452【06】『私の可愛い弟』
光の侯爵家。
六大侯爵の一翼。
序列六位。
序列が一番下位なのには理由がある。
誰もが異を唱える事が出来ない決定的な理由。
それは初代光の侯爵家当主が王の賢者ではないから。
例外中の例外になる。
建国の賢者は七人。
雷の賢者はアクランド王国初代国王陛下その人なので、六大侯爵には属さない。
しかし、初代聖女も初代王妃の為、侯爵家を興してはいないのだ。
つまり賢者の数を考えれば侯爵家は五家になるはず。
しかし侯爵家の数は六家。
つまり一侯爵家初代当主だけ賢者自身ではなくなるのだ。
それが光の侯爵家初代当主である大聖女の弟。
聖女の大動脈ではなく、静脈のようなもの。
兄弟の血筋か……。
親子ほどには近くはないけれど、王家や公爵家、更には侯爵と続く貴族の中で、兄弟が家を継ぐなどは良くあること。初代大聖女からみれば次代は甥っ子になるのだから。
間違いなく血も繋がっているのだから。
それにしても王が七賢者以外の者に侯爵家を興させるなんて、意外というか例外を作るなんて少し珍しいというか、どういう意図なのだろうか。
当たり前だが他の賢者にも兄弟はいる。
しかし、家を興させたのは初代聖女の弟のみ。
興さなければいけない理由があったのか、もしくは特別に目を掛けていた者だったか。
王妃の実弟なのだから、目を掛けていたのは間違いないのだろう。
それだけではないんだろうとも思うが。
私の弟であるリエトはシトリー伯爵家の跡継ぎで、あの領地を治めている者になる。
アシュリ・エルズバーグが立て直し、それをリエトが引き継ぐのが正当な流れだけれど。
父が引退するその時が、引き継ぎのタイミングになる。
まだまだ先だとは思うが。
シトリー領にも親族の人手が出来て良かった。
父の実妹と義弟と実子。
なんとかなるといいな……。
私もスギナ茶の販路を作りたいし。
お茶と蜂蜜の里にするんだし。
私に可愛い弟がいて、
初代大聖女にも王が目を掛けるくらいの弟がいたのだなと思う。
弟自体がいることは珍しくもなんともないのだが、微妙な共通点が僅かに気になると言えば嘘じゃない。
瞳の色も一緒で、
属性も一緒で、
武器を本人から託されたとあっては………
私はあの毒蝶のような王妃陛下の前で、大聖女ではありませんと啖呵を切れるだろうか?
彼女は私を大聖女に違いないという。
だから王太子妃にと迫ってくるのだ。
その主張を交わすには、私は大聖女であってはならない。
当人の私ですら、僅かな揺らぎを感じているのに。
「第二聖女?」
思考に耽っていると、女王陛下が私を呼ぶ。
「今宵は我が晩餐会を開く」
「……晩餐会ですか」
「そうとも。先程約束したであろう? 夜な夜な女子会トークをすると」
「確かに、そのような約束をしましたね」
私がこの聖女のタクトを受け取りに別空間に行く前に。
「夜通し続く晩餐会だ。そこで我と長い長い話をしながら、二人を待つとしよう」
……二人とはルーシュ様とシリル様で合っていますよね?
ここにいないのは紫の賢者であるアシュリ・エルズバーグだけじゃない。
金の賢者であるシリル様も、紅の賢者であるルーシュ様もいない。
「彼らは彼らの武器を手に入れる回廊の中。我らは我らで待つことしか出来ぬ。彼ら二人の為に其方は最高に着飾って待つのじゃ」
……そこまで着飾る必要が?
ルーシュ様とシリル様を待ってから晩餐会なのではなく、晩餐会をしながら待つのですか?
「紫の賢者が次に現れた時。その刻限までが宴の時」
「…………」
「一日か二日かそれは分からぬ。彼が最良と判断した刻限が一番成功率が高いということ。ならば我らはその刻限を守るのみ」
女王陛下がそう言い切ると、彼女はベルを鳴らす。
でも私にはそのベルの音が聞こえなかった。
空気は振動しなかった。
私には聞こえない音なのだ。
きっとその音を捉えることが出来るのは、精霊といわれる者達なのだろうと、私はそんな風に思った。









