14話 「出来損ない」と「出来損ない」④
テーブルには、焼きたてのケーキ、オリバーさんのお菓子、薔薇の花の描かれた紅茶のポットが並べられた。
「わーっ!」
私は思わず、ぱちぱちと小さく拍手した。
「ずっとこういうの憧れてたんです。パーティーなんて、いつぶりだろう!」
両親が亡くなって叔父に引き取られてからというもの、パーティーなんて一度もなかったように思う。
自分の誕生日もずっとひとりだった。ベアトリスの誕生日パーティーには呼ばれることもなく、私は部屋で一人、寂しく過ごしていた。
「いただきます!」
さっそくケーキを口に入れると、なんだか少し硬い気がする。
「レシピも見ずに作ったからな当然だ」
美味しくないわけではないのだが、全体的に食感がモソモソしている。
(でも……)
美味しいケーキは毎日料理長さんが出してくれるけれど、このケーキは甘くて温かくて。
なんだか嬉しくて、ぼろぼろと涙が出てきてしまった。
「なんで泣くんだ……」
ヴィクター様がぎょっとした顔をしてこちらを見た。
「こうやって、皆でパーティーができるのが嬉しくて」
私は涙を拭いながら笑った。
「何でもない日なのに?」
「何でもない日でも、とっても嬉しいです!」
私は感激しながら言った。
パーティーがこんなに楽しいなんて忘れてしまっていた。
誰かと一緒に笑って、お菓子を食べて、お茶を飲む。ただそれだけなのに、胸がいっぱいになる。
「お前、誕生日はいつだ」
ヴィクター様が唐突に聞いてきた。
あまりに脈略がなさすぎて、疑問符を浮かべながら答える。
「えーっと、確か3ヶ月後ですが……」
私が生まれたのは、ぽかぽか暖かい春の日だったそうだ。誕生日なんて長らく祝われていないから、思い出しながら答える。
私の誕生日を聞いたヴィクター様は少し考えるように黙った。
それから、彼は口元を手で覆いながらそっけなく言った。
「じゃあ、こんなパーティーよりも、もっと盛大に祝ってやる」
「……っ!」
その言葉に、私は思わず息を飲んだ。
誕生日を祝ってくれるだけでも嬉しいのに、こんなことを言ってくれるなんて。
あまりに嬉しくてうさぎのように飛び跳ねながら、ヴィクター様に近づく。
「本当ですか!」
「……ああ」
「本当に?」
「しつこい。近寄るな。席に座れ」
ヴィクター様は私の顔をぐいっと押し返すものだから、私は変な声を上げながら後ろに後ずさってしまう。
その様子をオリバーさんが、保護者のように見守りながら笑っていた。
「それは楽しみですね」
「はい!」
夜のお茶会は、それから遅くまで続いた。
ヴィクター様も、いつもより表情が柔らかくて。オリバーさんは色々な話をしてくれて。
私は、この時間がずっと続けばいいのにと思った。
◇
数時間後。
盛り上がりすぎて、一人だけワインを飲んでしまったオリバーさんは、ソファで爆睡していた。
途中、酔い過ぎてヴィクター様のモノマネをし始めた時は、彼がクビにならないかと冷や冷やした。
「全く、なんなんだこの従者……」
「ははは……」
「使用人がコイツ一人じゃなかったら、クビを切っていたところだった」
主人に呆れられているとも知らず、彼は穏やかな寝息を立てている。明日の朝がくるのが楽しみだ。
テーブルには、空になったお皿と紅茶のカップが残っていた。
食欲が無いと食事を残すヴィクター様も、ケーキは完食してくれたのだ。
時計を見ると、時刻は深夜三時を回っていた。
「楽しかったです!……夜っていうのが、また背徳感があっていいですよね」
「そうなのか?」
「はい! みんなが寝ている時間に起きているって、なんだか特別な感じがします」
怪訝な顔をしているヴィクター様に、私は告げる。
「本当にありがとうございました!」
まるで本当におとぎ話のようだった。魔法使いと一緒に、夜のお茶会をする。そんな素敵な時間。
普通の人間だったら、すぐに寝てしまったかもしれないけれど。
「このパーティー、ヴィクター様じゃないと出来なかったことですよ!」
先日のお返しのように私がそう言うと、ヴィクター様は目を見開いて固まった。まるで凍り付いたように動かなくなる。
「ヴィクター様……?」
彼は顎に手を当てて何か考えるように黙りこんだあと、小さく呟いた。
「そうか」
そう言った口元は、なぜか緩んでいて。
「そうか……」
もう一度繰り返して、ヴィクター様は真っ暗になった窓の外を見ていた。
そんなヴィクター様の横顔を見ながら、私は椅子に座ったまま、だんだんと眠くなってきた。うつらうつらしていると、ヴィクター様がこちらに気が付く。
「眠いならさっさと寝ろ」
「全然眠くないです……」
そう言いながらも、瞼が勝手に落ちてくる。
もう少しだけ、この時間を楽しみたい。そう思ったけれど、やはり体は正直なようで。
「……本当に、変なヤツめ」
そんな声とともに、ふわりと毛布が肩に掛かる気がした。
それがとっても温かくて、柔らかくて。
私は、そのまま眠りに落ちたのだった。




