第拾話 今は
声の出どころを探す。しかし、その場には四人しかいないのは明白だった。そして声はクラウから聞こえた気がした。
『何をやっているクラウ』
「いやっ、その~……」
バツの悪そうな顔をして必死に言い訳を考える。どうやら声はクラウがしている首飾りから聞こえる。妖しく光る紫色の宝石が首に掛けられていた。
「なんや、ギリか」
『その声は狗飼か』
旧知である二人はお互いを確認し合った。
『クラウが失礼をした。クラウよ。誰が戦闘をしていいと言った?』
「はーい、すんませーん。どんなもんか気になりまして」
その素直な返答により、それ以上の追及はしてこなかった。理解力の高さが伺える。
『退け、クラウ。もう目的は果たしただろう』
「なんや、逃げんの?」
狗飼が挑発的な言葉を投げる。しかし、それは強がりな事が容易にみてとれる。
『今のお前たちではクラウに勝つ事は出来まい。それに――』
宝石の向こう側から視られている気がした。
『ふん。今は助かったと喜んでいるがいい』
「今は?」
言葉に含みがあり、それを聞き返す。情報を少しでも得ることが必要だ。今はもう助かる事が確定していると言ってもいい。だったら何か今後の有益な情報を得るべきだ。
『次の満月の夜、我が軍を率いてその国へ攻め入る。精々対策でも考えるがよい』
聞き捨てならないその言葉。だが、それ以上文句を言ったところで何も変わりはしないだろう。それだけ知れて今は良かったと思うべきだ。
『お前たちは……』
「?」
言葉を突然切られて困惑する。魔王と呼ばれるその存在が言葉を選ぶような場面ではない。
『いや、何でもない』
「おい、なんや。言いたいことがあるならハッキリ言い」
『お前たち三人は馬鹿だと思っただけだ』
吐き捨てるような言葉だった。その言葉が言いかけた言葉だったのか、別の言葉だったのかは、本人以外にはわからないだろうが旧知である狗飼にはなんとなくわかった気がした。
『退けクラウ』
話は終わりだとばかりに命令を下す。それは三人にとっても都合がいい。
「んじゃ、対ありでしたー」
名残惜しむ訳もなく。その場には最初から誰もいなかったのではいかと思うぐらい、あっさりとした退き様だった。問題は色々と残っているし、時間も限られている。しかし、それを嘆いている暇などない。
それも今だけは静かな時間に身を任せたいと思わずにはいられない夜だった。




