘のように打ち始める。

 

「お前と過ごして、一年経つが、もう、お前のいない暮らしは考えられない」

 

 ヴィクター様が、私を見上げる。

 その赤い瞳は、私だけを見つめていて。

 私のことが大好きなのだろうと自惚れてしまいたくなるくらい、彼の目は私でいっぱいで。


 風が吹いて、彼の黒い髪が揺れる。

 

「こんなに、かけがえのない存在になるなんて思ってもいなかった」

 

 ヴィクター様の声が、少し震えている。

 その言葉が、じわりと胸に染み込んでいき、涙が滲んできた。

 

「俺と……」

 

 ヴィクター様が、言葉に詰まった。

 その顔が真っ赤で、耳まで赤い。手が、少し震えているのが見える。


 ヴィクター様は完璧な人じゃない。


 社交的じゃないし、口は悪いし、朝寝坊はするし。

 私をからかうような言動をしたかと思えば、意外と恋愛慣れはしていないし。


 こうやって、大事な場面でも緊張して言葉が出てこなくなってしまうんだし。


 でも、私はそんな彼の全てが――

 

「結婚……して、ください」

 

 ――とても。愛おしくて、仕方がない。


 私は、ぶわりと涙を溢れさせながら、頷いた。

 

「……もちろん!」

 

 ヴィクター様の顔が、見たことが無いくらい、ぱっと明るくなった。

 そのまま立ち上がって、私を強く抱きしめる。


「大好きですよ、ヴィクター様」

 

 私が言うと、ヴィクター様の腕に力が込められる。

 

「俺も、愛してる」

 

 私は、ヴィクター様の胸の中で目を閉じた。


 心臓の音が聞こえる。早く、力強く打っている。

 ドキドキし過ぎて、私かヴィクター様か、どちらの音かわからなくなってしまった。

 

 ヴィクター様の手が、私の顔を両手でそっと包む。

 ゆっくりと顔が近づいてきて、唇が重なった。


 優しくて、温かいキスだった。

 

 やがて唇が離れると、ヴィクター様が私をじっと見つめた。

 

「アリスのこと、一生幸せにする」

「私も、ヴィクター様を幸せにします」

 

 将来を誓うかのように、ぎゅっと手を握りあった。




 いつの間にか日が暮れていた。

 夕日が二人の影を一つにして、影が地面に伸びていた。

 

「ヴィクター様は、どんな家庭にしたいですか?」

「毎日、アリスの隣で『おやすみ』と言って、アリスの隣で『おはよう』と言いたい」

「何ですか、それ」


 そんな当たり前のことを望むなんて、ヴィクター様はやっぱりまだ自信が無いのかもしれない。

 私は、これからも彼の幸せのために、全力を尽くすつもりだ。


「ヴィクター様、朝寝坊はだめですからね」

「残念ながら、その保証はできないな」

 

 そう言って、お互い笑い合った。


 私はこれから始まる人生が、とても楽しみで――きっと愛おしい日々になるのだろうと確信するのだった。

 

 

 ◇

 

 

 

「ねえ、パパったらまだ寝てるの?」

「休みの日だけど、そろそろ起こしに行かなきゃね」

 

「おはよ、パパ!」

「……ああ、おはよう」

 

(完)



これにて、ヴィクターとアリスのお話は完結です!

応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました。


よろしければ、下の評価★★★★★をぽちっと押していただけると嬉しいです。

それでは次回の作品でお会いできれば幸いです♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ