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運命の錬金術師  作者: 夜行
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第玖話 ゴーレム


「ゴーレム!?」



 眼を見開いて驚くクラウ。しかし、その口には笑みがみてとれる。



「ただの人間がゴーレム!」



 地面に使われていたレンガなどがどんどんと膨れ上がりカタチをなしていく。高さにして三メートル近くはあるだろう。製錬されたゴーレムは掌を地面へとつける。そこにファルが立つと、ゴーレムは自分の肩へとファルを乗せ換えた。足を組んでクラウを見下ろす。



「なんつー圧迫感だよ! そうか錬金術師。やるねぇ」



 錬金術師といってもただの人間だ。ゴーレムの姿を見るにそれは人間が創りだせる範疇を超えているようにも見える。だが、そんな事はどうでもいい。



「俺がゴーレムの弱点を知らないとでも」



 ゴーレムの身体には必ず『emeht』という文字が刻まれている。そしてゴーレムを破壊するには頭文字である『e』を消して『meht』、死んだという意味にする必要がある。これは有名な話で知らない方がおかしい。



「……やれ! ゴーレム」



 ファルはもちろんそんな弱点の事を知っている。だから工夫をする。それが人間という生き物だ。



「んじゃ、ま、対よろ」



 巨大な拳がクラウ目掛けて振り下ろされる。しかし、拳と地面の間にもちろんクラウはいない。



「ん~やっぱおせぇなぁ」



 ゴーレムは力はあるがスピードがない。それもわかっている。クラウはゴーレムの攻撃を避けながら観察する。背中に回るがそこにも書かれていない。こちらからの攻撃は無意味なので手は出さずに文字を見つけることだけに専念する。


 そして一通り見たが文字は見つけられなかった。いったん距離を置いて考える。



「ん~背中はなかった。足の裏にもなかった。もちろんあいつが座っている肩の上にもない」



「諦めて帰ったらどっすか?」



「ん~」



 心当たりが一つだけある。きっとあそこしかないだろう。しかし、その場所は危険もある。だから気が付いてないフリをして隙を伺う。



「このゴーレムは完璧だからね」



 自分の腕を自慢するように滑らかに口が滑る。



「私のような美少女錬金術師の手にかかれば――」



「アルさんッ!」



 油断大敵。狗飼が注意を促すも一手遅い。それを見逃すクラウではない。


 クラウは一気に距離を詰めた。ファルとの距離は手が届くほどに。ゴーレムを必ず壊す必要はどこにもない。術者が消えれば自動的にゴーレムも消滅する。



 しかし――。



「ここだろ?」



 クラウはゴーレムの顔面にしがみつき、右足で下顎を、左手で上顎を持って口をこじ開けた。



「ビンゴ」



 舌に羊皮紙が張り付けられ、そこに文字が刻まれていた。右手で素早く『e』の文字をかき消すとゴーレムは崩れ去る。


 地面にちょこんと座るファルは眼を見開いて、自分の心臓の音を聞いていた。確実に死んだと思った瞬間だった。あそこでゴーレムではなくこちらを攻撃する事も出来たはずだ。



「な、なんで……」



「文字を見つけて消すっつーゲームだからな」



 不正な事はせずに真っ向から立ち向かってそれを撃破する。その瞬間がこの世でもっとも気持ちがいい瞬間だとクラウは続けた。


 負けた。完全に負けた。そして情けをかけられている。相手の方が二枚も三枚も上手だった。



「ただの人間にしてはやる方だと思うっすよー」



 しかし、だからと言ってここで諦める訳にはいかない。諦めるイコールそれはリアの死なのだ。

 狗飼が放心状態のファルの肩にポンと手を置く。



「お? 第二ラウンドっすか」



 人数はこちらが上でも圧倒的に分が悪い。きっと衛兵が来たところでこの戦況は覆らないだろう。相手にするべきではなかった。最初から逃げる事に全力を注げばよかったと後悔の念が押し寄せる。


 そしてクラウが一歩前に出た瞬間だった。



『そこまでだ』



 低い声が響いた。



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