68
霞がかった柔らかい青色の空に、風に乗った桜の花びらが、ブワーッと華やかに舞踊っている。
その中を真っ白なビビが跳ねるように飛び回る。もちろん、2メートルはあろうかという大きさだ。
ターコイズブルーの羽根を大きく広げたトットも優雅に飛んでいる。
プラチナブロンドの毛並を煌めかせ、駆け回るように飛んでいるのはポポだ。
人々は歓声を上げ、手を振りながら美しい光景に熱狂している。
そう今日は、創生の魔法を使う者であるソフィアと、創生の魔法を使う者を守護する者であるビビ、トット、ポポのお披露目会だ。
少し前。
王城のバルコニーにソフィアたちは揃って姿を現した。
この日のために誂えた衣装を身に着け、厳かに登場した面々に人々は興奮した声を上げ、熱烈な拍手を送った。
珍しく通常の大きさで登場したビビたちだったが、姿を現したと同時に上部に巨大なスクリーンが現れ、ソフィアたちの姿は集まった多くの民衆にもはっきりと認識できるよう映し出される。
その瞬間の民衆の歓声は凄まじく、ソフィアは鼓膜が破れるかと思ったほどだった。
デルモント・ アレクサンダー・ドリエントル王により、ソフィアの創生の魔法を使う者としての宣言と、ビビたちの存在の表明が発せられる。
と同時に、城の庭園に数十本の大木がメキメキと育ち、桃色の可憐な桜の花が一気に満開となった。
ビビたちが一瞬で大きくなり空へと飛び立つと、桜の花びらは枯れることを知らないように次々と舞い上がり、あっという間に空を覆っていく。
そして、人々はこの美しい光景に熱狂するのであった。
「あぁ。これがソフィア様が仰っていた桜なのね!」
「凄いわっ!本物の桜よ、あなた!」
「きれー、きれー、おにーちゃん!」
当然『さくら』のメンバーは特等席で見守っている。
そして初めて見る桜の木の美しさに、瞳を潤ませながら声を震わせるのだった。
この桜の花の演出は、あの日、桜を知ったアルベルトとシリウス、そしてソフィアによって提案された。
スクリーンの映像は魔法省の努力によって、実現に至った。
多くの騎士が警備にあたり、混乱を抑え、何とか滞りなく終えることができたのだ。
「とりあえず終わったわ、はぁ」
「お嬢様、お疲れ様でした。ハーブティーをお淹れしますね」
「ありがとう、ステラ」
控え室に戻ったソフィアは、人々の熱狂にあてられ、ぐったりだ。
「夜にはパーティーがありますから、ベットでお休みください」
「そうね」
そうなのだ。夜には同盟国などの賓客や、貴族たちとのパーティーがある。
陛下は気楽に過ごして構わないなどと軽く仰っていたが、さすがにそうはいかない。いくらこちらが大国とはいえ、他国の王族もいらっしゃる…正直、気が重いとしか言えない。
少しでも体力を回復するべく、ソフィアはハーブティーを飲むと、直ぐにベットに潜り込んだ。
ステラに声をかけられて目覚めると、いつの間にかビビたちやシロも同じベットで眠っていた。
はぁ…いよいよパーティーね。
ドレスに着替え準備を整えた頃、シリウスが迎えにやって来た。
「ソフィ、体調は大丈夫かい?」
「お兄様、平気ですわ」
「うん。それじゃあ、行こう。父上たちが待ってる」
「はい」
王城の大広間。
改めて陛下よりソフィアとビビたちの紹介があり、パーティーは華やかに始まった。
今日の主役であるソフィアには、次々と挨拶にやって来る人がいる。ソフィアが幼い為、ルルヴィーシュ公爵家で揃って挨拶を受けるが、貴族たちの取り入ろうという熱意はかなりのもので、ルルヴィーシュ公爵家側は皆が作り笑いを貼り付けている。
何とか貴族たちをやり過ごしていると、アルベルトとエドモンドが、同盟国の王族と共にやって来た。
「こちらは隣国スピア国の王太子ルイスと王女ルイーザ」
アルベルトより紹介された二人は、薄い金色の髪に金色の瞳という容姿で、王族らしい品格を持っていた。
「初めまして、お目にかかれて光栄です。ルルヴィーシュ公爵家当主ベンフォーレに御座います。隣が妻の……」
ベンフォーレが紹介をしている間、二人は微笑みを浮かべ、終始友好的な様子だった。
ソフィアはほっと胸を撫で下ろす。実は先程会った他国の代表たちの中には、随分と横柄な態度をとる人達も居たのだ。
良かったわ。ルイス王太子とルイーザ王女はとても穏やかな方たちみたい。二人ともお人形さんみたいに美しいし、優しそうな笑顔だわ。
そんな風に安心していたところ
『あの子嫌い』
『私も』
『僕も』
と、ソフィアの耳元でボソボソとビビたちが囁いた。
ビクッっとしたソフィアだったが、笑顔をやや引き攣らせながらも何とか耐えた。
??何を言っているの?
「ソフィア嬢、初めまして。創生の魔法という素晴らしいものをお持ちの令嬢と聞き、どのような方かと期待に満ちて参りましたが、気品溢れる可憐なソフィア嬢に逢えたことは、この上ない幸せです」
ルイスのこの言葉にベンフォーレとシリウス、アルベルトとエドモンドが目を光らせた。
「ルイス王太子殿下、勿体無いお言葉で御座います」
「どうかルイスと呼んでください」
はっ?!無理無理……他国の王太子をまさか敬称なしなんて……
「まあまあ、お兄様。ソフィア様を困らせるものではありませんわ。ソフィア様、私はルイーゼ。よろしくね」
「ルイーゼ王女殿下。よろしくお願いいたします」
助かった……ふぅ。ありがとうございます、ルイーゼ王女殿下!
二人は来た時と同じく、アルベルトとエドモンドと一緒に戻って行く。
これで他国の賓客とは挨拶終わりね、と一息つこうとしたソフィアは
「ふんっ、チビのくせに生意気ね!アルベルトは渡さないわ!!」
という言葉に固まった……
頭を下げ見送っていたソフィアの耳元で囁いたのは、ルイーゼ王女だった。
驚いて振り返ったソフィアの目には、ドレスの裾をわざとらしく翻し、コツコツとアルベルトに近寄って行く、ルイーゼ王女の姿が見えた。
『『『ほらねっ!!!』』』
こっちかぁーーー!!!
ビビたちが嫌いなのは、話し出すと圧を感じさせるルイスの方だと勝手に思っていた。
ソフィアは、自分の勘違いに気付いたと同時に、とんでもなく面倒な展開に巻き込まれそうな予感がした。




