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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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32話 もしこれが、おとぎ話なら①

 


 屋敷に帰ってくると、玄関でオリバーさんが待っていた。

 私たちの姿を見た瞬間、彼の顔がにやりと歪んだ。


「あらぁ、あらあらあらあら」


 オリバーさんが、嬉しそうに近づいてきた。ずいっとヴィクター様の顔に近づく。


「なんだか、雰囲気が違いますねぇ? これは、もしかして、これはもしかして~」

「うるさい」


 ヴィクター様が、不機嫌そうに言った。けれど、その顔は少し赤くなっている。

 誰がどうみても、何かあったことは明らかだった。


「わーっ、おめでとうございます!」


 オリバーさんが、両手を叩いて喜んだ。


「料理長に言って、ケーキでも作ってもらいましょう。それから王太子殿下にもお知らせを――」

「おい、余計なことするな」


 ヴィクター様が慌てて止めようとしたけれど、オリバーさんは既にスキップをしながら奥へと消えていった。


 私は、その様子を見て思わず笑ってしまった。


「何を笑ってるんだ」

「いや、いつもの日常が戻って来たなあって」


 舞踏会に行ってからというもの、慌しい日々が続いていた気がする。

 私たちは、応接室に入って、ソファに隣り合って座る。


「ところで、私たちってどうなるんですか」

「どうなるって?」

「ほら、両想いになったら普通はお付き合いするでしょ。でも、私たちってもう婚約者だから……」

「恋人兼、婚約者ってことだろう」


 ヴィクター様はなんでもないように言う。

 なんだか浮かれているのが私だけの気がして悔しくなってしまう。


「……じゃあ、私のこと名前で呼んでください」


 私が言うと、ヴィクター様が石像のように固まった。


「は?」

「だって、ヴィクター様、私のこと『おい』とか『お前』としか呼ばないじゃないですか。熟年夫婦ですか」


 私が少し不満そうに言うと、ヴィクター様は視線を逸らした。


「それは……」


 言葉に詰まっている。

 私は、少しいじわるな気持ちになって、身を乗り出した。


「ほら、呼んでみてください」

「今じゃなくてもいいだろう」

「今がいいんです!」


 私が言い張ると、ヴィクター様は観念したように小さく息を吐いた。


「ア……」


 そこで何を思ったのか彼は立ち上がった。顔を見られたくなかったのだろうが、真っ赤になっているのが丸わかりだ。


「アリス……」


 そう言いながら、ヴィクター様はへなへなとしゃがみこんだ。

 私は思わず笑って、彼の前にしゃがんだ。

 照れた顔を見つめながら、最上級の笑顔で彼のことを見つめる。


「馬鹿にするな。どっか行け」


 ヴィクター様が、ぐい、と顔面を手で押しやってきた。


「またまた」


 私が笑うと、ヴィクター様はますます顔を赤くした。


 ◇


 夕食の時間になった。


 食堂に入ると、テーブルの上には豪華な料理が並んでいた。

 ローストビーフ、魚のソテー、色とりどりのサラダ。そして、中央には大きなケーキが置かれている。


「オリバー、何だこれは」

「お二人のお祝いです!」


 オリバーさんが嬉しそうに答えた。その手には、封筒が握られている。


「オリバー、なんだ、その手紙は」


 ヴィクター様が、不穏なものを察知したかのように聞いた。


「王太子殿下に報告しようかと」

「やめろ、お前。封印するぞ」


 ヴィクター様があまりに怖い顔をするものだから、オリバーさんは、顔を青くしながら手紙をポケットにしまった。


 豪華な夕食はどれも美味しくて、私は幸せな気持ちでいっぱいになる。

 お腹が膨れると、段々と眠くなってきて、私はあくびをする。


「……ん?」


 そこで、私は気が付いた。

 これはひょっとすると。


「もしかして、ヴィクター様は、『真実の愛』を知ったんじゃないですか?」


 私が言うと、ヴィクター様とオリバーさんが同時にこちらを見た。

 私たちは両想いになった。ヴィクター様も「好き」という感情を知った。


「ということは、ヴィクター様は眠れるんじゃないですか!?」


 その言葉に、部屋が静まり返った。

 ヴィクター様が、ゆっくりと口を開いた。


「そうなる……のか?」


 その声には、期待と不安が混じっていた。


「魔女様は、真実の愛で呪いが解けるって言ってましたよね」

「確かに、そうですね。試してみる価値はあります」


 ヴィクター様は、少し考え込む仕草をしてから言った。


「全然眠くないんだが」

「横になったら自然に眠くなりますよ」


 私が言うと、ヴィクター様は少し不安そうな顔をした。


「なるほど?」


 10年以上も眠っていないヴィクター様にとって、眠るというのは未知の体験なのだろう。


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