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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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14話 「出来損ない」と「出来損ない」④

 

 テーブルには、焼きたてのケーキ、オリバーさんのお菓子、薔薇の花の描かれた紅茶のポットが並べられた。


「わーっ!」


 私は思わず、ぱちぱちと小さく拍手した。


「ずっとこういうの憧れてたんです。パーティーなんて、いつぶりだろう!」


 両親が亡くなって叔父に引き取られてからというもの、パーティーなんて一度もなかったように思う。


 自分の誕生日もずっとひとりだった。ベアトリスの誕生日パーティーには呼ばれることもなく、私は部屋で一人、寂しく過ごしていた。


「いただきます!」


 さっそくケーキを口に入れると、なんだか少し硬い気がする。


「レシピも見ずに作ったからな当然だ」


 美味しくないわけではないのだが、全体的に食感がモソモソしている。


(でも……)


 美味しいケーキは毎日料理長さんが出してくれるけれど、このケーキは甘くて温かくて。

 なんだか嬉しくて、ぼろぼろと涙が出てきてしまった。


「なんで泣くんだ……」


 ヴィクター様がぎょっとした顔をしてこちらを見た。


「こうやって、皆でパーティーができるのが嬉しくて」


 私は涙を拭いながら笑った。


「何でもない日なのに?」

「何でもない日でも、とっても嬉しいです!」


 私は感激しながら言った。

 パーティーがこんなに楽しいなんて忘れてしまっていた。


 誰かと一緒に笑って、お菓子を食べて、お茶を飲む。ただそれだけなのに、胸がいっぱいになる。


「お前、誕生日はいつだ」


 ヴィクター様が唐突に聞いてきた。

 あまりに脈略がなさすぎて、疑問符を浮かべながら答える。


「えーっと、確か3ヶ月後ですが……」


 私が生まれたのは、ぽかぽか暖かい春の日だったそうだ。誕生日なんて長らく祝われていないから、思い出しながら答える。


 私の誕生日を聞いたヴィクター様は少し考えるように黙った。

 それから、彼は口元を手で覆いながらそっけなく言った。


「じゃあ、こんなパーティーよりも、もっと盛大に祝ってやる」

「……っ!」


 その言葉に、私は思わず息を飲んだ。

 誕生日を祝ってくれるだけでも嬉しいのに、こんなことを言ってくれるなんて。

 あまりに嬉しくてうさぎのように飛び跳ねながら、ヴィクター様に近づく。


「本当ですか!」

「……ああ」

「本当に?」

「しつこい。近寄るな。席に座れ」


 ヴィクター様は私の顔をぐいっと押し返すものだから、私は変な声を上げながら後ろに後ずさってしまう。

 その様子をオリバーさんが、保護者のように見守りながら笑っていた。


「それは楽しみですね」

「はい!」


 夜のお茶会は、それから遅くまで続いた。

 ヴィクター様も、いつもより表情が柔らかくて。オリバーさんは色々な話をしてくれて。


 私は、この時間がずっと続けばいいのにと思った。


 ◇


 数時間後。

 盛り上がりすぎて、一人だけワインを飲んでしまったオリバーさんは、ソファで爆睡していた。

 途中、酔い過ぎてヴィクター様のモノマネをし始めた時は、彼がクビにならないかと冷や冷やした。


「全く、なんなんだこの従者……」

「ははは……」

「使用人がコイツ一人じゃなかったら、クビを切っていたところだった」


 主人に呆れられているとも知らず、彼は穏やかな寝息を立てている。明日の朝がくるのが楽しみだ。


 テーブルには、空になったお皿と紅茶のカップが残っていた。


 食欲が無いと食事を残すヴィクター様も、ケーキは完食してくれたのだ。

 時計を見ると、時刻は深夜三時を回っていた。


「楽しかったです!……夜っていうのが、また背徳感があっていいですよね」

「そうなのか?」

「はい! みんなが寝ている時間に起きているって、なんだか特別な感じがします」


 怪訝な顔をしているヴィクター様に、私は告げる。


「本当にありがとうございました!」


 まるで本当におとぎ話のようだった。魔法使いと一緒に、夜のお茶会をする。そんな素敵な時間。

 普通の人間だったら、すぐに寝てしまったかもしれないけれど。


「このパーティー、ヴィクター様じゃないと出来なかったことですよ!」


 先日のお返しのように私がそう言うと、ヴィクター様は目を見開いて固まった。まるで凍り付いたように動かなくなる。


「ヴィクター様……?」


 彼は顎に手を当てて何か考えるように黙りこんだあと、小さく呟いた。


「そうか」


 そう言った口元は、なぜか緩んでいて。


「そうか……」


 もう一度繰り返して、ヴィクター様は真っ暗になった窓の外を見ていた。


 そんなヴィクター様の横顔を見ながら、私は椅子に座ったまま、だんだんと眠くなってきた。うつらうつらしていると、ヴィクター様がこちらに気が付く。


「眠いならさっさと寝ろ」

「全然眠くないです……」


 そう言いながらも、瞼が勝手に落ちてくる。

 もう少しだけ、この時間を楽しみたい。そう思ったけれど、やはり体は正直なようで。


「……本当に、変なヤツめ」


 そんな声とともに、ふわりと毛布が肩に掛かる気がした。

 それがとっても温かくて、柔らかくて。

 私は、そのまま眠りに落ちたのだった。



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