60.最終話 Always with you。
***前回のあらすじ***
デュォフォルツェンってのはこっちでは実はあんまり良い印象では無いらしい。イング達に拾われたのは、幸運だったみたいだ。3日間の旅を終え、俺は懐かしいジルヴラヴィフ・ヴェント──ギルドへと戻ってきた。皆が乾さんの歓迎会と俺の復帰祝いをしてくれる。俺の持ってきたスマホの動画は大好評だった。
オヤジ共は未だどんちゃん騒ぎだ。ガキンチョ達は受付嬢のエルナが部屋へと連れて行った。
俺とアシュリーは、夜風にあたろうと外に出て、樹の上で並んで月を眺めて居た。久しぶりのこっちの空は、相変わらず凄く澄んでいて星が降って来そうだ。
「──でね、これが俺の妹。千佳っての。こっちが親父で、こっちがお袋。こいつはシンって言って俺の幼馴染なんだ」
「あ、この子はユウヤが帰ってきたときに一緒に居た子だね。 ユウヤってお母さん似なんだ?」
俺達は頬を寄せ合うようにして一緒にスマホを眺めて居た。アシュリーに俺の家族を見せたかったんだ。
「──なぁ。やっぱ、向こうに帰りたくなった?」
「家族は大事だけど、俺はお前の傍が良いよ。此処が良いんだ」
俺がそういうと、アシュリーはほっとしたように笑った。
アシュリーの顔を見て、俺は背負っていたリュックから、ゲーセンで取ったぬいぐるみを引っ張り出す。
これ、手触りめちゃくちゃ良いんだよな。大きなウサギのぬいぐるみ。
わぁっと小さく歓声をあげ、ぬいぐるみを目をキラキラさせて見るアシュリーの腕の中にぽすんっと押しつける。
アシュリーが目を輝かせ、ぬいぐるみをぎゅぅっと抱きしめた。
「うっわ、柔らかーい! ふっかふか! 可愛いーっ!」
いや、可愛いのはお前だろ。
普段男っぽいのにこういう可愛いの好きなんだな。ギャップ萌えっていうんだろうか。こういうの。
「やるよ。アシュリーに土産」
「ありがと! けど、一番嬉しいのはユウヤがちゃんと戻って来てくれた事だよ」
「約束、したもんな」
「うん!」
「あ、後な。それから──」
「うん?」
俺はリュックのポケットから小さな紙袋を取り出した。
アシュリーがきょとんと俺を眺めて居る。
「サイズ大丈夫だと良いんだけどな──」
紙袋の中には、シルバーのリングが2つ。1つは自分用。もう1個は、アシュリーに。
安物だけど、ぱっと見で気に入って買ってしまった。手作りっぽい少し歪な形の素朴なリングには、『Always with you』の刻印。
あの時はアシュリーの事を覚えて居なかったから、一応店の人に、中学生くらい(に見えると日記に書いてあった)の子の平均的なサイズを聞いて買ったみたんだけど。
俺はそっとリングを1個手に取ると、アシュリーの左手の薬指にはめてみた。
気持ち緩めだったけど、小さくて入らないよりはまし。指輪はアシュリーの指に収まる。
ぱあ、っとアシュリーが嬉しそうに手を翳し、指に嵌ったリングを眺める。
「邪魔にならないかな」
「指輪だ! ユウヤの世界のヤツ?」
「そ。俺の世界だとね、そのー…。ぷ…プロポーズの時にこうやって指輪送るんだよ」
「え」
俺は恥ずかしくて顔から火が出そうだ。アシュリーが目を丸くして顔を真っ赤にして俺を見る。
こっちの世界じゃ、早い子だと15,6歳で結婚してる。
俺的には結婚とかはまだ先だとは思うけど、気持ちだけは伝えておきたかった。
「あ、いや、今すぐって話じゃないからな?! 言って俺だってまだガキだし! ただ、その、なんだ……」
うわー、クソ恥ずかしい。ガン見すんな。余計に言葉が出て来なくなるじゃないか。
「その…。うん。 俺の世界だと、左手の薬指に指輪嵌ってると、そいつは相手持ちって意味でもあるんだよ。俺はアシュリーの。アシュリーは俺の。って、意味っていうか、な?」
しどろもどろに言う俺の言葉を真っ赤な顔でアシュリーがじっと見てる。多分俺も相当顔が赤いと思う。人が一生懸命伝えてるってのに、アシュリーは口を半開きにして真っ赤な顔のまま俺を黙って見つめてる。間が持たないんだけど!?
「あのな、なんか言えよ!? 相当恥ずかしいんだからな!? ガン見すんじゃねー!」
「──あ。うん。俺もすげー恥ずかしい」
…そこかよ。
「…けど、嬉しい。うん、嬉しいや。へへっ。あ、ユウヤのヤツ貸せ。はめてやる」
「お、おう」
俺が指輪を渡して左手を差し出すと、アシュリーが紙袋を口に咥えて俺の指にリングをはめた。
指輪をはめると、指を絡めるようにアシュリーが俺の手を握る。
小さくて柔らかいけれど、女の子にしては、マメだらけの手。頑張り屋の手、だ。
アシュリーの抱えたぬいぐるみを、アシュリーの膝の上に下ろして、俺は両手で、指を絡めて手を握る。アシュリーがこつんと合わせた手に額を当てる。
「──もう、消えるのは駄目だからな」
「…ああ」
「──居なくなるなよ?」
「なんねーよ」
「浮気とか許さないからな」
「するわけねーだろ、ばぁーか」
アシュリーの声は囁く様に小さくて、少し甘えた様な声は、溶けそうな程に甘い。俺も自然と声が小さくなる。
内緒話の様に囁きながら、額を合わせる様にして、俺達はくすくすと笑う。
「約束だぞ。ゆびきりげんまん」
「嘘ついたら、──何飲まそうか」
「キス100回な」
「罰になんねーな」
くすくす、くすくす。アシュリーの膝の上のぬいぐるみの顔を、俺は片手で横に向ける。だぁーめ。この先は、誰にも見せてやるもんか。
フェイドアウト。──俺の独り占めだ。
***
「ユウヤ!」
「任せろ!」
駆け出していく漆黒の風。相変わらずイングはめちゃくちゃ恰好良い。
続く様に駆けだすゴッドの投げた戦斧が敵をぶった切る。豪快なゴッドもバトルマンガの主人公みたいだ。
アシュリーの矢が敵を射抜く。水色の髪の少年ぽいけど美少女。
俺とアシュリーのサポートで、イングとゴッドが次々に敵を倒していく。
流れる様な詠唱が響き、ナオ──乾さんの手の中のスクロールが輝く。
彼は微力ながら魔力を持っていたらしい。
後方支援の術者だった。その傍らにはビアンカが杖を構え詠唱をする。
スクロールの光を受けた蔓草が発光し魔物へと絡みつき、僅かの間足止めをする。
ビアンカの詠唱は彼の魔力を高めるらしい。
俺はというと、未だに殺す事は怖い。
殺傷能力の無いスリング──パチンコだ。
何せ弾は当たっても砕けるだけの香辛料入りの木の実の殻だもんな。
華やかさは欠片も無い。
目立たない、地味な役どころ。
それでも、俺に合っていると思うし、サポートに関しては悪くないと思っている。
俺は、今でもモブのままだ。
こっちの世界では珍しくとも何ともないとある街のとあるギルドの一員。
バトルなんかはあるけれど、ここではそれは日常だ。
普通と違うのは俺がデュォフォルツェンって事と、2度目の異世界転移者だって事くらいだ。
でも、それを知っている人は、ギルドのメンバーだけ。有名には程遠い。
ちょっと見た目が違う、日本から見た外国人程度の存在だ。
今でも自他ともに認める程イケメンには程遠いし、モテもしない。──彼女以外にはモテたくないからその方が良いけど。
恰好良く無くて、俺Tueeeでも、ない。
金持ちでも無ければ、チートな力はおろか、この世界じゃポンコツだ。
だけど、俺はそれでいいと思っている。それが良いと思っている。
物語ってヤツは、主人公だけじゃ成り立たないんだ。
脇役が居るからこそ、主人公が輝く。
俺は自分が一番目立つより、誰かを輝かせられる今の俺を存外気に入っている。
怒る事もある。泣くこともある。苦しむ事も、悩む事も、良いことも辛いこともある。
誰もがそうであるように。そこは主人公もモブも、同じだ。
モブな俺は、モブなまま、この異世界で平々凡々な物語を紡ぐ。
さしずめタイトルは、『モブな俺の異世界転移譚』、だ。
人目に触れる事なんて無くたって、これはちっぽけな俺の壮大な物語。
俺の放ったスリングは魔物の鼻先を捕らえる。
怯んだ一瞬の隙に、イングの剣が切り裂き、そのタイミングでイングへと飛びかかってきた魔物をアシュリーの矢が射抜いた。
同時にドゴォンっと轟音が響き、ゴッドの捕らえた魔物が樹に激突して血飛沫を上げる。
「っしゃ!」
敵を殲滅すると、アシュリーがぐっと拳を一度握りこみ、俺に向けて片手を上げる。
その指には、俺の贈ったシルバーリング。
俺も片手を上げてアシュリーへ向ける。俺の指にもお揃いのシルバーリングが月光にきらりと光る。
パァンっと手を打つと、俺達はそのまま手を握り、皆の許へと駆けだした。
アシュリーが最高の笑顔で俺を振り返る。俺も自然と顔が綻んだ。
好きだよ。愛してるよ。俺を選んでくれて、ありがとう。俺を好きになってくれてありがとう。待っていてくれてありがとう。
一緒に生きていこうな。何があっても、どんな時も、これからも、ずっと。
お前が一緒なら、どんなことにも立ち向かって行ける。
『Always with you』───俺はずっと、お前と共に、この世界で生きていく。
ご閲覧有難うございました!これにて完結で御座います。
安定の勢いのまま好きな事を書いた感じになりました。楽しかったー♪
コメントやご意見など頂けると泣いて喜びます。
此方もまたリクエストがあればこぼれ話を綴りたいなと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
==========================================
──Special Thanks──
全60話
初回投稿日2019年 06月01日 13時00分
最終投稿日 2019年 07月31日 22時09分
文字数163,843文字
総合評価 376pt
評価者数:15人
ブックマーク登録:120件
総合PV:26,184アクセス
ご感想:9件
2019/07/31 23:07現在




