69
カツッッ、コツコツコツコツコツッ
バタンッ
「メイッ!!」
「はい、ルイーゼ様」
「今すぐアイツのこと調べさせて!」
「かしこまりました」
ドスッ
「ふんっ……気に入らないわ!お揃いのブレスレットって!なにっ!?ほんと、厚かましいにも程がある!!」
「お父様、お母様、お兄様、おはようございます」
「おはよう」
「よく休めたかしら?ソフィア」
「はい、お母様」
「ソフィ、おはよう。今日も可愛いね」
ルルヴィーシュ公爵家では穏やかな朝食の時間が流れていた。
「ソフィア、これで一段落。お披露目も無事終了だ。少し身体を休めて、ゆっくりしなさい」
「お父様ありがとうございます」
「陛下からも労いの言葉を賜った。皆、ご苦労だったな。
それと、スピア国のルイス王太子殿下とルイーゼ王女殿下は見識を深めるため暫く滞在なさるそうだ。アルベルト殿下とエドモンド殿下にご対応いただく。
……無いとは思うが、何か依頼があれば協力を頼むぞ」
「「はい」」
……お父様……無いとは思うではなく、無いと言ってくださらないかしら……はぁ……
再び嫌な予感がしながらも、ソフィアは微笑を浮かべていた。
ルルヴィーシュ公爵家には毎日沢山の夜会やお茶会の招待状が届いていたが、爵位の高いルルヴィーシュ家にとって断れない招待はそう多くない。
ソフィアは、さくらに様子を見に行く以外は屋敷でのんびりと過ごしていた。
「そろそろ、魔法省と騎士団にも行かなくてはならないわね」
「毎日、お手紙が届きますから。お嬢様にお会いしたくて仕方ないみたいですね」
「ジル様は沢山の企画書があると仰ってるし、団長も新しい施設建設の相談があるとか……ん~っ、1日では足りないかもしれないわ」
『ソフィア、王城に行くの?』
『やめといたほうがいいんじゃない?』
「どうして?」
『だって、ルイーゼいるじゃん』
『そうだよ、意地悪されるよ、絶対!』
「絶対なの?」
『もちろん絶対だよぅ!』
『そうそう』
そうなのよねぇ。出来れば私もこの期間に王城は避けたいけれど、ずっとこうしているとジル様や団長に申し訳ない気がして落ち着かない……
ルイーゼ様に会わなければいいのだからと思ったんだけど……
「お嬢様、奥様がお呼びだそうです」
悩んでいたソフィアの思考をステラの声が遮った。
コンコンコンッ
「お母様、ソフィアです」
「ソフィア、こちらへ」
「はい」
お母様と向かい合ってソファに腰を下ろすと、直ぐにステラが紅茶を淹れてくれた。
「ソフィア、これが届いたわ」
お母様が差し出した招待状は煌びやかで、いかにも高貴な方からだとは分かったが、残念ながらソフィアの好みとは違う様式だった。
開いてみて、やっぱり……それは、ルイーゼ王女殿下からのお茶会の招待状だった。
「ルイーゼ様からですね」
「そうなの。困ったものね。早くお帰りになればいいものを」
実は社交界では、既にルイーゼ王女の素行の悪さは噂になっていたらしい。
社交の場に出ていなかったソフィアとは違い、度々顔を合わせていたお母様にとって、ルイーゼ王女の印象はすっかり悪いものとなっていた。
「毎日あちこち殿下たちを連れ回して!アルベルト殿下に至っては、常に殿下が距離を置こうとしてるのは明らかなのに、べ~ったりくっつこうとしてはしたない!王女の品格なんて持ち合わせてないわ!」
お母様がここまではっきり言うのも珍しい。
「アレクとエリーもイライラしてるくらいよ!女性には偉そうに見下す態度で、男性には甘えた態度なのも嫌悪感しかないわ!スピア国なんて希少な鉱物が採れなければ、ただの小国でしょ?」
「お母様っ。少し落ち着いてください」
そこでお母様はカップを手に取り、優雅に紅茶を飲み干した。
「私の友人たちに対しても毎回失礼な態度で、本当に腹立たしいのよ!
……ふぅ、まぁいいわ。
それより今はこの招待状よ。いよいよ私の娘にも手を出そうとしてきたわ!
ルルヴィーシュ公爵家を甘く見られては困るわね、ふんっ!!」
「そのようなことになっていたのですね。私、何も知らずに申し訳ありません」
「何を言ってるの。ソフィアが謝ることなんて何もないわ。あちこちコソコソと嗅ぎ回ってるようだけど、手は打ってあるの。ソフィアは安心して出席なさい」
「?……はいっ」
「大丈夫よ。シリウスを同行させるわ。どうせ向こうは殿下たちを引っ張ってくるでしょうから」
「??はい、わかりました」
ガチャ……バァ~ン!!
王城の貴賓室の扉が勢いよく閉められた。
「ルイーゼ!!いい加減にしろ!昨夜も伯爵家の令嬢を泣かせ、更には怪我まで負わせたそうだな!!」
「お兄様、声が大きいですわ。それに、怪我なんて大袈裟な。少し擦りむいた程度でしょ?」
「ルイーゼ!程度がどうこうではない!ここは自国ではないのだぞ!そのような態度ならば、今直ぐに帰国させる!!」
「お兄様!私はアルベルト様に近づく令嬢を軽くあしらって差し上げただけです!私がアルベルト様の妃になるのを反対なさるおつもりですか?」
「ふんっ!お前がドリエントル国のような大国の妃に?本当になれるとでも思っているのか!!」
「スピア国には世界で唯一採れる鉱石があるではないですか。希少な鉱石を欲しがるのは大国とて同じでしょう?私はどんな手を使ってでもこの国の妃になってみせますわ!」
「夢のような話はやめろ!いいか?今度問題を起こしたら庇い立てできない。その時は有無を言わせず帰国させるからな!いいな!!それから、ソフィア嬢に招待状を送ったらしいが、変な考えは捨てろ!もしソフィア嬢に何かあれば、ドリエントル国は完全に敵にまわるだろう。忘れるなよ!!」
ルイス王太子はそれだけ言うと、力強く靴音を鳴らしながら、部屋を出て行った。
「なによ、お兄様ったら。怖気づいて情けない。メイ?計画は順調よね?」
「はい、お嬢様。しかし、王太子殿下に知られたら……」
「メイ!余計なことは言わないで!」
「……かしこまりました」
晴れ渡る空の下、いよいよルイーゼ王女殿下主催のお茶会が開催されようとしていた。




