第拾弐話 次の仕事まで
玉座というものはただ一人の為に存在する物。
それに選ばれた者が座ることで玉座というものは完成される。
ギリは閉じていた眼をゆっくりと開いた。今しがた通信を終えて意識をこちらに戻す。声と気配だけ感じとったが、向こうは相変わらずのようだった。呑気な事だと深いため息もつきたくなるものだ。どうせ誰も居ないのだ。たまにはいいだろうと誘惑に負けてみることにした。
「はぁああ……もうやだ疲れちゃったよ~」
先ほどとの低い声とは真逆の高い声。その見た目からでは想像できない声が口からでた。
「魔王も楽じゃないねぇ。なんでこんな辛い仕事やんなきゃなんないの~。早く後釜を見つけて僕も隠居したいよー。その時はクラウにでも魔王を譲ろうかなぁ。いや、でもそれは叶わないよねぇ……はぁ、つら」
湧き水のように愚痴がこぼれる。それはクラウが戻ってくるまで独り言は続いた。
「戻りました」
「うむ、ごくろう」
しっかりと魔王モードでお出迎え。
「クラウよ、やりすぎだ」
「すいませーん。なんか見てたら試したくなっちゃって」
それを聞いてギリは深く眼を閉じる。その気持ちは理解できるのだろう。あの平和ボケの連中を見ていると腹が立つのは自分も同じだった。
「お前がケガをしたら私がお前の妹に怒られるのだがな」
「いやいやいや」
何をご冗談を思うが、否定は出来なかった。
「クラウよ、兵を集めておけ」
「え? なんでです?」
「襲撃される」
「は? 誰にっすか?」
「狗飼だ」
「いやいやいや、それこそご冗談を」
「お前はわからんだろうが、狗飼とはそういう奴なのだ。必ず近い内にここに来る。準備もなくあれに暴れられたらここは崩壊するぞ」
「……了解っす」
にわかには信じられないが、ギリがそう言うのであれば、そうなのだろうしそれに従うしかない。
「それと、お前の妹が待っているぞ」
「……っす」
部屋を出ていくクラウを見守る。クラウにはあまりにも無理な事を言っている。それまでは極力ではあるが、望みがあるのであれば叶えてやりたいし平穏な生活を送ってほしいとも思い、また深いため息を吐くのであった。
部屋を出たクラウはとある部屋へと向かう途中で呼び止められた。
「お兄やん!」
甲高い少女の声。振り向かなくてもその声の主は容易にわかる。
「リム」
「おかえりお兄!」
「あ、あぁ」
元気いっぱいの圧に戸惑ってしまう。
「また危ないことしてたんでしょ!」
「仕事だ仕事」
「仕事って言えば許されると思ってるでしょ!」
ああ言えばこう言う。
「なに部屋から出てんだよ。あぶねぇだろ」
「お兄が帰ってきたって聞いたから!」
売り言葉に買い言葉を言い合うが、その歩調はいつの間にか合っていて隣を歩いていた。
「ね、面白いゲーム見つけたんだけど、一緒にやろ!」
「ん~疲れてんだけどなぁ」
「いいじゃん! 楽しければ疲れなんて吹っ飛ぶよ!」
「……次の仕事までな」
「やった!」
何事もない平穏も悪くないと感じた瞬間だった。それから数時間、声が枯れるまで二人は罵り合い笑い合ったのだった。




